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相模原事件から1年。の巻 - 雨宮処凛

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 この原稿が更新される7月26日は、相模原の障害者施設で19名が殺害されてからちょうど1年という日である。

 1年という月日が経っても、私たちはいまだに殺された人ほとんどの名前も顔も知らないままだ。人となりも、どんな生活をしていたかも、私たちには知る由がない。あれだけの大事件であれば、どんな人だったのか、どんな夢や目標を持っていたのか、連日のようにメディアで報じられ、友人知人たちが涙ながらにコメントしたりするものだが、そのようなことはほとんどないまま、1年が経過した。その事実が、事件の特殊性と、この国に根強くある「差別」を嫌でも示しているかのようだ。

 事件から1年という節目を前に、現場を取材した記者たちによって一冊の本が出版された。それは『妄信 相模原障害者殺傷事件』(朝日新聞取材班 朝日新聞出版)。地道な取材を積み上げたルポルタージュを、一気に読んだ。

 仲間うちでは「下っ端も下っ端」だったという植松被告。入れ墨を入れ、薬物をしていた植松被告を友人の1人はこう称する。

 「結局、自分に自信がなかったってことでしょ。酒だって弱くて、すぐつぶれるし。いきがって、ハイになって、人との差を埋めたかったんでしょ」

 が、自分に自信がなく、いきがっている若者など掃いて捨てるほどいる。というか、この国の一般的な「若者像」でもある。そんな「普通の若者」だった被告はなぜ、あれほどむごい事件を起こしてしまったのか。

 本書によると、植松被告が事件の舞台となったやまゆり園で働き始めたのは、2012年12月。当初は真面目な働きぶりだったというが、13年5月頃から変わっていった。友人に、障害者を「生きているとは思えない」などと話すようになり、また、事件が起きた16年2月には「障害者が生きているのは無駄だ」などと書いたビラを勤務先の周りで配っている。

そうして同月14日、「障害者470人を抹殺することができます」などと書いた「手紙」を渡そうと衆院議長公邸に足を運んでいる。しかし、断られ、翌日、再び衆院議長公邸に現れる。対応した職員は郵送を促したが、植松被告は門の前で土下座。2時間後、手紙は受け取られたという。その前々日の13日には、安倍晋三首相を訪ねて自民党本部に足を運んでいた。が、警備が厳しく断念し、帰り道にたまたま見つけたのが衆院議長公邸だったのだ。

 それにしても、植松被告が3日間に渡り永田町に現れ、土下座までしていたとは初耳だ。

 その後、植松被告が措置入院となり、退院したことは多くの人が知るところだろう。

 そうして、事件前日。植松被告はホームセンターで結束バンドなどを買い、知人の女性と都心の高級焼肉店で食事をしている。女性と別れたあとはホテルで過ごし、派遣型風俗を利用したという。事件が起きたのは、それから数時間後のことだ。

 「世界が平和になりますように。Beautiful Japan!!!!!!」

 事件後、植松被告はTwitterにそう投稿した。

 考えれば考えるほど、沈黙し、思考停止したくなる事件だ。

 本書では、追いつめられる介助の現場についても触れられている。

 自身も障害者施設で働き、燃え尽きて退職、現在は明治学院大学教授の深谷美枝氏は、植松被告も「バーンアウト(燃え尽き)を経験した」と推察する。深谷氏自身、過酷な勤務に、利用者を人と思えなくなるほど追いつめられたという。施設での仕事は「内なるウエマツさんとの闘い」だったという彼女は、今も当時接した少女が夢に出てくるという。温かな記憶に癒される一方で、やはり現場は綺麗事では済まされない。強度の行動障害があった少女は、テレビを棚から落として壊したり、他の利用者の耳を噛みちぎったこともあった。深谷さんの身体には常に少女に噛み付かれた歯形がついていたという。

 教員を目指したものの挫折し、福祉の世界に入ったものの、おそらく勤務の中で差別意識を強めていった植松被告に対し、彼女は言う。

 「専門性に乏しく人格も未熟な若者が、施設の仕事で燃え尽きた。その体験が病理性と結びつき、事件につながったように見える」

 施設で働き始めた当初、植松被告は障害者を「慣れるとかわいい」と言っていたという。が、逮捕後の調べでは、勤務の中で憎悪を募らせていったと話している。入所者が粗相をして植松被告が片付けていた時のこと。

 「上から勝ち誇ったような顔をして見ている入所者がいて、許せなかった」

 事件直後も書いたが、私には知的障害のあるいとこがいた。20代のある日、風邪の菌が脳に入って急激に体調を悪化させた彼女は、家族が救急車を呼ぶものの「知的障害の人は受け入れられない」と受診を拒否された。翌日に受け入れ先が決まったものの、あっという間に亡くなった。

 そんないとこにも、「暴力」の問題はあった。

 いとこの家に遊びに行った日、たまたまいとこが通っていた作業所の職員が来ていて、話を聞く機会があったのだ。その作業所の人たちに、いとこは時に居酒屋などに連れていってもらうことがあったようだった。職員の人たちが引率する形でそういう場所も楽しんでいたという。そっか、もう20歳超えてるもんな。微笑ましく聞いていると、衝撃的な言葉が耳に飛び込んできた。

いとこは酔うと、職員に暴力をふるうことがあるのだという。「結構、ひどいんですよね…」。控えめに言った職員の言葉に、私は凍りついていた。いとこの家族も、ショックを受けていた。ただただ申し訳ないと思いつつも、何をどう思っていいのかわからず、その上、なんて答えていいのかもわからず思考停止した。いとこの家族もただ言葉を失っていた。結局、その場で打開策などは語られず、沈黙が続いた。

 いとこの場合、酔った時の話だったので、お酒を飲まなければいいという解決策があった。だけど、その時、思った。もし、自分が作業所や施設の職員として働いていて、いつ暴力をふるうかわからない人のケアをしなければならない立場だとしたら。

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