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【特別寄稿】津田大介氏「当選確実なう」

 2009年8月30日に投開票が行われた第45回衆議院議員選挙で、自身の当選確実の一報を受けた民主党の逢坂誠二衆議院議員が発したツイートだ。
「現職」になりたての国会議員が、ネットを通じて多くのメディアに先んじて有権者に当選を報告したという意味でこのシンプルなツイートは話題を集めた。その結果、ネットのみならず、新聞やテレビなどの既存メディアでもこぞって取り上げられた。
 総選挙前からツイッターを積極的に活用し、一部で「ツイッター議員」と呼ばれていた逢坂議員の面目躍如と言える。
 第45回衆議院議員選挙の選挙期間を含む2009年7月から8月は、日本でツイッターの本格普及が始まった時期だ。
 ネットサービスのトラフィックを調べるネットレイティングスの調査によれば、2009年6月のツイッター利用者(ユニークユーザー)数は78万3000人。これが7月には126万5000人、8月には230万2000人と、この時期から急速に利用者数が拡大している(2010年以降、ツイッターの利用者数は倍々ゲームで増加し、2010年4月の同社調査では988万2000人と約1000万人規模まで拡大した)。
 当時は本格普及を前に、逢坂議員をはじめ、藤末健三参議院議員(現民主党参議院議員候補)、田村耕太郎参議院議員(当時自民党、現民主党参議院議員候補)、浅尾慶一郎衆議院議員(みんなの党)、柿澤未途衆議院議員(みんなの党)、橋本岳前衆議院議員(自民党)や小坂憲次前衆議院議員(自民党)など、ITリテラシーの高い一部の議員だけがツイッターを使っているという状況だった。
 しかし、総選挙後、ツイッターへの社会的注目度が増していった状況に呼応するように、ツイッターで情報発信を行う議員も増えていった。
 議員のツイッターアカウントやツイートをまとめた情報サイト「ぽりったー(politter)」によれば、2010年6月現在で88名の現職国会議員がツイッターアカウントを開設している。地方議員や元議員、2010年7月11日に投開票が行われる第22回参議院選挙の候補者なども含めると現在500名以上がツイッターを利用しており、2010年はツイッターのブレイクと共に政治家のツイッター利用も本格化した年として位置づけることができそうだ。

 なぜ政治家はツイッターを使うのか。それはひとえにツイッターの持つソーシャル・メディアの広がりと「政治」の相性が良いことに他ならない。
 「ツイッターと政治」という点で最初に注目されたのは、2008年の米国大統領選挙だ。
バラク・オバマはインターネット――とりわけソーシャル・メディアを最大限活用することで、多くの個人献金を集め、圧倒的不利な状況から大統領当選を果たした初めての候補である。彼は「インターネット活用層」の政治にもたらす影響力が増していることを重視し、ある種のゲリラ戦略としてソーシャル・メディアをフル活用した。
 オバマが支持者とのコミュニケーションや、個人献金を集める目的でメインのプラットフォームとして利用したのは、MyBO(マイ・バラク・オバマ)という彼の公式SNSである。MyBOの外部にいる潜在的な支持者、支持者候補と積極的に関係を構築すべく、あらゆるSNSに公式ページを作った。
 ヒスパニック系向けSNSの「MiGente」や、アフリカ系向けSNS「BlackPlanet」、キリスト教徒向けSNS「FaithBase」、アジア系SNS「AsianAve」といった特定人種向けSNSをカバーし、それぞれのユーザーに最適化された政策やメッセージを打ち出していく。その一方で、FacebookやMySpace、YouTube、LinkedInといった巨大なSNSもフォローした。その数は実に16にも及ぶ。ツイッターもその1つだった。
 オバマ選対のツイッターの使い方は非常に明快だった。基本的には演説をする前にオバマの居場所を支持者に知らせつつ、ニュース番組などへの出演スケジュールを連日リアルタイムでツイートし、支持者の興味を喚起した。また、「新しい動画がアップロードされた」といったように、ほかで活用しているSNSやMyBOの更新情報の通知目的でも利用された。
 オバマのツイート数はツイッターを本格的に利用しているほかの政治家と比べて圧倒的に少ない。ソーシャル・メディアにおけるオバマの主戦場はあくまでMyBOであり、ツイッターはあくまで補完的な目的で使われていたからだ。
 2008年の大統領選挙でオバマ選挙対策本部のニューメディア部門でボランティアスタッフとして働いていたラハフ・ハーフーシュはその著書「YES WE DID」(邦訳『「オバマ」のつくり方』)で、オバマ選対のツイッター利用について次のように総括している。
「ツイッターの威力はユーザー同士のおしゃべりにあるが、オバマ陣営はツイッターを一方的な情報発信にしか利用しなかった。オバマ陣営にとってツイッターはもっともうまく活用できなかったSNSだ」
 2008年の時点ではツイッターの社会的インパクトもまだまだ少なかった。オバマのツイッター利用は「ツイッターが政治目的でも利用できる」という意味で、ツイッターの社会的認知を広めたが、「オバマはツイッターを利用して大統領選挙に勝った」という単純な認識を持っているような人は、その認識を修正した方がいいだろう。

