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【赤木智弘の眼光紙背】変わらないことを望んではいけない

 連合が「ワーキングプア(年収200万円以下)層の生活・意識調査」を発表した。(*1)

 主な結果としては「自分の将来に希望が持てないが63.5%」や「ワーキングプアであると感じた経験があるが6割」などが強調されている。

 対象は1000人ということだが、調査対象が「個人年収が200万円以下で、家計の1割以上を負担している20歳〜59歳の男女」ということなので、一人暮らしはもちろん、パート労働の主婦や、親元にいるフリーターなども含まれるようだ。


 私がこのアンケートの中で最も注目したいのは「収入アップは無理だと感じている」人の割合である。

 この質問に「あてはまる」旨を答えた人の合計は78.8%である。しかしそのうち「非常にあてはまる」と「ある程度あてはまる」の数値が、「非常に」が44.7%。「ある程度」が34.1%となっている。

 こうしたアンケートの場合、多くはニュートラルに近いところの数値が高くなる。つまり中央が高い山形のグラフになることが多い。しかし、この問いに対しては明確に「収入アップは無理だ」と答えている。

 これに加えて、同じアンケートの中の「生活が苦しくて、ホームレスになる可能性がある」と答えている人の数値を見ると、これと逆で「当てはまらない」を答えている人の合計が81.6%であるうち、52.8%が「全くあてはまらない」と、きっぱりとホームレスになる可能性を否定しているのだ。

 私はこの2つの項目はセットとして見るべきだと考えている。つまり「収入は上がらないけれども、ホームレスになるような生活状況ではない」このこと自体が、ワーキングプアの厳しい現実を直接物語るのではないかと考えているのだ。


 一見、前者のアンケート結果は悲観的である一方で、後者のアンケート結果は良好に思える。ホームレスになるような貧困でなければ、万々歳と思う人がいるかも知れない。

 しかし、ワーキングプア問題の根源は、決してその人の現状の貧困状態そのものではない。そうではなく、労働者間の階層が固定化することこそが問題なのである。そのことを前提にすれば、このグラフが物語るのは、ワーキングプアとして括られる人たち自体が「収入は上がらないけれども、自分はホームレスにはならない」というその状態自体を、安定的なものとして捉えているそのことに問題があることが理解できる。

 夫が正社員で働いていて、妻がパートをしている。親の収入が安定していて、子供が親元でフリーターをしている。そうした状態が安定的に継続することを前提に、彼らが社会というものを認識してしまっていることそのものが、ワーキングプアであることの問題なのである。

 ワーキングプアと貧困は決してイコールではない。一人暮らしであればともかく、パートの主婦や親元の子供は、200万円以下の収入であっても、当然まっとうな社会生活を送ることはできる。彼らは自分が貧困とは無縁だと考えている。

 しかし事はそれほど単純ではない。夫の安定的な給料なしにパート主婦の生活は成り立たず、親の存在なしに子供のフリーター生活は成り立たない。夫婦関係や親子関係が円満であればいいが、関係性が少しこじれた途端に、相互扶助だったはずの関係性は支配-被支配の構造に変化するかもしれないし、扶助が一方的に放棄されるかもしれない。

 ところが、アンケートの結果を見れば分かるように、多くのワーキングプア、とくに自らが誰かの保護下にいるワーキングプアたちは、自らの状況の移ろいやすさに気づく様子もなく、自分は絶対にホームレスにはならないと信じている。それは彼らの目を困難から逸らして、不安を解消することにもなる一方で、同時にワーキングプア自身が、そうした不安定さを安定と誤認しているということでもある。

 そうした状況では、やはり社会が変わっていく流動性に対して、ワーキングプア状態にある人達ほど、拒否的な反応を示してしまうかもしれない。このアンケートの中に「企業は終身雇用を目指すべきだと感じている」という項目があるが、これに対して「あてはまる」と答えた人が60%であり、「全くあてはまらない」と、これを強く否定した人は3%にとどまるのは、その実例だろう。


 連合としては、この結果を使って、最低賃金のベースアップを求めていくようだ。しかしベースアップを達成したところで、リッチな労働者がワーキングプアよりも、圧倒的優位に立っており、ワーキングプアの尊厳はいつでも奈落に突き落とされる可能性が高いという構造自体は変わらない。

 重要なのは人々が自らの尊厳を守るために、一人で生活できるための環境を整えることである。そのために必要なのは、目先の最低賃金のベースアップではなく、衣食住を制度で保障すること、すなわち社会保障の徹底的な充実である。

 金を持っている人間の庇護のもとでしか生活できない社会はウンザリだ。このアンケートを見て、私は改めてそう訴えたいと思う。

*1:『ワーキングプア(年収200万円以下)層の生活・意識調査』(連合)http://www.value-press.com/pressrelease.php?article_id=81797

赤木智弘(あかぎ・ともひろ)

1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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