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【赤木智弘の眼光紙背】ノンブレーキ報道が止まらない!

 少し前の話になるが、お笑いコンビ「チュートリアル」の福田充徳さんが、自転車の片輪にしかブレーキをつけていなかったとして取り締まりを受けていたというニュース(*1)が、テレビで盛んに取り上げられていた。
 その時に、多くの番組で不思議なグラフが表示されていた。なんとここ数年で、交通事故のうち自転車事故の割合が増えているのだという。そして画面の向こうのコメンテーターたちは「ブレーキを付けないなんて危ない」「最近はマナーを知らない人が増えた」ようなことをしゃべっていた。
 私は、この報じられ方を見た瞬間に「あやしい」と感じた。

 考えてみよう。ある地区の1年のうち、前半の半年における「交通事故のうち自転車事故の割合」が50%。後半が90%だというデータがあるとして、後半になって、自転車事故が急増したと考えるべきだろうか?
 確かに、最初の半年は自動車事故が50件で自転車事故が50件で50%。後半が自動車事故が50件、自転車事故が450件で90%のような場合は、自転車事故が急増していると言えるだろう。
 しかし、後半の自動車事故が1件。自転車事故が9件だった場合も同じく、交通事故のうち自転車事故の割合の割合は90%となる。この場合はさっきと真逆で、自転車事故は激減していると言えてしまう。
 このように、交通事故の増減は、交通事故の実数を見なければわからず、「交通事故のうち、自転車が関わる割合」が上下したとしても、それで事故が増えたか増えていないかなど、わかりようがないのである。

 では、実際のデータを見てみよう。(*2)
 一目瞭然、自転車が交通事故に関わる件数は、やや右下がりの傾向であり、事故は減っている。ではなぜ「自転車が交通事故に関わる割合」が増えたかといえば、それはここ数年で自動車事故が大幅に減ったからである。(*3)
 自動車事故が減った分、見かけ上、自転車事故の割合という数値が増えた。これを「自転車事故過去最悪ペース」(*4)というヘッドラインにするのは、無理がありすぎるどころか、デマの類と断じてしまっていいだろう。
 とはいえ、意図せずにおかしな報道を見過ごしてしまう通信社もあるかもしれない。担当が新人で、チェックするデスクも忙しくて頭も回らず、こうしたおかしな数字を見過ごしてしまったのだろう。そうした会社が一社ぐらいあってもおかしくない。彼らだって人間だ、間違うこともあるだろう。それでも、全体としてこうした報道が否定されていれば、マスメディアは全体として、報道を司る能力は安泰と考えてもいいだろう。
 しかし、残念ながらこの報道をしているのは一社だけではなかった。
 チュートリアルの福田が取り締まられた件は、多くのテレビでも報じられたが、私が見た限り、そのすべての番組で「自転車事故が増えているのは、自転車のマナーが悪くなったからだ」という紋切り型の報道を繰り返していたのである。ひょっとしたら「自転車事故が増えている」とは言っていなかったかもしれないが、少なくとも自転車の危険が近年増しているような印象を植え付ける報道であった。
 さらに、どの報道においても、割合だけが表示され、自転車事故の実数はまったく示されていなかった。事故の実数こそ「自転車事故が増えた」ことを示す唯一のデータであるにもかかわらず、まったく関係のない「自転車が交通事故に関わる割合」を振りかざしていた。彼らは、自分たちが示している数字の意味を全く理解していないのだ。
 スーツなどを着込んで偉そうにしているコメンテーターたちも「私も、速い自転車を見かけて危ないなと思ってたんですよ」なんて世間話をして、誰一人として「事故の実数がないと、増えているとは言えないはずでは?」と、まっとうな指摘する人はいなかった。

 事故は減っているのに、なぜわざわざそのようなウソをつく必要があるのだろうか。
 もちろん、「事故は減っているから取り締まりは不要だ」と言うつもりはない。ノンブレーキの自転車が危ないことは言うまでもないし、事故を一件でも減らすことは、警察の大切な仕事である。
 しかし、そのために嘘をつく必要はどこにもないではないか。
「事故件数は減ってはいるものの、まだまだ多いですし、死亡事故も発生しています。ノーブレーキや前後輪の片方しかブレーキがない自転車は違反です。交通マナーを守りましょう」とアナウンスすればいいではないか。
 一体どこに「自転車事故の割合が増えている」などという意味の分からない数値を振りかざして、自転車事故が増えているかのように偽装工作をする必要があるのだろうか?
 そして、どうしてその偽装をマスメディアがわざわざ広報してやる必要があるのだろうか?

 マスコミは第四の権力と言われる。
 司法立法行政という三権が相互に監視しあうしくみになぞらえ、マスコミも同じように、三権に対して監視の目を向けることこそが、マスメディアとしての矜持であると言われている。
 いわば、マスメディアは国家権力という力に対するブレーキである。
 ならば、今回のように、データの裏も取らず、ただ警視庁の発表を垂れ流したす報道は「ノンブレーキ」状態にあるといえよう。
 ノンブレーキピストが一台事故を起こしたとしても、その影響はせいぜい数人単位である。しかしマスメディアというブレーキが利かない国家権力は、国民の多くを巻き込みながら暴走しかねない。
 利かないブレーキを再び利かせるためにも、いい加減な報道をしっかりと批判し、マスメディアを甘やかさない必要があるといえよう。

(*1)チュートリアル福田充徳さん、「ピスト」走行で反則切符(J-CAST)http://www.j-cast.com/2011/09/29108532.html
(*2)自転車乗用中の交通人身事故発生状況(警視庁)http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/jiko/data/jiko_bicycle.pdf
(*3)平成22年中の交通事故の発生状況(警察庁)http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001070719
(*4)自転車事故過去最悪ペース=通勤利用影響か、対策強化へ−警視庁(時事通信社)http://www.jiji.com/jc/zc?k=201110/2011100900081

赤木智弘(あかぎ・ともひろ)

1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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