 2009年に入り、ツイッターが新しい情報流通プラットフォーム、リアルタイムのコミュニケーションサービスとして存在感を高めるにつれ、政治家のツイッターも加速していった。
 日本で政治家が利用し始める大きなきっかけになったのは、やはり2009年8月の総選挙と、秋以降のツイッターブームによるところが大きい。総選挙で政権交代が起き、政治に対するメディアや国民の関心が高まったことで、メディアにフィルタリングされず、議員個人がツイッターから発信する生の情報へのニーズも高まっていった。
 現在の日本の政治家のツイッター利用目的は主に6つに分けられる。
 1つめは「自らの政治活動、国会状況の報告・告知」。これは要するにオバマとほぼ同じ利用法だ。140字では足りないので、自身のブログなどへ誘導するケースも多い。
 2つめは「自らの政治信条のアピール」。メディアで報道されたニュースに対して独自の視点で論評を行う政治家も多い。
 3つめは「有権者とのコミュニケーション」。告知や政治信条のアピールに対して寄せられたツイッターユーザーからの質問や陳情に対して、真摯に対応している政治家も少なくない。
 4つめは「内部の人間でしか得られない情報を元にした報道に類する行為」。国会内部や党内の議論、法案の修正状況などを会議終了後にツイッター議員がすぐにツイッターで報告し、一般報道ではこぼれ落ちるような事実が明らかになるケースも増えてきた。
 5つめは「政治的な発言や行動を行ったときにツイッターユーザーがどのような反応が返ってくるのか調べるマーケティング」。ツイッターを使いこなしている政治家になればなるほど、この点を重要視している。
 6つめは前の5つの用途のどれにも準じない「日常的な報告や雑感」だ。政治家というと、距離を感じる国民が多い中、ツイッターによってこうした議員の日常が漏れてくることによって議員個人に親近感が湧いてくるというユーザーは多い。ツイッター議員の中には、あまり政治とは関係ないこうした日常のツイートをあえて書かない人も多いが、フォロワー数(登録者)という点で見れば、一般ユーザーと積極的にコミュニケーションを行い、何気ない日常のツイートも含まれる議員の方が人気を集めやすい傾向にある。このあたりは人間個人に興味を持ちやすいプラットフォームであるツイッターのメディア特性ということなのだろう。

 政治家個人に興味を持ってもらうという意味ではツイッターは非常に優秀なプラットフォームであるが、「選挙」という政治家にとって自らの活動を大きく左右する重要なファクターに目を向けると、現状ツイッターを使う旨味はあまりない。というのも、日本では衆参ともに国会議員の選挙が選挙区単位で行われているからだ。
 いくらツイッターでフォロワーを多数集めても、そのフォロワーが自分の選挙区に住んでいなければ直接的な「票」にはつながらない。現状ツイッターで人気を集めることが「票」につながるのは参議院の全国比例区のみである。逢坂誠二氏に続くツイッター議員として名をはせ、ネット選挙運動解禁に向けて精力的に動いた藤末健三氏がさまざまなソーシャル・メディアを駆使して情報発信を行っているのは、ネット上の活動が票につながるという大きなメリットがあるからだ。
 また、7月11日に行われる第22回参議院選挙に自民党から新人候補として立候補した三橋貴明氏は、元々ネットの掲示板への投稿がきっかけとなって経済や政治評論活動を行う作家に転身した略歴を持っている。「ネットを活用して3年かけて戦略的に政治家への転身を目指した」と語る彼が、自分の支持層を最大限に活かせる参議院の全国比例区を選択したのはごく自然な流れだった。

 では、ネット上の活動が票につながるとして、具体的に何票集めれば当選することができるのだろうか。参議院の全国比例区は定数48人で立候補した1名の氏名を記載して投票する個人票と、党として立候補した「参議院名簿届出政党等」の名称を記載する政党票をすべて合算し、ドント式によって各政党ごとの当選人数が決定される。
 この方式は個人票に加えて政党票が加味されるため、無所属で全国比例区に立候補する場合、全国で100万票前後を取らなければ当選することはできない。しかし、民主党や自民党などある程度大きな政党から公認候補として立候補する場合、20万票前後を取れば当選することができるという“メリット”がある。
 いくらネットが普及したとはいえ、政治に興味を持ち、具体的にネットで政治や選挙に関する情報を自ら取得するような利用者層はまだまだ限られている。そうした環境的要因を考えれば、現状ネットの人気だけで個人が100万票を集めるというのは現実的ではない。 しかし、20万票ならどうだろうか。藤末氏のツイッターは現在2万3000以上のフォロワーを抱えている。そのうち1〜2割が彼に投票すれば、単純に数千票は見込める。また、藤末氏はツイッターだけでなく、ニコニコ生放送やUstreamといった動画配信サービスの政治番組に積極的に出演しており、閲覧者からはリアルタイムに好意的な評価も受ける場面も散見されている。
 藤末氏は今回の選挙で「ネットを活用することで5万票は取りたい」と表明しており、恐らくそれくらいの数字が現状のネット選挙状況で浮動票として票が動く妥当なラインなのではないだろうか。20万票すべてをネットで集めるのは難しくても、数万票であれば、十分選挙運動のプラス効果は見込める。
 藤末氏にしろ、三橋氏にしろ、ネットをフルに活用する彼らのような候補が今回の選挙で「個人票」をどれだけ集められるかというところが、今後のネット選挙を考える上で大きな指針になりそうだ。

 次回は、選挙活動以外も含め、個別の政治家ごとにそれぞれ特色があるツイッター利用術を追っていきたい。

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津田大介

メディアジャーナリスト。大学在学中からIT・ネットサービスやネットカルチャーをフィールドに新聞、雑誌など多数の媒体に原稿を執筆。現在、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師、情報通信政策フォーラム(ICPF)副理事長、(財)デジタルコンテンツ協会発行「デジタルコンテンツ白書2010」編集委員。著書に、「Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)」など。
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