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【特別寄稿】マードック傘下の老舗の英日曜紙が廃刊 〜深刻化した電話盗聴事件でBスカイBの買収も暗雲に?

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 7月10日、168年の歴史を持つ英国の日曜大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」(NOW)が廃刊となった。最終号の1面には「ありがとう、さようなら、」とする大きな見出しがついていた。

 NOWは、今では米大手メディア企業ニューズ・コーポレーション(ニューズ社)の最高経営責任者(CEO)となったルパート・マードックが英国で最初に買った新聞だ。マードックの英国での新聞王国(10日以前まで発行していたNOWと、日刊大衆紙サン、高級紙のタイムズとサンデー・タイムズ)の基礎を築いた新聞である。

 日曜紙市場ではトップの発行部数を誇っていたNOWを廃刊せざるを得なくなったのは、数年前からくすぶっていた電話盗聴事件が、7月上旬になって急速に深刻化したからだ。数々の盗聴疑惑が報道される中、次々と大手広告主が出稿の取りやめを発表し、NOWについた汚名は悪化するばかりとなっていた。

 問題となった一連の盗聴疑惑がNOWで発生したときに編集長だった人物が、今年1月まで官邸の報道局長に起用されており、NOW盗聴問題は新聞業界の話のみならず、政治問題化している。

 さらに、マードック率いるニューズ社は、1年ほど前から英衛星放送BスカイBの完全子会社化(現在は39%を所有)を目論んでいるが、NOWの盗聴問題でこの計画に暗雲が差す事をマードック側が防ごうとした、つまりNOWを捨てて、BスカイBという大きな魚を釣ることに力を入れた、という側面もある。6月末頃まで、ニューズ社によるBスカイBの完全子会社化はほぼ確実視されていた。

 盗聴事件のあらましと、事件の影響を見てみたい。

―王室報道がすべての始まり



 NOWでの電話盗聴事件は、2005年秋にさかのぼる。ウィリアム王子のひざの怪我に関する記事がNOWに掲載されたのだが、この件についてはごく少人数の王室関係者しか知らないはずだった。そこで、王子の側近がロンドン警視庁に連絡を取り、携帯電話への不正アクセスがなかったかどうかを調査してほしいと依頼した。

 警視庁が捜査を開始し、NOWの王室報道担当記者クライブ・グッドマンと私立探偵グレン・マルケーが逮捕されたのは翌年。2007年初頭には両者ともに携帯電話への不正アクセスで有罪となり、それぞれ4ヶ月(グッドマン)と6ヶ月(マルケー)の実刑判決が下った。このときのNOW編集長アンディー・クールソン(「コールソン」と表記されることもある)は、自分は盗聴行為のことを「まったく知らなかった」が、責任を取って辞任した。

 1988年、クールソンは、20歳でサンのゴシップ・コラム担当記者になった。2000年にはその日曜版ともいうべきNOWの副編集長に就任。この時、NOWの編集長だったのが、NOWを発行するニューズ・グループ・ニューズペーパーズ社の親会社ニューズ・インターナショナル(NI)のCEOレベッカ・ブルックスである。2003年から辞任する2007年まで、クールソンはNOWの編集長であった。

 2007年3月、下院の文化・スポーツ・メディア委員会の公聴会に召喚された、NI社の当時の会長レス・ヒルトンは、盗聴行為は「グッドマン記者のみの行動」、「クールソン編集長は一切知らなかった」と述べた。

―盗聴は「組織ぐるみ」だった?



 2009年7月、盗聴疑惑が再燃した。左派系高級紙ガーディアンは、NI社を傘下に置く米ニューズ社が盗聴行為の被害者に巨額の賠償金を支払っていた、と報道。また、盗聴などの不正行為を行っていたのはグッドマンやマルケーばかりではなく、NOWではほかの記者もかかわっており、「組織ぐるみ」であったと報道したのである。さらに、携帯電話に不正アクセスされたのは王室関係者のみではなく、政治家や有名人を含む「数千人規模」である、と。

 こうした報道を重要視した下院の文化・スポーツ・メディア委員会が公聴会を開き、クールソン元NOW編集長、現在の編集幹部、NI社経営陣などに事情を聞いた。クールソンやNOW、NI側の答えは、「グッドマン記者のみが関与していた」、クールソンは「まったく知らなかった」などと、これまでの返答を繰り返した。

 しかし、記者の動向を編集長がまったく知らないことはあり得ないはずで、返答のつじつまが合わないこともあって、2010年2月、委員会が出した報告書は、「まったく知らなかったとは、理解できない」、NOWやNI幹部は「集団健忘症にかかっていたに違いない」という厳しい見方を出した。

 新たな捜査が必要だというガーディアンの声は、ロンドン警視庁の副警視総監ジョン・イェーツの「必要ない」という判断や、新聞業界の監視団体「英報道苦情委員会」(PCC)の「ガーディアン報道を裏付ける証拠がない」という報告書などによって、かき消された。

 しかし、その後、自分の携帯電話が盗聴されたかもしれないと懸念した政治家や著名人が警視庁に連絡を取ったり、NOWを相手に裁判を起こすケースが発生し、NOWやNI側は次第に追い詰められていった。

―電話の盗聴はどうやった?



 ここで、NOW記者による携帯電話の「盗聴」の手口を見てみよう。

 英国の携帯電話には自分の留守番電話のメッセージを聞くためなどに、個別のPIN番号がついている。新しい携帯電話を買うと、この番号は「1234」「0000」「3333」など、ある程度パターン化したものに設定されている(BBC報道)。この番号を利用者は別の番号に変えるべきなのだが、実際には変えている人は少ないと言われている。

 そこで、大衆紙の記者や調査報道を担当する記者がやったことは、まず調べたい人物の電話番号に電話をかけ、相手が答えない場合、デフォルトのPIN番号を押すと、留守電のメッセージが聞けるという。元NOWの記者だったポール・マクマランが複数のテレビ番組で語ったところによると、最初の電話をかける時、「自分が携帯通信サービスの従業員のふりをする」という。何かのキャンペーンを提供するなどと嘘をいう。そして、本人が電話で話をしている間に、ほかの記者が同じ電話番号にかける。すると、通話中であるので、留守電メッセージが聞けるようになるという。(これはあくまでも英国の例であることにご留意ください。)

 大衆紙同士の競争は激しく、こんな手を使ってまで「特ダネ」を入手するよう、記者には「大きな圧力が常にかかっていた」という(マクマラン談)。

 マクマレンによると、「全員がやっていたわけではないが、多くの記者がこんな手口を使っていた」。また、マクマランがNOWにいたときに編集長だったクールソンは、「情報の出所をいつも知りたがった」。したがって、特ダネを編集長に紹介するとき、「必ず、どうやってその情報が出たかを示す必要があり、取材内容も書き取って提出していた」という。

 マクマランはクールソンも、その前の編集長のブルックスも「盗聴の事実を、もちろん知っていたと思う」と話す。

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