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- 2011年10月08日 09:00
【赤木智弘の眼光紙背】そっちは本当に安全側なのか?
7日から鈴鹿で開催されているF1日本グランプリの数日前、参加チームの1つであるレッドブルレーシングが、日本の食材に放射性物質の汚染があることを懸念して、日本の食材を口にせず、チーム全員分の食材を持ち込むという報道があった。(*1)
その後、チームが正式に「日本の食材を一切使わない、日本の食材を食べないようスタッフに指示した、という事実はない」と表明(*2)したため、騒ぎは収まっているようだ。
この件に関しては、私自身「もうレッドブルは飲みません」と書き込んでしまい、結果として不確かな情報を広めてしまったと思う。私個人としては「そういう事実はない」というチームの表明が出た以上、それを信用しない根拠もないので、今後もレッドブルを飲むことする。せいぜい月に2本程度だけれど。
チームの表明が出る前、私がレッドブルを批判したことに対して、いくつか反応があった、そうした人たちのやり取りと、またネット上の反応を見ると、こうした行為を「トップアスリートだから健康管理は当たり前。放射性物質のリスクがわからない以上、安全側に倒すのは当然」であるとして、擁護する人が多いことに気がついた。
プロのアスリートが、自らが口にするものに対して、気を使うのは当然である。それは健康を守るためであるのはもちろんだが、大抵のスポーツにおいてルール上不利となる脂肪への注意もあるし、病気の治療などに関しても、ドーピングとみなされる薬品などを口にしないようになど、様々な方面から細心の注意を払っている。そして、そうした体調管理はチームの調理師やドクターなどが、明確な科学的根拠をもとに調整している。
そういう意味で考えれば、食品の放射性物質の量が公表(*3)され、科学的にみて影響がない数値しかない地域の食べ物を、わざわざ忌避する理由をチームが持っているとも思えない。
もちろん、「放射性物質が付着しているかもしれない食品を口にしたくない」というレーサー、並びにスタッフの心情を汲んで食品を持ち込むというのはありえない話ではないし、それが個人的な要望であればおかしな事だとは思わないが、そうした科学的根拠のない行為を、チーム全体として指示することは普通に考えればありえないのではないか。
本題はここからなのだが、私が以前から気になっているのが、この「安全側に倒す」という言葉である。
例えば地震や火災があって避難しなければならないときに、とりあえず電気のブレーカーを落とすことは「安全側に倒す」ことである。それによって冷凍庫のアイスは溶けるかもしれないが、電気火災などの危険を考えればブレーカーは落としたほうがはるかにリスクは低い。
また、システム設計などでは、面倒臭いという問題はあっても確認の手順を増やすことで、大きな問題に至らないようにするという意味で使われる言葉である。
ところがそれが放射性物質の問題になると「福島の野菜を口にしないこと」や「速やかに引っ越すこと」などが「安全側に倒すこと」であるかのように扱われている。私はこの種の「安全側に倒す」という表現を耳にするたび、「歩道に落ちているバナナの皮を避けようと車道に出て、車に轢かれそうになっている人の姿」を思い浮かべてしまう。
ブレーカーを落とすことは、電気が使えなくなることと通電火災のリスクの比較の上にあるし、システムも手間と大規模なシステムダウンなどとのリスク比較の上にある。
プロアスリートにしたって、が何かを口にして、何かを口にしないというのは、そこには科学的な判断基準がある。「安全側に倒す」というが、その基準判断には「そちらのほうが安全であろう」「逆側は危険であろう」という考察が必要である。その論拠を明示しないまま、ただ片方を盲目的に安全側、もう一方を危険側と思い込むことは、客観性や考察の否定である。
「放射性物質は何にもまして忌避するべきなのだ」という安易な考え方は、そのままリスク管理の否定であり、逆に別の大きなリスクを呼び込んでしまう危険があることを意識しなければならないはずだ。
そもそも、レッドブルレーシングにとっての最大のリスクは「スポンサー名を傷つけかねない」ことではないか。
レッドブルという缶飲料が日本でも定着し始め、無視できない市場となっている矢先に「ああ、あの日本を馬鹿にしたレッドブルね」と嘲笑されるような事件が起きれば、当然スポンサーは激怒する。
そうしたリスクを考えれば、レッドブルレーシングにとって、日本の食材を口にしないなどと公表することは決して得策ではない。また、そのリスクを無視して「日本の食材を無視することが、レッドブルレーシングにとっては安全側に倒すことだろう」という考え方も、私には到底理解できないものである。
*1:レッドブル、汚染を恐れ日本の食品は飲食禁止に(オートスポーツweb)http://as-web.jp/news/info.php?c_id=1&no=36664
*2:レッドブル・レーシングによる公式ステートメント(レッドブル)http://www.redbull.jp/cs/Satellite/ja_JP/Article/Official-Statement-from-Red-Bull-Racing-021243096907588
