- 2017年07月31日 07:35
加計問題、「総理のご意向」を仕組んだ“真犯人”は誰か ~恐るべき18歳の推理
2/2特区WGが「安倍首相の意向への忖度」を利用したとの“大胆な推理”
そして、そのような「特区WG主導のストーリー」から、北口氏は、次のような「大胆な推理」を行うのである。
和泉洋人首相補佐官が、前川前文科次官に対して「総理が言えないから、私が言う」と言って、獣医学部新設を認める方向での文科省の対応を促したこと、萩生田光一官房副長官が、文科省の高等教育局長に「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」という趣旨の発言をしたこと、そして、それらから、文科省側は「総理のご意向」を感じ取り、前川氏も総理の意向で文科省の行政が捻じ曲げられたと考えたことなどは、ほぼ事実である。
それらは、これまで、「『腹心の友』の加計氏の便宜を図ろうとする安倍首相の意向」に結び付けられてきたが、実は、安倍首相の「お友達」が経営する加計学園の獣医学部新設を俎上に載せれば、関係者に当然に「安倍首相の意向への忖度」が生じて、学部新設を早期に実現しようとすることを熟知していた特区WGの民間議員達が、それらを、丸ごと利用したのではないか。
北口氏は、「安倍一強」体制の下で、首相本人の意向が明確に示されなくても、それを確認することなく、「忖度」するのが当然の状況にあり、その構図をうまく利用すれば、「加計ありき」の獣医学部新設が「総理のご意向」によって進められているかのように認識し、猛烈な勢いでその実現に向かって邁進させることも可能だったのではないかと考えたのである。選挙で選ばれたわけでもない特区WGの民間議員達は、「忖度」の構図を巧みに操って、「獣医学部新設」で岩盤規制を打破するという彼らの目標を実現したのではないかと「推理」するのである。
この推理の下では、関係者の証言の多くが、矛盾なく整合していく。安倍首相は、加計氏から今治市での獣医学部新設について何の依頼も受けておらず、その認識すらなかったとの、「にわかには信じ難い弁解」が仮に真実であったとしても、「文科省の行政が捻じ曲げられた」との前川氏の主張と相反することもない。特区WGの仕掛けによって、官邸・内閣府側と文科省側という対立する両者が、いずれも「安倍首相の意向」のように信じ込んだということで、事実として両立するのである。
国家戦略特区という制度の歪みの現実化
唯一、リアリティに疑問の余地があるとすれば、特区WG民間議員達に、そこまでのことをする「動機」がどこにあるのか、という点であろう。しかし今回の加計学園問題は、国家戦略特区という制度の歪みが現実化したものと考えれば、特区WG民間議員達が、北口氏の「推理」どおりの動きをすることも決してあり得ないことではない。
国家戦略特区という制度の歪みと重大な問題を指摘する著書【国家戦略特区の正体】(集英社新書)を、加計学園問題が表面化する前の今年2月に公刊した郭洋春立教大学教授は、加計学園問題表面化後のインタビュー記事【疑惑は加計学園だけじゃない? デタラメすぎた「国家戦略特区」の“歪んだ行政”】で、次のように述べている。
そもそもの制度設計に重大な欠陥があります。その問題点が日本経済全体に長期的な悪影響を与えるよりも先に、加計学園問題で噴出してしまったと言えるでしょう。運用面も含めたそのデタラメぶりは私が想像していた以上かもしれません。
今治市の分科会に出席したメンバーを見ると、八田達夫という名前が出てきます。「民間有識者」という立場での出席ですが、アジア成長研究所所長・大阪大学名誉教授である八田氏は、実は国家戦略特区構想の制度で重要な位置を占める「ワーキンググループ」の委員でもある。この点は見逃すことができません。
ワーキンググループというのは、国家戦略特区に指定された各地域から上がってくる事業提案を審査する立場にある機関です。その立場にある人物が、各地域がどの事業を提案するかを考える分科会にワーキンググループの委員という肩書きではなく「民間有識者」という立場で出席しているのです。
郭教授は、特区WGの座長の八田氏の「利益相反的な立場」を指摘しているが、同氏とともに、特区WGで獣医学部新設に向けて中心的な役割を果たし、国会でも何回も参考人として「挙証責任」「議論終了」論を述べている原英史氏については、一層妥当する。
原氏は、「株式会社政策工房」の社長であり、同社の会長が高橋洋一氏である。同社の経営実態は不明だが、高橋氏は、以前、ラジオ番組で共演した際に、「政策や法律案を作ることに関する業務」と説明していた。国家戦略特区という制度に関して、原氏がどのような立ち位置にあるのか、規制緩和や特区の政策や運用について国からの委託を受ける一方で、規制緩和策によって利益を受ける事業者の側からも業務を受託していることも考えられる。
そのような立場の特区WG民間議員なのであるから、「岩盤規制の撤廃」で実績を上げることを至上命題とし、それに関する重要な案件である「獣医学部の新設」に、手段を選ばすに邁進したとの北口氏の推理も、あながち不合理とは言えないのである。
ストーリーは加計問題の「疑惑」を否定するものではない
