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- 2017年07月21日 08:03
新人経済記者に「景気の見方」をアドバイスしてみた - 塚崎公義 (大学教授)
2/2■先輩たちが書いた記事を読んで、疑問点を調べよう
基本がわかったら、先輩たちの書いた記事を読んで、疑問に思った事を調べましょう。今はインターネットの時代ですから、調べるのは昔より格段に楽になっているはずです。はじめは疑問ばかりでしょうから、調べごとに時間をとられるでしょうが、次第に疑問点を調べる時間より記事を読む時間の方が長くなって行くはずです。この際に気をつけるべき事は、珍しい事が記事になっている、という事です。「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛むとニュースになる」ので、気をつけないと「犬より人の方が攻撃的な動物だ」と誤解してしまうかも知れません。マスコミは、読者がある程度の基礎知識がある事を前提に記事を流しますので、ある程度の基礎知識が身につくまでは要注意です。
たとえば「農作物を輸出している農家」のインタビュー記事が出ていた場合、一般読者は日本の農業は競争力が弱い事を知っているので、「そんな珍しい事もあるのだ。どんな工夫をしたのだろう」と思って読むわけです。それを「日本の農業って強いんだ」と思ってしまわないように気をつけましょう、というわけです。慣れるまでは大変ですが。
今ひとつ気をつけるべき事は、マスコミ情報は悲観的なものが多い、という事です。情報の受け手が悲観的な情報を好むので、発信する側も悲観的な情報を発信しがちである、というわけですね。マスコミも商売ですから、仕方ない事ですね。
今ひとつ、「権力と対峙するのがマスコミの使命であるから、政権に都合の悪い情報ほど優先的に報道する」という思想もマスコミ界の一部にはあるようです。政治面は明確にそうなので、経済面もおそらくはそういう事があるのでしょう。たとえば年金基金が株暴落で損すると大きなニュースになりますが、株暴騰で儲けるとニュースになりませんから(笑)。
■取材先を選ぶ時は、声を出していない人も対象に
「困っている人は声をあげるけれど、満足している人は黙っている」という場合が少なくありません。たとえば円安で困っている輸入企業は「原材料高で困った」と大声を出します。「ボーナスは払えない。下請けは値引きして欲しい。政府には支援策を考えて欲しい」というわけです。一方で、輸出企業は黙っています。「儲かっている」というと労働組合から賃上げ要請が、下請けからは値上げ要請が、税務署からは税務調査員がやってくるからです。したがって、声を出している企業だけ取材に行くと、「円安で日本経済は大変だ」といった記事を書いてしまいます。しかし、そんな筈はありません。日本は輸出入がほぼ同額ですから。
反対に、儲かっている人だけが声を出している場合もあります。起業して成功した実業家は、「学生諸君、サラリーマンはつまらない。起業して大金持ちになろう」と言いますが、起業して失敗して破産した人は黙っています。したがって、声を出している人だけに取材すると、記事を読んだ学生が「起業って素晴らしい。自分も起業して大金持ちになろう」と考えてしまうかも知れません。学生の起業が悪いとは言いませんが、正確な情報を得た上で判断してもらいたいと思いますし、マスコミにはその手助けをして欲しいです。
■悲観論を述べる人は賢く見えるので、要注意
「Brexitでどんな事が起きそうですか?」「トランプ大統領誕生でどんな事が起きそうですか?」と取材された時、「◯○や××などの困った事が起きるだろう」と答えれば、「様々なリスクについて予測している賢い人だ。これを記事にすれば読者が興味を持ってくれそうだ」と記者は思うでしょう。そして、100回に1回リスクが実現すると、答えた人は「○○を言い当てた予言者だ」などと賞賛され、それを記事にした記者も賞賛されるわけです。一方で、「大丈夫ですよ。大した事は起きないでしょう」と答えれば、記者は「この人は何も考えていないようだ。記事を書いても誰も読まないだろう」と考えるでしょう。したがって、取材を受ける側はリスクを指摘するインセンティブを持ち、記者もそれを記事にするインセンティブを持つわけです。それでは読者にはバイアスがかかった情報しか行きませんね。まあ、会社の方針もあるでしょうから、このあたりは記者が如何に行動すべきか、私が口出しする事ではありませんが(笑)。
