- 2017年07月19日 21:09
フェイクニュースが蔓延するメディア構造はいかにして生まれたか / 法政大学社会学部メディア社会学科准教授、藤代裕之氏インタビュー
2/2情報の責任はどこに?
――配信された情報がフェイクであるにも関わらず、人びとが真実だと思ってしまう背景には、アルゴリズムにより「見たい情報」ばかりが目に入ることが指摘されていますが、このアルゴリズムというのはどのような仕組みなんですか。
アルゴリズムというのは、問題を解くための方法や計算式のことです。例えば、Facebookでは、いいね!や投稿の閲覧時間を解析して、意見の合う友達の投稿やニュースを優先的に表示するアルゴリズムがあります。友達としてつながっている相手でも、関心が低そうな投稿は表示されなくなるので、知らず知らずのうちに、同じような意見の人ばかりの投稿が表示されていくということになります。
ネット企業は、気持ちよくサービスを活用してもらうためアルゴリズムを利用しているので、「アルゴリズムにより情報が偏っています」という表示を出すようなことはありません。アルゴリズムは目に見えないために疑うことが難しいのです。このような、アルゴリズムにより、自分にとって都合のよい興味・関心を持つ情報の膜に包まれる状況をフィルターバブルと呼んでいます。
フィルターバブルに包まれていると、マスメディアが偽ニュースだと報じていても、周囲からは「マスメディアがウソをついている」「(偽ニュースこそ)本当だ」という声ばかり聞こえるということが起こってきます。そうすると次第に身近な人が言う自分に心地の良い情報を真実と信じるようになっていきます。
――フェイスブックなどのソーシャルメディアは、ニュースへのアクセスを支える重要なプラットフォームになっている反面、フェイクニュース拡散の温床になっていると批判の声もあがっています。
そうですね。特にアメリカでは大統領選後、フェイクニュース拡散におけるソーシャルメディアの影響が大きいのではないかと批判が高まり、Facebookが対策を進めています。
ソーシャルメディアを通しての情報選択には、幾つかの課題があります。まず、ソーシャルメディアは、投稿した情報に責任を持たないということです。一連のニュース生産・消費の流れの中で、ソーシャルメディアはプラットフォームという立場にあるとされています。これは先ほど言った「新聞少年」の役割で、自らはニュースを作らず、あくまでメディア、つまり新聞社などからの情報をお客さんである読者に届ける役割をしています。発信する情報の正確性に責任をもつメディアと違い、プラットフォームは、色々な情報を流通させることを重視しているので、真偽を確認することはありません。リテラシーを持って利用者がニュースを読み解く事が必要になります。
しかしながら、ソーシャルメディアの情報は、友人や知人を経由して行われます。どの友人や知人からのニュースを多く表示するかは、アルゴリズムが編集するようになっていますが、利用者は「友達が紹介しているから、確かなのだろう」と思ってしまうのです。
――選挙後批判が集まり編集責任を問われたFacebookも、当初自分たちはプラットフォームであってメディアではないので責任はないと発言していましたね。
ええ。曖昧に使われていることが問題を大きくしていますが、メディアとプラットフォームの境界線は異なります。先ほどもいったようにざっくり言うと、 メディアは、発信に責任を持つ。 プラットフォームは場の提供者であり、発信はそれぞれの投稿者の責任と分けられます。
昨年、大手ネット企業のディー・エヌ・エーが、医療系まとめサイトウェルクなどで、不確実な情報や、権利侵害の疑いがあるコンテンツを掲載しており、問題になりました。まとめサイトは「キュレーションサイト」とも呼ばれ、人びとの口コミなどネットの情報を整理しており、マスメディアとは異なる情報があり、人気がありました。しかしながら、ディー・エヌ・エーはクラウドソーシングと呼ばれるネットを通して仕事を発注する仕組みを使い、安く記事を「製造」していたのです。大手企業がフェイクニュースをビジネスにしていたことは大きな衝撃でした。
この問題を調査した、第三者委員会報告書は プロバイダ責任制限法に言及しています。その中で、「メディアは、自己の判断と責任により、情報、事実、根拠等の資料を集め、その資料に基づいて作成した記事や情報を世間に発信する役割を果すものを言う」とされ、 プラットフォームは、「(1)プラットフォーム事業者、(2)プラットフォーム上で情報や商品・サービスを提供する者、(3)その情報や商品・サービスを利用する者の三者が存在する構造となっており、プラットフォーム事業者は、原則として(2)の情報、商品・サービスの提供者とはならないことに特徴がある」と書かれています。
報告書は、ディー・エヌ・エーが記事を「製造」した部分はメディアであったと指摘しています。まとめサイトは、ネットにあるコンテンツを整理するプラットフォームのはずが、実は自社で作ったコンテンツを混ぜるメディアだった。プラットフォーム事業者は、サービス提供者にはならないという特徴が、ウェルクやメリーといったディー・エヌ・エーのまとめサイトでは破られていました。
このような、実態はメディアであるにもかかわらず、プラットフォームを装うことで、情報扱う主体としての責任から逃れていたのです。本の中でもヤフーについて、メディアとプラットフォームがあいまいな状態であることを指摘しています。
対策に乗り出す各国
――Facebookも最終的には編集責任を認め、対策を始めましたね。
そうですね。アメリカ大統領選挙の後、FacebookやGoogleでは、フェイクニュース対策が行われるようになっています。 Facebookは、当初は責任を認めていませんでしたが、現在は対策を行うようになっていて、報道機関との連携を深める、ジャーナリズムプロジェクトをスタートさせています。ジャーナリズムスクール(大学院)との連携プロジェクトへの資金提供も行っています。
Googleでは、ニュースラボなどが資金を提供し、メディアとプラットフォームが連携し、フェイクニュースの追跡などが行われています。ヨーロッパでは、メディアの連携によるファクトチェック「クロスチェック」という取り組みが行われています。フランスの大統領選挙の際には、マクロン、ルペンなど候補に偏りなく、ネットで広がるフェイクニュースを取材していました。加盟するメディアがフェイクだと考えれば、そのメディアのロゴが掲載されるので、ある特定のメディアだけによるファクトチェックよりも信頼性が高まりますし、メディアに都合が良い恣意的な話題に対してファクトチェックを行っているというネットでの批判にも対抗することが出来ます。