北口氏の「加計問題の真実」で書かれている「特区WG真犯人ストーリー」にはリアリティがあり、それが真実であった可能性は十分にある。
そして、仮に、ストーリー通りであったとしても、国家戦略特区で加計学園の獣医学部の新設を認める決定を行ったことが、行政を捻じ曲げる不当ものであることに何ら変わりはない。特に、京都産業大学が応募を断念せざるを得なくなった「平成30年4月開学」の条件設定の合理的な説明は困難であり(【京産大記者会見への反応に見る”更なる「二極化」”】)、獣医学部の新設が、何らかの不当な力が作用する中で行われた可能性が否定されるものではない。
特区WGと文科省側との最大の対立点になっている「獣医師をめぐる需給」の問題について、最近出された記事【加計学園問題に関する単純な疑問「日本では獣医師が不足しているのか?」】において、特区WGが「錦の御旗」にした「獣医師の不足」という主張も、客観的な数字に基づいて比較すれば、その論拠は極めて薄弱であることが示されている。
安倍首相自らが招いた「冤罪的要素」の可能性
仮に、特区WGが「真犯人」で、「総理のご意向」の“忖度”は彼らに仕組まれたものだったとすると、加計氏に便宜を図ったと疑われたことについて、安倍首相にとっては「冤罪」的な要素があったことになる。
しかし、仮にそうであったとしても、「冤罪」的な要素は、すべて安倍首相自身が招いたものである。
まず、「安倍一強」体制の下で、官邸、内閣府等において、安倍首相本人の意向を確認することなく、それを「忖度」するのが当然のような雰囲気が作られていたことに根本的な問題がある。
【加計学園問題のあらゆる論点を徹底検証する ~安倍政権側の“自滅”と野党側の“無策”が招いた「二極化」】でも述べたように、安倍首相にとって、加計学園に関して問題を追及された際に不可欠だったのが、《国家戦略特区に関する権限を有する総理大臣と、加計学園理事長とが「腹心の友」であることの「利益相反」の問題》と《諮問会議とWGの民間議員のメンバーに国家戦略特区に関する「判断」を行わせることの公正・中立性に関する問題》を認識することだった。そして、それらについて反省すべき点は反省し、改善の検討をする旨言及していれば、加計問題が大きな問題になることはなかったはずだ。
しかし、そのような認識を欠いたまま、当初の野党の質問に対して、「全く問題ない」と言い切ったために、従来の文科省の方針に反して獣医学部の設置認可を迫られた文科省側の反発を招き、その後、「総理のご意向」などと書かれた内部文書の存在が指摘され、前川氏が記者会見で「文書は確かに存在した」「文科省の行政が捻じ曲げられた」と発言するという事態に至った。
もし仮に、安倍首相側に本当に何もやましいことがなく、官邸・内閣府に対する指示・意向も全くなく、安倍首相と加計氏との親密な関係は、国家戦略特区での加計学園の獣医学部新設を認めることに全く無関係だったとすれば、それにもかかわらずここまで深刻な事態に追い込まれたことは、すべて安倍政権側の対応の誤りのためだったということになる。そうだとすると、安倍政権の危機対応能力の欠如は、ほとんど病気に近いものと言わざるを得ない。
しかも、安倍内閣の支持率が大きく下落し、「国民に丁寧に説明する」と自ら明言した後も、安倍首相は、疑惑を一層深める対応を繰り返している。閉会中審査の段階で、「加計学園の獣医学部新設の話を1月20日に初めて知った」などと、誰にも信じてもらえない内容の答弁を行い、翌日の質疑で過去の答弁の訂正に追い込まれるという大失態を演じた。
そもそも国家戦略特区という枠組みを作り、アベノミクスの成長戦略の「第三の矢」に位置付けたのは安倍首相自身である。その枠組みが、特区WGの暴走につながり、それに安倍首相の意向への「忖度の構図」が利用されたとすれば、それも、すべて安倍首相の責任である。
安倍首相に、今、必要なことは、北口氏の「特区WG真犯人ストーリー」を十分に念頭に置いて、国家戦略特区で獣医学部新設を認めるに至った経緯と判断の是非を、加計学園の大学経営の実態、今治市側の特区申請に至る経緯等も含めて全面的に検証すること、それも、独立かつ中立の第三者による調査に委ねることであろう。
驚異の18歳!
それにしても、恐るべき18歳である。「大人の世界」が不毛な追及と弁解に終始して全く事態の収拾が見通せない状況において、加計学園問題全体を俯瞰し、「特区WGの主導性」に着目し、「総理の意向」が利用されたかという問題の本質を見抜く推理・分析力と、それをストーリー展開させていく能力は、常識を遥かに超えている。検事時代に様々な検察独自捜査に関わった経験や、特捜検察と司法マスコミの癒着を主題とする推理小説【司法記者】(講談社文庫)も書いた経験もあり、推理・分析力、ストーリー展開力にはそれなりの自負を持っている私だが、北口氏のストーリーには、完全に脱帽である。「将棋の世界での藤井聡太四段」に匹敵すると言っても過言ではない。
国の権力の中枢である首相官邸が、首相の国会答弁の混乱を回避することすらできず、事態を一層深刻化させてしまう惨憺たる状況にあり、危機対応能力の欠如と人材不足が絶望的にも思える中、我々は、北口氏のような十代の若者達がこの国を救ってくれる時代がくることに望みを託すほかないのであろうか。