*3:食品中の放射性物質の検査結果について(第211報)(厚生労働省)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001qutw.html
その後、チームが正式に「日本の食材を一切使わない、日本の食材を食べないようスタッフに指示した、という事実はない」と表明(*2)したため、騒ぎは収まっているようだ。
この件に関しては、私自身「もうレッドブルは飲みません」と書き込んでしまい、結果として不確かな情報を広めてしまったと思う。私個人としては「そういう事実はない」というチームの表明が出た以上、それを信用しない根拠もないので、今後もレッドブルを飲むことする。せいぜい月に2本程度だけれど。
チームの表明が出る前、私がレッドブルを批判したことに対して、いくつか反応があった、そうした人たちのやり取りと、またネット上の反応を見ると、こうした行為を「トップアスリートだから健康管理は当たり前。放射性物質のリスクがわからない以上、安全側に倒すのは当然」であるとして、擁護する人が多いことに気がついた。
プロのアスリートが、自らが口にするものに対して、気を使うのは当然である。それは健康を守るためであるのはもちろんだが、大抵のスポーツにおいてルール上不利となる脂肪への注意もあるし、病気の治療などに関しても、ドーピングとみなされる薬品などを口にしないようになど、様々な方面から細心の注意を払っている。そして、そうした体調管理はチームの調理師やドクターなどが、明確な科学的根拠をもとに調整している。
そういう意味で考えれば、食品の放射性物質の量が公表(*3)され、科学的にみて影響がない数値しかない地域の食べ物を、わざわざ忌避する理由をチームが持っているとも思えない。
もちろん、「放射性物質が付着しているかもしれない食品を口にしたくない」というレーサー、並びにスタッフの心情を汲んで食品を持ち込むというのはありえない話ではないし、それが個人的な要望であればおかしな事だとは思わないが、そうした科学的根拠のない行為を、チーム全体として指示することは普通に考えればありえないのではないか。
本題はここからなのだが、私が以前から気になっているのが、この「安全側に倒す」という言葉である。
例えば地震や火災があって避難しなければならないときに、とりあえず電気のブレーカーを落とすことは「安全側に倒す」ことである。それによって冷凍庫のアイスは溶けるかもしれないが、電気火災などの危険を考えればブレーカーは落としたほうがはるかにリスクは低い。
また、システム設計などでは、面倒臭いという問題はあっても確認の手順を増やすことで、大きな問題に至らないようにするという意味で使われる言葉である。
ところがそれが放射性物質の問題になると「福島の野菜を口にしないこと」や「速やかに引っ越すこと」などが「安全側に倒すこと」であるかのように扱われている。私はこの種の「安全側に倒す」という表現を耳にするたび、「歩道に落ちているバナナの皮を避けようと車道に出て、車に轢かれそうになっている人の姿」を思い浮かべてしまう。
ブレーカーを落とすことは、電気が使えなくなることと通電火災のリスクの比較の上にあるし、システムも手間と大規模なシステムダウンなどとのリスク比較の上にある。
プロアスリートにしたって、が何かを口にして、何かを口にしないというのは、そこには科学的な判断基準がある。「安全側に倒す」というが、その基準判断には「そちらのほうが安全であろう」「逆側は危険であろう」という考察が必要である。その論拠を明示しないまま、ただ片方を盲目的に安全側、もう一方を危険側と思い込むことは、客観性や考察の否定である。
「放射性物質は何にもまして忌避するべきなのだ」という安易な考え方は、そのままリスク管理の否定であり、逆に別の大きなリスクを呼び込んでしまう危険があることを意識しなければならないはずだ。
そもそも、レッドブルレーシングにとっての最大のリスクは「スポンサー名を傷つけかねない」ことではないか。
レッドブルという缶飲料が日本でも定着し始め、無視できない市場となっている矢先に「ああ、あの日本を馬鹿にしたレッドブルね」と嘲笑されるような事件が起きれば、当然スポンサーは激怒する。
そうしたリスクを考えれば、レッドブルレーシングにとって、日本の食材を口にしないなどと公表することは決して得策ではない。また、そのリスクを無視して「日本の食材を無視することが、レッドブルレーシングにとっては安全側に倒すことだろう」という考え方も、私には到底理解できないものである。
*1:レッドブル、汚染を恐れ日本の食品は飲食禁止に(オートスポーツweb)http://as-web.jp/news/info.php?c_id=1&no=36664
*2:レッドブル・レーシングによる公式ステートメント(レッドブル)http://www.redbull.jp/cs/Satellite/ja_JP/Article/Official-Statement-from-Red-Bull-Racing-021243096907588
*3:食品中の放射性物質の検査結果について(第211報)(厚生労働省)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001qutw.html
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。



