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やはり中国に人権はない! それを許すトランプの情けなさ - 山幸夫 (産經新聞前論説委員長)

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すさまじい応酬

 これで終わるかと思ったところ、クリントン大統領は主席の発言を制するように、「中国はさまざまな問題で正しい決定をしているが、この問題に限ってみれば誤った結論だ」と重ねて中国を非難し、「私や家族に対しても様々なことがいわれてきたが、それでも今私はこの場所にいる」と、批判を受け入れるのが政府の姿勢だと迫った。

 すさまじい応酬だった。これまで、各国首脳の記者会見を取材したが、あれだけの丁々発止はみたことがない。

 本来、国賓を迎えての記者会見は、美辞麗句、友好ムードにあふれるのが相場だが、このときはそんな雰囲気とはほど遠いものだった。記者会見の場で、こうだったのだから、非公開の会談ではどんなとげとげしいやりとりがあったことだろう。20年たった今でも両首脳の激しい言葉のやりとりが目に浮かぶ。

 実はこのとき、会談の翌月、中国が国家転覆陰謀罪で収監、服役させていた著名な民主活動家の魏京生氏を釈放した。原子力協定の履行などという取引材料はあったものの、米政府が魏氏の釈放を首脳会談で強く働きかけた結果だった。人権問題が、「言い放し」だけでなく、実質的な外交交渉の対象になった典型的な例だろう。

 そもそも“人権外交”は、1977年に就任したジミー・カーター大統領(民主党)が声高に掲げ、その後の歴代政権においても米国の外交政策の最重要、中心課題のひとつであり続けてきた。カーター政権以前も、自由と民主主義という米国の価値観、さらにはキリスト教の倫理観もあって、米国の外交政策で大きな比重を占めてきていた。

 冷戦時代に、米国は旧ソ連に対して、ノーベル平和賞受賞者のアンドレイ・サハロフ博士の流刑などを強く批判するなど、人権抑圧に懸念を表明し続けてきた。

 冷戦終了後、中国が新しいスーパーパワーとして米国と対峙するようになると、その矛先が中国に向けられたのは自然の成り行きだった。

 台湾問題、貿易不均衡などとならんで、首脳会談の主要な議題としてとりあげられ、魏京生氏の釈放のように、人権問題が、首脳会談の正否を左右することも少なくなかった。
 
 米国務省は毎年、「世界の人権に関する年次報告」をとりまとめ、各国の状況を批判的に分析している。中国については毎年、チベット、新疆ウィグル自治区での人権抑圧、民主活動家への弾圧などをやり玉にあげている。 

 1990年からは「米中人権対話」という枠組みが設けられ、米側の懸念が高官レベルによる協議を通じて、中国に直接伝えられた。この対話は、中国側が「米国にも人権問題はあるだろう」と強く反発したことから、「それならお互いの人権問題について話し合おう」という趣旨で設けられたが、実態は、米側が一方的に中国を糾弾することに終始した。最近は、「人権対話」のニュースを聞かないから、休眠状態になっているのかもしれないが。

 オバマ前政権末期の昨年6月、北京で開かれた米中戦略・経済対話で、ケリー国務長官(当時)が、人権派弁護士らが多数拘束されていることや、チベットでの人権の弾圧を強く非難した。任期切れが近づいても追及を緩めることのない態度からは、「人権」に対する執念すらうかがえる。

 こうした人権をめぐる過去の米国の一貫した強い姿勢に比べてみたとき、弾圧された民主活動家が亡くなったその日に、中国の最高指導者を絶賛してみせるトランプ大統領の行動はまことに異様に映る。

 もっとも、女性に対する数々の蔑視発言、移民に対する血も涙もないコメントを聞く限り。トランプ氏にまっとうな反応を求める方が無理というものだろう。

 加えて、米中間には、北朝鮮の核開発、貿易不均衡、為替、台湾、南シナ海問題など多岐にわたる問題が目白押しだ。

 だが、人権ばかりにかかわっているわけにはいかないという認識があるのであれば、それこそ中国の思うつぼ、米外交にとっても取り返しのつかない失策になろう。

 いままで繰り返してきた主張を一度でも引っ込めてしまえば、相手は「われわれに屈した」と思ってしまうだろう。

 中国の人権問題については、もとより、米国だけでなく、各国が声を合わせて中国に改善を迫っていかなければならない。しかし、対中関係の悪化を恐れてか、歯切れの良さを欠くケースが少なくないようだ。

腰が引ける日本政府

 わが国にしても、中国が劉氏の国外治療を認めなかったことについて、「日本の考え方は中国に伝えてはいるが、詳細は控えたい」(岸田文雄外相)など、関係改善へのマイナスになることを恐れ、腰が引けているようだ。
 
 本来なら、ここは安倍晋三首相の登場を期待したい。首相は昨年の大統領選で、トランプ氏が当選した後、外国首脳としては真っ先にお祝いにかけつけた。就任後も、フロリダの大統領の別荘で二晩も過ごし、ゴルフ三昧で、世界の耳目を集めた。それほど親密な関係なら、大統領と率直な意見交換ができるはずだ。それができるかどうかによって、「個人的な信頼関係」がホンモノかどうかの尺度になるはずだ。

 それにしてもだ。今回の劉氏の死去で何よりも驚いたのは、“死の床”にある劉氏の写真を中国当局が公表したことだ。医師団に囲まれ、適切な治療が施されているということをアピールしたかったのだろうが、患者の人権、プライバシーはどうなっているのだろう。やせ衰えた瀕死の姿をさらしたいと思う患者などいるはずがない。

 人権に配慮しているふりをして、人権を侵害する。やはりこの国に“人権”はない。

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