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【佐藤優の眼光紙背】サイバー攻撃に関するコリント[協力諜報]を強化せよ

 三菱重工業が外部からサイバー攻撃を受けていたことが明らかになった。産経新聞は、

三菱重工では、感染したサーバー、パソコンなど計83台の一部が、海外サイトに強制的に接続。IPアドレスなど同社のネットワークシステム情報が流出していたことが、関係者への取材で判明。警視庁公安部は不正アクセス禁止法違反や業務妨害容疑なども視野に捜査する方針を固めた。(9月21日MSN産経ニュース)

と報じる。

 三菱重工業は、日本最大の軍産複合体だ。潜水艦やミサイルの研究開発に従事する事業所や研究所もサイバー攻撃の対象となった。さらに、同じく軍産複合体の三菱電機、IHI、川崎重工業もサイバー攻撃を受けたことが明らかになった。本件を民間企業に対する攻撃と見なしてはならない。産経新聞の以下の指摘を重く受け止めるべきだ。

サイバー攻撃は日本を代表する防衛関連企業をターゲットにしていたことが明らかになってきた。国家の存立を担保する安全保障への脅威といえ、深刻だ。警視庁は他国のスパイ活動「サイバーインテリジェンス」の可能性もあるとみて攻撃元の特定を進める。

 「まさに相手陣内にスパイとなる味方を送り込むようなものだ」。サイバー犯罪に詳しいネットエージェント(東京)社長の杉浦隆幸氏は、今回の攻撃をこう分析する。手口はいずれも「標的型メール」によるもの。実在の会社幹部や社員を装って標的のパソコンにメールを送り、ウイルスを仕込んだ添付ファイルやURL(サイトのアドレス)を開かせ感染させる。

 杉浦氏によると、ウイルスに感染すると、第三者が外部からアクセスし、内部情報を抜き取れるほか、社内の様子を録画したり、盗聴したりできる。「スパイ」といわれるゆえんだ。添付ファイルを開封したり、URLをクリックしたりしなければ感染しないとされるが、膨大なメールを受信する中で、トラブルが起きないとも限らない。

 IHIの場合、社員教育とセキュリティーシステムの強化で怪しいメールの未開封を徹底していたため、感染せずに済んだが、防衛産業最大手の三菱重工は感染し、防衛省から「機密情報を持つ会社として対策も対応も甘い」と指摘された。標的型メールは近年、企業だけでなく、防衛省や経済産業省など官庁にも仕掛けられており、手口がさらに巧妙化する恐れもある。(9月21日MSN産経ニュース)

 今回のサイバー攻撃は、日本国家そのものに対する挑戦だ。捜査当局が真相究明を徹底的行うこととともに、実効性が担保された再発防止措置を至急とらねばならない。読売新聞は9月21日の社説で、

防衛や先端技術に関連する企業が攻撃された場合、防衛省、警察庁、経済産業省などの関係省庁はどう対処するのか。省庁間の連携強化へ体制の再点検も必要だ。/警察庁と国内企業4000社は8月、サイバー攻撃に関する情報を共有するためのネットワークを発足させた。ウイルス対策に精通した人材の育成も含め、官民の協力を一層進めてほしい。(9月21日読売新聞朝刊)

と主張する。全面的に賛成だ。ただし、日本の企業や官庁は、意思決定に時間がかかる。政治家も総論としてサイバー攻撃対策が必要であることを理解していても、具体的に何をしたらよいかがよくわからない。

 こういうときに重要なのが、「裏の外交」におけるインテリジェンス協力だ。コリント(collint)という業界用語がある。コレクティブ・インテリジェンス(collective intelligence、協力諜報)の略だ。利害関係を同じくするインテリジェンス機関が相互に協力することを指す。サイバー攻撃に対する防御がもっとも発達しているのは、この分野での最も高いノウハウを持った国だ。それは、米国やロシアではない。イスラエルである。イスラエルが、イランの核開発施設に対するサイバー攻撃で大きな成果をあげたのは、インテリジェンスの世界における公然の秘密だ。この分野におけるイスラエルの能力は卓越している。

 日本とイスラエルの間に深刻な利害対立は存在していない。また、イランに関して日本はイスラエルが欲しがる情報を持っている。従って、日本はイスラエルと、互恵的なコリント態勢を構築することができる。イスラエルは秘密を守ることができる。日本の国益のためにイスラエルとのコリントを真剣に考えるべきだ。(2011年9月21日脱稿)

佐藤優(さとう まさる)

1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。
2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「予兆とインテリジェンス」(扶桑社)がある。

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