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強面ドゥテルテ大統領がみせた「柔軟さ」:「ムスリムの自決権拡大」でミンダナオ島は安定するか

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フィリピン、ミンダナオ島西部のマラウィをイスラーム過激派が占拠して約2ヵ月。7月18日、ドゥテルテ大統領は穏健派ムスリムの代表らとともに、ミンダナオ島西部におけるムスリムの自治権を拡大する方針を表明しました

 ドゥテルテ大統領といえば、強面で知られます。麻薬組織メンバーに対する「超法規的な処刑」には、欧米諸国や人権団体からの批判が集中。また、関係が悪化したオバマ大統領(当時)に「地獄へ落ちろ」と述べるなどの暴言・放言も目立ちます。さらに、マウテなどイスラーム過激派の台頭以来、ドゥテルテ大統領は戒厳令を敷き、その鎮圧を進めてきました

 しかし、その強面のイメージからは意外なほど、少数派の宗派を自主性を保護し、宗派共存を目指す今回の「自治権拡大」は柔軟な方針です。これは、なぜ生まれたのでしょうか。また、これによってミンダナオ島の危機は克服されるのでしょうか。

バンサモロ基本法の「復活」

 今回、ドゥテルテ大統領が示したのは、ミンダナオ島のムスリムに自治権を与える内容のバンサモロ基本法の法案です。バンサモロとは、ミンダナオ島のムスリムの総称です。

 もともと、以前に取り上げたように、フィリピンでは、圧倒的多数を占めるキリスト教徒の支配を拒絶し、独立を求めるイスラーム勢力がありました。2014年、当時のアキノ大統領は、ミンダナオ島に拠点をもつモロ・イスラーム解放戦線(MILF)との間で、停戦と引き換えにムスリムの自治権を認める合意を形成

 その内容は、外交、防衛など国家の基本的な権限を中央政府が握り続ける一方、教育、徴税、年金、刑務所やインフラの管理など幅広い領域でバンサモロ政府の自治権を認めるものでした。特に司法権の自主性が認められたことは、コーランの教えに沿ったイスラーム法に基づく裁判の実現を可能にするもので、MILFにとって大きな成果だったといえます。

 ただし、バンサモロ基本法は、アキノ大統領の退陣とともに立ち消えとなりました(後述)。今回の合意は、2014年の合意に基づきながらも、バンサモロの自治権をさらに強化するもので、政府とMILFが共同でドゥテルテ大統領に提出。今後、この法案は議会で審議され、成立する見込みです。

「解毒剤」に期待される効果

 バンサモロ基本法の導入を指して、ドゥテルテ大統領は「解毒剤」と呼んでいます。つまり、穏健派のMILFに「ムスリムの自治権拡大」を提案することで、フィリピンにおけるイスラーム社会のなかで、マウテなどの過激派を孤立させ、その勢力を抑え込むことが期待されているのです

 フィリピン軍はロシアや中国からの武器支援を受け、米軍特殊部隊からの支援も受けています。しかし、マラウィを占拠したマウテなどとの戦闘は、長期化の様相を呈しています。

 そこには、大きく二つの要因があげられます。第一に、マウテなどの過激派が、ミンダナオ島のムスリム、特に貧困世帯出身の若年層をリクルートしながら活動していることです。

 第二に、シリアやイラクを逃れたISの「落ち武者」をはじめとする外国人戦闘員がミンダナオ島に集まっていることです。7月21日に公表された、インドネシアの紛争政策研究所(IPSC)の報告書によると、昨年の段階でシリアのIS中枢からミンダナオ島の過激派グループに向けて、少なくとも数十万ドルの資金が渡ったといわれます。その背景のもと、フィリピンの過激派は周辺諸国でも戦闘員をリクルートしており、なかにはタイで収監中のウイグル人(国籍上は中国人)を脱獄させたケースも報告されています

 つまり、シリアやイラクほどでないにせよ、「イスラーム国家の建設」を叫ぶ過激派がフィリピン内外で補充される状況からすれば、軍事的な制圧だけでは限界があります。その意味で、穏健派ムスリム団体の支持のもと、「ムスリムの自治」を認めたことは、ドゥテルテ大統領の「力押しだけでないテロ対策」という、現実的な方針を示すものといえるでしょう。

 その一方で、7月6日にフィリピン政府は、その前日にロイター通信が報じた「マウテなど過激派と交渉する用意」について強く否定。これに関連して、MILFもマウテなどと政府を橋渡しすることはないと強調しています。つまり、少なくとも公式には、ドゥテルテ大統領はMILFのみを交渉相手とみなし、マウテなどの過激派とは「話し合う余地がない」という姿勢を崩していないのです。

 とはいえ、ドゥテルテ大統領が過激派と穏健派の「裏の結びつき」に期待したとしても不思議ではありません。それは、英国の北アイルランド問題で、英国政府がテロを続けたアイルランド共和国軍(IRA)を取り締まり続けた一方、合法的な活動を重視したシン・フェイン党との間で自治交渉に臨み、長期的にIRAの勢力を衰えさせたことにも通じるものです。

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