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「東大病院は日本一」という大誤解を糾す

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■改革を阻む大物大学教授たち

話を戻そう。新専門医制度は迷走している。当初今年4月から新制度を実施する予定だったが、若手医師や全国市長会から「地域医療を崩壊させる」と反発され、さらに厚労省では塩崎恭久・厚労相が主宰する検討会が立ち上がった。

7月21日には、有志の医師らで構成する『専門医制度の「質」を守る会』(代表:安藤哲朗・安城更生病院副院長)が、塩崎厚労相あてに、1560人の署名を添えて、新専門医制度に反対する意見書を提出した。機構にとって、完全な逆風だ。

ところが、機構は来年度からの制度開始を強行するようだ。

機構とは、大物大学教授の集まりだ。ホームページをご覧になるとお分かりいただけるが、理事の大部分が大学教授か経験者だ。彼らの利益を代弁する集団と言っていい。

その証左が、全国市長会が、4月12日に厚労相に対して、「国民不在の新専門医制度を危惧し、迅速に進めることに反対する緊急要望」を提出した際の国立大学医学部長会議の対応だ。記者会見を開き、全国市長会に抗議文書を送付したことを公表した。医学部長たちは、この全国市長会の提言に対して、「重大な事実誤認がある。看過できない」と反論している。

全国市長会は、新専門医制度の問題点に関する文書を、検討会を主宰する厚労相に送ったのに、国立大学医学部長会議は全国市長会を批判するため記者会見まで開いた。社会に説明したり、検討会に意見書を送ったりするのならわかるが、これは滅茶苦茶だ。機構と医学部長たちが「お仲間」であると自白しているようなものだからだ。

■持ちつ持たれつの医療業界

では、彼らは世間の大反発を受けながら、どうして新専門医制度を強行しようとするのだろう。色んな理屈をつけているが、本音はカネだろう。

機構の決算報告書によれば、平成29年3月末日現在、総資産は7142万円で、総負債は2億1305万円。1億4163万円の債務超過だ。前年より7387万円増えた。

機構は運転資金を得るため、短期で3000万円、長期で1億4304万円を借り入れている。

借入先は、日本医師会5000万円、日本内科学会2280万円、日本外科学会894万円などだ。全国医学部長病院長会議も50万円を貸し付けている。

このような団体は機構と「運命共同体」である。一刻も早く機構が業務を開始し、審査料という名目で収入を得ないと、彼らも貸した金が返ってこない。

なぜこんなことになったのだろう。機構の本務は学会のプログラムの審査だ。事業開始前に関係者が会うだけなら、億単位の借金はつくらない。

決算報告書をみて驚いた。人材派遣費3360万円、旅費交通費に3745万円。賃料に1555万円、会議費1188万円も支払っている。

事務所は有楽町の東京フォーラムに借りている。賃料は坪12万6421円だ。大手町のオフィスの平均賃料ですら坪約4~5万円程度だ。銀座なら2万円台だ。随分と浪費したものだ。

■呆れた「一面カラー広告」

ところが、これは医学界の重鎮の間では珍しいことではない。学会の運営費は会員からの会費。身銭を切るわけでなく、大判ぶるまいしがちだ。使途を厳しく問われることはない。これは機構に限った話ではない。

例えば、日本脳神経外科学会のケースだ。嘉山孝正理事長は、新専門医制度をリードしたことで知られている。

7月5日と6日、日本脳神経外科学会は、全国紙の一面を使い「日本脳神経外科学会専門医制度創設50周年祝賀会」というカラー広告を打った。嘉山理事長以下、幹部4人の顔写真を添えたコメントとともに、祝賀会での記念撮影の写真が大きく紹介された。

全国紙で一面カラー広告を打てば、その費用は3000万円以上だ。少なくとも2日続けてなので、6000万円以上の広告費を使ったことになる。

■医学会は「裸の王様」

これをみた若手医師からは「脳神経外科学会ってアホですね」とコメントが来た。こんな広告を見せることで、学会員や一般読者はどう感じるか想像できないようだ。「裸の王様」になっている。

言うまでもないが、学会の主たる目的は情報交換で、学会幹部は「会員ファースト」に務めなければならない。ところが、彼らの視点は「教授ファースト」だ。若手医師には「学会員から会費をまきあげ、やりたい放題」に映る。

これが、多くの医師が専門医制度に反発する理由だ。では、医学界の幹部とは、どんな集団なのだろう。

■将来を象徴する東大の衰退

最近、日本医学会の執行部が変わった。私は名簿を見て驚いた。21名の理事のうち、12名が東大出身だったのだ。京大からは2人、阪大からは1人しかいなかった。

内科に限れば、7名中5名が東大出身者だった。このうち4人は都内の有名進学校の出身だ。

余談だが、機構の理事長・副理事長・理事・幹事のうち医師は23人。うち10人が東大卒だ。

日本医学会が「東大医学部ファースト」のお仲間を中心に構成され、その背景は均質であることがわかる。

この中にはノバルティスファーマの臨床研究不正事件に関わった人間もいた。仲間うちの議論では、このことは問題視されないようだ。むしろ、外部から批判されると、束になって強行突破する。新専門医制度の議論でも、「誤解されている」と言い続けている。この結果、余計に周囲との軋轢を増している。このあたり、森友・加計学園問題を巡る安倍政権の対応と似ている。

雑誌『選択』は7月号に「医学部は京大・阪大の「二強時代」「人材と生産性」で東大に大差」という記事を掲載している。

この記事の中で、東大が「医学界の官僚」と化す一方、京都大学や大阪大学が着実に実績を上げていることが紹介されている。スタッフ1人あたりの主要医学誌に掲載された論文数は、京大は東大の3倍、阪大は2倍だ。

東大の衰退は日本の医学界の将来を象徴している。自らの利権を守るために徒党を組んで、無理を押し通してはならない。社会の信頼を失い、若手からも見放される。借金で首が回らなくなった機構を清算し、専門医制度の議論はゼロからやり直すべきである。いまこそ「現場ファースト」の視点をもち、地に足のついた議論が必要だ。

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上 昌広(かみ・まさひろ)

医療ガバナンス研究所 理事長。1968年、兵庫県生まれ。東京大学医学部医学科卒業、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員を経て現職。著書に『復興は現場から動き出す』などがある。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC」の編集長も務める。

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