- 2017年07月20日 10:59
一生つきまとう悪夢 酸で顔や体を狙う”アシッド攻撃”がイギリスで激増
2/2英国では安く簡単に手に入るアシッド
イギリスでは、硫酸・塩酸・硝酸などのアシッドが安い値段で簡単に手に入る。イギリスの水道水には石灰が大量に含まれているため、石灰が固まって下水が詰まることが多い。石灰を溶かして流すため日常的にアシッドを使う。
アシッドをかけられた際の応急措置は、状況をよく確認したあと、救助者はまず手袋をはめ、アシッドが自分の皮膚に触れないよう安全を確保する。粉末のアシッドならブラシのようなもので被害者の皮膚から払い落とす。
訓練を受けた有資格者でない限り、アシッドの解毒剤を探すのに時間を費やしたり、中和剤を使おうと試みたりしてはいけない。
一番有効な方法は少なくとも20分間は大量に水をかけてアシッドを洗い流し、やけどの進行を食い止めることだ。ペットボトルに入った水しかない場合はそれでも良く、浴槽や池で水につかるのも効果があるという。
被害者は250回以上の手術を必要とするケースも
TV司会者でモデルだったケイティー・パイパー(33)もアシッド攻撃の被害を受けた1人だ。2008年3月、フェイスブックを通じて近づいてきた男に硫酸をかけられた。
顔などを再建するために受けた手術は250回以上にのぼる。現在はモデル業の傍ら、アシッド攻撃の被害者を支援するチャリティー団体も主宰している。アシッド攻撃の多発を受け、ケイティーも公開書簡を出した。※ケイティーのYouTube
「アシッド攻撃を受けたのは24歳の時でした。目が一部見えなくなり、顔や胸、首、腕、手に深刻な、消えない傷が残りました。意識が戻った時、そこにいるのが自分だということが理解できず、自殺しようと思いました」
「アシッドを飲み込んでしまったため、のどを損傷しました。食べ物を飲み込めるようになるためには、これからも手術を受ける必要があります。手術は危険で、私の人生は今一度、危険にさらされます」
「犯人がいずれ刑期を終え、自分の回りに戻ってくるのではないかという恐怖心に被害者は苛まれています。必ずしも司法制度はアシッド攻撃の深刻な被害に対して適切に対応しているとは限りません。アシッドはいとも簡単に手に入るのです」
ケイティーは「アシッド攻撃の増加を放置できない」とアシッド攻撃を抑止するための厳罰化を訴えている。
支援団体アシッド・サバイバー・トラスト・インターナショナル(ASTI、本部・ロンドン)のまとめによると、毎年、世界で1500件のアシッド攻撃が発生しており、被害者の8割は女性や少女だ。事件の約6割は警察に報告されず、闇に埋もれているという。イギリスでは過去10年間で90%もアシッド攻撃が増えた。
ASTIの執行役員ジャフ・シャーは筆者の質問に次のように答えた。
――どうして犯人は罪のない人々にアシッド攻撃を仕掛けるのか
「嫌悪犯罪、強盗、ギャング団の犯罪、性暴力、無差別攻撃など、アシッド攻撃の動機はさまざまです。世界的に見て最も多くの理由は、特に女性に対して憎悪を抱く男がアシッドを使って醜い傷を、顔や肉体に刻み込むことで女性に辱めを与え、社会から孤立させるという目的から来るのでしょう。イギリスでは、こうした動機が他の武器ではなく、アシッドを使う主な要因にもなっています」
――どうしてイギリスでアシッド攻撃が増えているのか
「現在の社会システムや法制度の抜け道になっているから、犯罪者たちはアシッドを武器に選ぶのでしょう。危険な大型ナイフや銃と違って、アシッドを買うのに免許はいらず、年齢制限もありません。簡単に購入できるのです。現行法でも悪意を持ってアシッドを持ち歩いていた場合に限り訴追されますが、立証するのは極めて困難です。アシッドは、狙った犠牲者にひと目で分かる傷を負わせ、痕跡を残すことができます」
――犠牲者にどんなダメージが残るのか。どんな助けが必要か
「肉体的には永久に傷が残ります。失明することもあります。何年にも及ぶ数十回の外科手術を受けなければならないケースもあります。しかし心の傷はもっと長く残ります。多くの犠牲者はうつや社会的な孤立、孤独、恐怖、不安、パニックを経験することになるでしょう。自殺を考える人もいるでしょう。再建・整形手術、精神的な支えやリハビリテーションを含む総合的で効果的な処置が求められます」

――アシッド攻撃をなくす方法はあるか
「短期的にはイギリス政府はアシッドのような劇物を販売する際の免許制や年齢制限(例えば18歳未満への販売禁止など)、現金販売禁止、免許を携帯せずに濃酸を持ち歩くのを犯罪として罰するなどの対策を講じる必要があるでしょう。こうした対策でアシッド攻撃の増加を抑止できる効果を期待できます」
「私たちは問題を十分に理解しているとは言えません。加害者や被害者の年齢、アシッド攻撃の動機、どんな種類のアシッドが一番使われているのか、どの地域で多く発生しているのか、など詳細な調査が求められています。こうした情報が把握できれば、適切な対応を取ることができます」
「今のところ明らかなのは多くの加害者は若い男だということです。どうして男は暴力的なのかを含めた複雑な社会的背景を理解しなければなりません。少年や若い男たちの態度を変える教育も必要でしょう。こうした変化をもたらすことができれば、アシッド攻撃やドメスティック・バイオレンス(DV)を含めた暴力を減らせるでしょう」



