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【佐藤優の眼光紙背】野田新政権の課題は中国の圧力を跳ね返すことだ

 野田佳彦新首相に対し、中国と韓国が強い牽制球を投げている。両国は「歴史認識カード」を対日関係に持ち込もうとしている。特に中国の動きが気になる。中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』が運営する『人民網日本語版』の8月30日付論評における野田氏に対する評価を見てみよう。事実上、中国共産党中央委員会によって運営されている『人民網日本語版』が中国政府の立場に相容れない論評を掲載することはない。メディアの論評という形で中国の国家意思を日本に伝えているのだ。

対中関係については各候補の発言や姿勢はそれぞれに異なっていた。比較的穏健な海江田氏、限定的な強硬派の前原氏。そして代表選に勝利した野田氏は掛け値なしの強硬派で、かねてより日本の内閣は靖国神社への参拝を続けるべきであり、A級戦犯は戦争犯罪人ではないとの考えを表明してきた。また野田氏は今回の代表選で、中国の勢力拡大を警戒すると発言した。

 野田氏の眼前のあちらこちらに課題が山積みになっているが、野田氏に与えられた時間は多くない。一年度に行われる日本の総選挙では「国民の心をつかんだ者が天下を取る」のであり、支持率が最も重要なバロメーターになる。
 日本で支持率を挙げるためにしばしば使われる不愉快な手は「対中強硬カード」だ。菅直人首相は就任早々にこのカードを切り、釣魚島(尖閣諸島)の漁船衝突事件で大騒ぎをやらかした。日本の首相が交代するたびに、中日間の雲行きは急変することがほとんどだ。

 「小泉元首相の影」と呼ばれる野田氏がこのほど首相に就任したことで、今後は中国カードがただ切られるだけでなく、よりレベルアップして切られる可能性があることは容易に予測できる。

 野田氏が、かつて小泉元首相が中日関係をほとんど「凍結」させてしまった「威風」を同じように放とうとするなら、それはあまり現実的ではない。日本は東日本大震災後の復興再建の途上にあり、野田氏が対中関係で何らかの強硬な手段を取れば、そのツケは日本自身に返ってくるからだ。野田氏が言うように、「中国の実力がますます高まっている」のであり、日本が中国に対して強硬な態度を取れば取るほど、支払う代償も大きくなるのだ。
 度重なる攻撃にさらされて、中国も成熟した、受け身でない対応の道を備えるべきだ。一方では、中日両国の民間交流をより多く促進する活動を継続し、両国間の信頼の土台固めをし、中日関係の推進と成長に向けたより健全な土壌作りをすることだ。また一方では、十分な主体性を維持し、日本側の対中強硬手段に、とりわけ右翼の挑発にそれ相応の代償を支払わせるべきであり、こうした動きを助長するようなことは決してしてはならない。(http://j.people.com/94747/7584181.html)

 A級戦犯が日本の国内法によって犯罪人とされたのではないというのは、自民党政権時代から一貫した日本政府の公式の立場である。今後も野田氏は、日本政府の認識に基づき、日本の国内法に基づけばA級戦犯は戦争犯罪人でないという主張を続けるであろう。中国には中国の歴史観がある。それに関して日本政府は基本的に干渉すべきでない。また、外交は首脳会談、外相会談、実務者協議など、外交交渉を行う権限を行う人々の間で行われるべきだ。記者会見やマスメディアを通じて外交を行っても生産的な結果が生まれない。

 「人民網日本語版」の論評では、野田首相が支持率を上げるために「対中強硬カード」を菅政権よりもレベルアップして切る可能性を危惧している。それならば、そのような「対中強硬カード」を野田首相に切らせる口実を与えないように中国政府は中国の漁船や漁業監視船が尖閣諸島で行う挑発活動を停止させるべく全力を尽くすべきだ。尖閣諸島は、日本が実効統治する日本固有の領土である。日中間にはいかなる領土問題も存在しないという日本政府の原則的立場を中国政府も熟知しているはずである。中国側が、<日本が中国に対して強硬な態度を取れば取るほど、支払う代償も大きくなるのだ>と虚勢を張っても、客観的に見て日本の国力は中国よりも圧倒的に強い。中国の政治エリートは、日本に対して帝国主義的挑発を行っても、中国は裨益しないという認識を抱いているはずだ。日本の外務官僚は、あらゆるチャネルを通じて、「中国が尖閣諸島周辺で挑発活動を続けるならば、日中間の武力衝突に発展する」という警告を毅然と行うべきだ。それと同時に外務省が総力をあげて、外交に不慣れな野田首相を、記者会見やメディアを通じた外交に巻き込まないように、十全な防御態勢を構築しなくてはならない。(2011年8月31日脱稿)


佐藤優(さとう まさる)

1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。
2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「予兆とインテリジェンス」(扶桑社)がある。

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