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相模原事件から1年。の巻 - 雨宮処凛

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 やまゆり園の元職員の男性は、入所者の暴力などの問題に対して、こう語る。

 「入所者は施設を出ても居場所がない。暴れても警察を呼ぶわけにはいかず、職員が自分でなんとかする。毎日がその繰り返し」

 彼らは守られているのに、自分は守られていない一一。植松被告の中には、そんな思いがあったのではないだろうか。

 自身も脳性麻痺の後遺症があり、車椅子生活を送る東大准教授の熊谷晋一郎氏は、このように語る。

 「明日にも自分が価値のない存在とされてしまう不安が広がっている社会では、悪意は障害者のような、より不要だと思われている存在に向かいやすくなる」

 また、ダウン症の娘を持つ和光大名誉教授の最首悟氏は、以下のように語っている。

 「現代は『私の存在価値は何か』『社会に役立っているのか』という存在証明が難しい。終身雇用が失われ、弱者はいつ切り捨てられるかわからない。これは誰でも、とてつもなく不安なこと。不安が解消されないから、まぎわらすしかありません。

 まぎらわす相手として通常は人と交流しますが、植松被告が存在証明を求めた先は、国家による勲章だったのでしょう。衆院議長公邸に持参した手紙に『日本国が大きな一歩を踏み出す』と書いています。日本のために正しいことをした、だから英雄として認めてほしいと思っているはずです。その意味で、彼は精神異常者でも快楽殺人者でもなく、『正気』だった。ネットでは共感する声もあります」

 「誰でもよかった」のではない。「死刑になりたかった」のでもない。自分の行為が「称賛」を受けると思い、大量殺人事件を起こした植松被告。

 しかし、彼もまた、教員という夢に挫折し、一時は生活保護を受けるほど生活が困窮するという「弱者」の一人でもあったのだ。

 本書で興味深いのは、事件に対する世界の反応だ。

 事件後、追悼集会には世界各国から多くのメッセージが集まったという。アイルランドの国立大学教授は「私たちは人を有用かどうかで判断しません。そうした発想を支える功利的な考え方は、歴史のごみ箱に投げ込まれました」と書き、インドからは「高齢者と障害者をどう扱うかに、市民と国民の性格が表れます」という言葉も届いた。

 相模原事件から5年前、ノルウェーではアンネシュ・ブレイビクという30代の男が77人を殺害するという事件が起きている。狙ったのは、移民受け入れに寛容な人々。彼自身は「欧州をイスラムの支配から救う」と事件を正当化していた。

 ネオナチサイトに参加していたブレイビクと、「ヒトラーの思想が降りてきた」と語った植松被告。自らにとって「不健康な要素」を取り除き、社会を「純化」したいという意図。そして、挫折と孤立。2人には多くの共通点がある。

 そんな事件を受け、ノルウェーでは何が起きたか。

 「ノルウェーは国を挙げて犠牲者を追悼し、首相が『さらに寛容な社会をつくる』と宣言した。事件の生存者の中には、『テロを機に監視社会ができたら、彼の思うつぼだ。そうさせないのが、生き残った僕らの役割だ』と地方議会選に出馬した人もいた」という。

 翻って、日本ではどうか。首相や政権から「障害者差別は許さない」という力強いメッセージが発されることはなく、逆に事件を受けて元都知事の一人は「やまゆり園事件犯人の気持ちはわかる」と公言。精神障害者の措置入院や予防拘禁ばかりが語られ、「危ないやつは排除・隔離しろ」と、突き詰めれば植松被告の主張と重なり合うような意見ばかりが支持を得ている気がして仕方ない。

 効率や、生産性ばかりを重視する社会のあり方と、決して無関係ではない相模原事件。

 あの時、「かけがえのない命」「命は大切」と繰り返したメディアは、今日も「高齢者福祉にこんなに金がかかって財政難」、という「お荷物」感たっぷりの報道を繰り返している。

 常にお金と天秤にかけられる、命。

 見直すべきは、障害者への差別とかそんなことよりずーっと手前の、私たちの「命へのまなざし」、そのものだと思うのだ。

画像を見る7月8日、札幌学院大学で開催された相模原事件から1年のシンポジウムにて。

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