■人事部の印象がいいラクロス部とアメフト部
「ラクロスやアメフトの評価が高いことの理由の一つには、文武両道の学生が多いことが挙げられます。野球やラグビー、サッカーなどの部活動出身者は、中学・高校から同じ競技を続けていて、部活動での成績が評価されて進学している場合が多い。そのため、学業面をおろそかにしてきた学生も少なくない。
一方で、ラクロス部やアメフト部がある中学、高校は少なく、基本的には大学から始めるスポーツです。すると、大学に入るまでの段階で一般入試、あるいは指定校推薦など、学業である程度優秀な成績を修めた学生ということになる。よって、企業側からすると、ラクロスやアメフトは、文武両道の学生であることが一目でわかる部活ということになり、近年、人気が高まっているのです」(中村さん)
評価の高い運動部に共通しているのは、団体競技であるということだ。団体競技を経験することは、就職にどのように有利になるのか。アスリートプランニングで企業への営業を担当する小笠原和也さんは言う。
「団体競技を経験してきた人の強みは、瞬発的なコミュニケーション能力を発揮できるところにあります。面接の場では、30分程度の面接時間のなかで人を評価しなければならない。となると、瞬発的に切り返しができたり、その場に応じた対応ができる人のほうが採用にいい影響を与えることは間違いない。団体競技経験者は、周囲の人間とコンタクトをとりながら競技してきた経験が生きます」
ところで、近年、採用方法にも変化が見え始めた。そのうちの一つが、「リクルーター制度」だ。リクルーターとは、人事担当者以外で、就活生とコンタクトをとる社員のことで、主に就活生と同じ大学出身者や、就活生と年齢が近い若手社員が担当するケースが多い。OB・OG訪問は学生側からのアプローチである一方、リクルーターによる訪問(面接)は企業側からのアプローチとされている。これが、「リクルーター制度」だ。00年代半ばには一時下火になっていたが、再びこの制度が注目を集め始めている。
まず、リクルーター制度は、実際にどのように行われるのか。都内有名私立大学の体育会テニス部出身者が、現場での様子を話してくれた。
「テニス部に人一倍愛着を持っているOBが、卒業後も頻繁に現役の学生の練習に顔を出して、練習に参加したり、コートに立って学生の様子を見ていたりしました。伝統的に、このOBが勤めている某大手銀行には、うちの大学の採用枠があることは学内でも有名。気に入った学生にはリクルーターから声をかけていましたし、一方で学生からリクルーターに自分を売り込むケースもありました」
このようにしてリクルーターが有力な学生を絞り込んだあと、学生はまずリクルーターと1次面接を行い、ほぼ100%の割合で2次面接に進んでいく。リクルーターの“お墨付き”になった学生は、よほどの問題がない限りは順調に役員面接まで進み、内定を得るのだという。
リクルーター制度の利点は、学生の適性と企業とのミスマッチを未然に防げることだ。自身も早稲田大学アメリカンフットボール部出身だというアスリートプランニングの小笠原さんは、次のように分析する。
「リクルーター制度に限らず、体育会出身者の強みの一つには、企業に直結した人脈があります。先輩から、その会社で働くことの利点や、辛い部分など、会社説明会よりもリアルな話を具体的に聞けるので、より現実的な想像をしたうえでその会社を志望することになる。
すると、入社後に感じるギャップも減ります。企業にとっては、退職のリスクを減らすというメリットがある。よって、企業内に先輩がいる学生の採用について、ある程度の信頼感を持っているのです」
また、サッポロビールでは、一昨年から事務系総合職で「オンリーワンコース採用」を実施しているという。これは、一つでも秀でた成績や体験を持つ学生への門戸を開いたものだ。「通常コース」という一般的な入社試験とは別にコースが設定され、スポーツ、文化・芸術・学業、社会的活動、異文化体験のうちから選択して、自身の経験をアピールすることができる。
「本年入社の例では、事務系総合職でで採用された45名のうち、10名がオンリーワンコース採用でした。経験として、スポーツの割合は高いですが、企業との共同開発や花火師など、幅広い経験を持った人財が集まっています」(萬谷さん)