■取材の時には、数字を聞こう
スピーチでも記事でも、具体的な数字が含まれていると説得力が増しますから、数字を聞き出す事は非常に重要です。しかし、それだけではありません。言葉のイメージは人によって大きく異なりますが、数字は共通だからです。為替レートが短期間に100円と110円の間を何回も往復した事があります。その時に、私は景気の現状について銀行内の会議で「為替レートが過去6ヶ月、105円プラスマイナス5円という狭い範囲で安定していたため、・・・」と発言しました。すると、為替のディーラーから「景気を見る上では上下10円は狭い範囲の動きなのだろうが、こちらは10円幅の上下を繰り返されて、激動の6ヶ月だった」と言われた事があります。
同じものを見ても違う評価になるわけですから、記者が取材の時に数字を聞かないと、大変なことになりかねません。「最近の為替レートはどうですか?」と取材すると、景気の予想屋は「安定してましたよ」と答え、為替のディーラーは「激動でした」と答えるでしょうから、記者の頭の中は大混乱ですね(笑)。
今ひとつの例は、中国の成長率についてです。「中国経済は安定しているから、不況が来ても深刻な事態には陥らないだろう」「中国経済は、近いうちに深刻な不況に苦しむ可能性がある」という議論を戦わせていた二人の中国担当者が、「では、最悪の場合の成長率はどれくらいだと考えているのか?」と上司に聞かれて、二人とも同じ数字を答えた、という例があります。「成長率が2%低下する」という予測は同じなのに、片方が「深刻な事態ではない」と考え、今一方が「深刻な事態だ」と考えていた、というわけですね。
■米国の経済に興味を持とう・・・海外に強い記者は少ないから
日本のマスコミは、一般に海外情報の比率が高くありません。しかし、日本の景気は海外の景気に大きく影響を受ける場合が少なくありません。内需が弱いので、輸出が落ち込むと国内の景気がすぐに悪化してしまうからです。したがって、充実した海外の情報を発信する事で、読者に大きな貢献が出来る可能性が高いのです。特に重要なのは、米国の景気です。輸出相手国に占める米国のウエイトは大きくないのですが、米国の景気が悪化すると中国の対米輸出が減り、日本から中国への部品輸出も減る、といった事があるからです。今ひとつ、米国の景気が悪化すると米国の金利が下がり、ドル安円高になりやすい、という点も重要です。
英語など出来なくても構いません。今は、海外の情報がいくらでも日本語で入手できる時代ですから。10年も経てば、外国人へのインタビューさえ、自動翻訳機で簡単に行なえるようになるかも知れません。重要なのは、英語より内容です。日頃から米国等のニュースに慣れ親しんでおけば、米国経済の動き方や日本への影響などについて、イメージを持つ事が出来るようになるでしょう。
以上、いろいろ記しましたが、とにかく慣れて下さい。多くの情報に接していると、「手触り感」が出て来ます。ミクロと違って、手触り感が出てくるまでが大変なのですが、それを乗り越えてしまえば、あとは楽しいですよ。ライバルの少ない「ブルー・オーシャン」ですから。活躍を期待しています。
【参考記事】
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■人々が欲張りな方が、経済はうまく行く (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/51371141-20170602.html
■統計使いは統計を使って嘘をつく (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49305346-20160814.html
■とってもやさしい経済学 (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12221168188.html
■景気を5分で理解したかったら、月例経済報告を覗いてみよう(塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12285895068.html
塚崎公義 久留米大学商学部教授
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