ジャーナリズムの世界では、BBCなどがスローニュースという取り組みに力を入れています。速報ではなく、分析や深掘りをしていくニュースのことで、CGMであるブログに注目していたジャーナリストであるダン・ギルモアさんが提唱しています。スピードの早いソーシャルメディアから距離を置き、考えることを大切にした報道です。
フェイクニュースは、読者が誤解しそうなタイトル、衝撃的な写真などを利用して、早く拡散します。反射的にニュースを読むと、このようなフェイクニュースに引っかかってしまうのです。これら世界の動きは、朝日新聞の記者である平和博さんの新著『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』にも詳しく紹介されています。
――日本では、どのような対策が取られているのですか。
先日、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」の楊井人文さんや、ニュースアプリを提供しているスマートニュースの藤村厚夫執行役員らによる「ファクトチェック・イニシアティブ (FactCheck Initiative Japan, FIJ)」が発足しました。ファクトチェックのガイドラインづくりなどを行う予定です。このプロジェクトの特徴は、東北大学と組んで、機械学習・自然言語処理技術を取り入れようとしているところです。
他にも、私が代表を務める一般社団法人日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が、新聞社やテレビ局の記者、研究者、ゼミ生らと研究会を立ち上げました。こちらは、フェイクニュースの拡散状況や拡散方法について、実態解明を目的にしたものです。6月に開いた第一回研究会では、ヨーロッパで制作が進む「A Field Guide to Fake News」(第三章まで公開)をテキストに、フェイクニュース対策の取り組みを共有しました。JCEJは元の団体から邦訳許可を得ているのですが、欧米ではマニュアルなどが作られ、知見が共有される工夫が行われていることにも驚きます。
JCEJでは、既にアメリカのファクトチェック団体「First Draft News」が公開している、ソーシャルメディア取材のハンドブック「A Journalist’s Guide to Working With Social Sources(ソーシャルメディアを使った取材の手引き)」を邦訳して公開しています。知見をできるだけ多くの人に知ってもらうために、積極的に情報を公開していきます。
残念ながら、日本ではネット企業がフェイクニュース対策の資金を提供する動きはありません。研究会の活動資金はクラウドファンディングで集めるつもりです。
――ここまでシステム的にフェイクニュースが広がる環境ができてしまうと、個人のリテラシーで真偽を判断するのも難しそうです。
正直なところ、アルゴリズムなどが高度化するなかで個人が情報の真偽を判断するのはとても困難になってきています。しかし、いくつかの方法はあります。まず、正体不明のバイラルメディアのニュースをソーシャルメディアでシェアしないということです。ニュースを見たら、運営企業が書かれているか、住所はどこなのかを確認しましょう。
運営企業名がない場合もあれば、住所を検索すると畑の真ん中だったりすることもあります。このような、産地が分からないニュースを読み、シェアするというのは、野菜の産地を確認せずに、食べているようなものです。以前に食品の産地偽装が話題になりましたが、ニュースの偽装に人々はもっと多くの関心を持つべきでしょう。
ネットは、人びとの生活に欠かせないインフラとなっています。海外では、過激派やヘイトのコンテツに広告が出ることで、商品やサービスのボイコットが起きており、ネットでの広告がリスクになりつつあります。マクドナルドやスターバックスなどがYouTubeから広告を撤退、P&Gやユニリーバという巨大ブランドもネットへの広告を見直しています。
正体不明のニュースを拡散し、ヘイトを助長する舞台になっているプラットフォームを運営している企業は、もっと社会的な責任を持ち、対応を進めるべきです。
――アルゴリズムによる情報の偏りを危惧した人々からは人による編集の必要性を訴える声が聞こえる一方、人為的な編集もアルゴリズムの一種であると反論もありますが、両者の公正性に関して、藤代先生はどうお考えですか。
そもそも編集は恣意的なものです。マスメディアは中立であると言いすぎていると思います。そのために、ネットユーザーから編集の恣意性を批判されるようになっています。より、分かりやすく編集方針を示していく必要があるでしょう。一方、実はアルゴリズムも偏っているにもかかわらず中立を装い、マスメディア批判を行うネット企業は大きな問題だと思います。表示方法やランキングがどのように行われているか、アルゴリズムを監査すべきという声もあります。読者は、ネットで触れている情報が偏っている可能性に、常に注意していく必要があります。
――私たちが触れる情報は何らかのフィルターを通って出てきているのだということを認識して、ニュースに接することがリテラシーへの第一歩という感じがします。藤代先生、お忙しところありがとうございました!
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「ポピュリズムはなぜややこしいのか?」
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藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト徳島新聞の記者として、社会部で司法・警察、地方部で地方自治などを取材。2005年からNTTレゾナント(goo)で、ニュースデスク、新規サービス開発を担当。2013年から法政大学社会学部メディア社会学科准教授。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。著書に『ネットメディア覇権戦争偽ニュースはなぜ生まれたか』『発信力の鍛え方』、編著に『ソーシャルメディア論:
つながりを再設計する』『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』など。



