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【赤木智弘の眼光紙背】被災地のがれき受け入れが始まったものの……

 東京都で、震災がれきの受け入れが始まった。(*1)
 地震と津波で生じた大量のがれきの処分は、復興に向けて最初に行われるべき大きな課題であるといえる。地元だけでは処分の手は足りず、多くの自治体に対して処分の支援が求められている。
 にも関わらずがれきを受け入れようとする自治体は少ない。環境庁の調査によると、4月の調査では572の市町村ががれきの受け入れを実施検討していくとしていたが、11月に発表された調査では54市町村に激減した。(*2)
 激減の理由は明らかで、どこの自治体も放射性物質に対する懸念、またそうした懸念を受けて反対する住民への配慮から、支援を表明できないでいる。
 今回、東京都に持ち込まれたのは岩手県宮古市のがれきである。これに対して「放射性物質を拡散するな」という声が上がっている。しかし、福島第一原発からの直線距離を比べれば、東京よりも宮古市の方が離れているのだ。
 私の記憶では、震災当初、原発事故が発表され、政府が半径20キロや30キロという批判指定をしたときに、放射性物質による被曝を懸念する人たちは「放射性物質の拡散は同心円ではない!」と批判し、政府に対してきめ細かな対応を要求していたはずだ。
 しかしそれから8ヶ月が経ち、様々なことが明らかになった今になっても、彼らは「被災地のがれき=放射性物質に汚染されたがれき」であるかのように、被災地と放射性物質が多く拡散した地域を一緒くたにして批判の声を上げている。
 地震や津波という全体的な被災地は広大であり、福島第一原発から30キロなどという狭い範囲ではない。にも関わらず、それを全部「汚染地域」であるかのように扱うのは、当時の政府以上に大雑把で、実態を無視した批判ではないだろうか。

 ネット上では、反原発を表明する人たちが、瓦礫受け入れに対して、あまりに突拍子もない反応をしていた。
 話を聞くに、がれきから出る放射線の計測は、「鉛のコンテナ」に入れたまま、その「外側を測定」した、だから「放射線が検出されなかった」という測定結果はインチキだという。
 まず不思議なのは「鉛のコンテナ」とはなんなのだろうか? コンテナといえば、がれきを列車に乗せて運んだコンテナの事なのだろうが、鉛という質量の大きい金属で作られたコンテナを乗せた貨物列車やトラックは、果たしてまともに走れるものだろうか?
 また「外側を測定した」というのは、毎日新聞の記事(*1)の写真の風景であろうか。左側にがれきが入った鉛の箱があり、確かに外側で測定しているかのように見える。しかし実際はこの測定機からはコードが出ていて、その先のセンサーが鉛の箱の中に入っており、箱を開けずに内部の放射線量を測定できるようになっている。
 今回のがれき受け入れを視察した、やながせ都議がブログに掲載した写真(*3)の、上から5番目と6番目にも、測定器とコードがハッキリと写っている。
 ちなみに鉛の箱の中で放射線を検出するのは、その空間にある放射線の影響を排除し、がれきから出る放射線だけを正確に測定するためである。
 また、反原発派が集う掲示板の中には、やながせ都議のブログの記事から、このページ(*4)の上から8番目の、コンテナの横で放射線量を測定している写真を転載して「鉛のコンテナの外で測っている証拠」としているものもあった。しかしこれは宮古側での測定風景であるし、また東京都側で行った測定方法と同じ方法で、測定した写真も同じページに紹介されている。コンテナの外を測ったのは、あくまでも「輸送中に放射線がでることはありませんよ」というアピールだろう。もっとも、がれきから放射性物質が検出されてない以上、それを積んだコンテナから放射線がでるはずもない。
 こうしたことを、反原発側は意図的に、もしくは無知が故に混同しながら、大々的に拡散し、宮古からきたがれきが、放射性物質であるかのように印象づけようとしている。

 こうした一連のデマの中で私が一番ゆるせなかったのは、「鉛のコンテナで運んで、鉛の箱に入れて測定するって、汚染がれきと証明しているようなものだ」というつぶやきが拡散されていたことである。
 私の記憶が確かであれば、彼らは「安全側に倒せ」と言っていたハズだ。ならば鉛のコンテナというものが実現できるとして、放射線を通さないコンテナで放射性物質が付着していないがれきを運ぶことは、まさに「安全側に倒す」ということだろう。
 しかしそうした安全側に倒したことそのものを揶揄して「鉛のコンテナで運ぶことは、汚染されている証拠だ!」と批判されるのであれば、安全側に倒す、すなわち安全のために対策を取ることが、一切できなくなってしまうではないか。
 そう考えると、あの原発事故を生んだ「安全神話」がどこから生まれたのかがよくわかる。
 何重もの安全対策をしたり、危機管理の姿勢を見せればこのように「それは危険な証拠だ!」と突き上げを食らうからこそ、原発は「(十分な安全対策が見込めなくても)とにかく安全」でなければならなかった。そうしてごまかさなければ、原発によって日本の発展に必要なエネルギーを確保することはできなかった、すなわち日本の発展はなかったのだろう。
 つねに危険性を公表し、リスクコミュニケーションを繰り返すことによって、近隣住民はいざというときの対処を頭に入れ、かつ原発そのものの安全性を高めていくような、リスクとベネフィットのバランスを取りながら歩んでいくことは、かつての日本人にはできなかったのである。
 本当であれば、私たちはそうした失敗を今回の震災で学び、これからのエネルギー政策に生かしていかなければならない。しかし、現状では、まっさきに行われなければならない被災地のがれきの処理さえ、がれきが放射性物質を含むというデマに踊らされ、遅々として進んでいない状況だ。リスクとベネフィットを比較するためには、正確な現状認識が必要不可欠である。しかし時勢を得たと思い込んでいる反原発派は「とにかく全部危険なのだ」として、正確な情報を出そうとする行政に対する根拠なき揶揄を繰り返している。
 そんな現状だから、日本人が本当の意味でのリスクコミュニケーションをとれるようになるのは数年、いや数十年後かもしれない。しかし、その時にこそ、日本人が本当の意味で震災を乗り越え、震災以前の日本から大きく脱皮をしたと胸を張れるようになるのだろう。

*1:東日本大震災:岩手のがれき、都内で処理作業開始(毎日新聞)
*2:がれき受け入れ自治体、放射能不安で1割に激減(読売新聞)
*3:震災瓦礫の受け入れが始まった【その3・視察報告11月3日】(東京都議会議員 やながせ裕文)
*4:震災瓦礫の受け入れが始まった【その2・視察報告11月2日】(東京都議会議員 やながせ裕文)

赤木智弘(あかぎ・ともひろ)

1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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