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【赤木智弘の眼光紙背】ネットに真実をあぶり出す能力はない

 もはや夏の終わりの風物詩となって久しい、日本テレビ系列が毎年放送している「24時間テレビ 愛は地球を救う」。その番組のメインとも言えるイベントが、芸能人による24時間マラソンである。

 今年の24時間マラソンは、長く日本テレビのアナウンサーとして活躍し、フリーとなった今も24時間テレビの顔である徳光和夫が務めた。70歳という番組最高齢でのチャレンジは、大きな話題となった。

 走行距離は、徳光の体調と相談しながらコースを変更するためか、放送時には発表されなかったが、事後の番組の中で63.2キロと発表された。

 ところが、ネットのニュースでは、「実は走行距離は43.7キロだった」(*1)とされてしまったのだ。その根拠として「ネットユーザの追跡情報を精査しGoogleMAPで機械的に計った走行距離を計測すると43.7km。」だというのだ、真相はいかに!?


 と、真相を調べようと思ったのだが、真相はあまりにあっさりと判明した。

 徳光の走行距離を43.7キロだと特定したルートとは、ネットユーザーによって判明したスタート地点である神奈川県相模原市の住所と日本武道館の間を、徒歩ルートとして検索しただけに過ぎなかったのだ。

 この記事の中で「走ったコース」とされているルート(*2)は、同じく記事中で「徳光さんが走っているコースをGoogleMAP上に表示していくという地道な作業」として紹介している「徳光さんはいまココです(*3)」でポイントされているルートと、大きく異なっている。

 前者は相模原市をスタートして、そのまま東に向かって町田市に入り、小田急小田原線に沿う形で世田谷区に入り、そこから新宿区。そして中央線に沿う形で日本武道館にゴールしている。

 それに対して、ネットユーザーが地道にポイントしていった「徳光さんはいまココです」で見ることができるルートは、スタート地点から大きく南下し大和市に入り、厚木街道沿い二子玉川へ。そこから玉川通り、環七、目黒通りなど、大きな通りを経て五反田へ。そして日比谷通りを北上する形で武道館にゴールしている。

 そしてこの「徳光さんはいまココです」の追跡データを用いた簡易な計測(*4)によれば、そのどちらも62キロ以上の数値を示している。すなわち、事後に公表された63.2キロという数値に、ほぼ間違いはないと考えていいだろう。

 一方で、43.7キロと断じた記事は、「ネットユーザの追跡情報を精査しGoogleMAPで機械的に計った走行距離を計測」という文面を用いながら、実際は、スタート地点以外はネットユーザーが追跡したデータと何の関係もない「全くのデタラメ」であると断じることができる。

 他にもこの記事は「過去に間寛平が走ったコースは100キロ」などという事実誤認(間寛平が過去2回チャレンジした走行距離は、いずれも200キロ)をしており、他メディアにも転載される商業メディアの記事であるとは思えないほどに、レベルの低い記事である。


 ところが、ネット上を見てみると、この明らかにデタラメな記事を信用している人がかなり多いのである。

 「やっぱりヤラセか」「ネットによって真実が暴かれた」などと24時間テレビを揶揄する人や、「43.7キロでも、70歳でそれだけ走ったんだし、感動した人もいるだろうから、いいではないか」などと、ネットに流れる風説を信じながら徳光を褒めるという、賞賛しているのだか、バカにしているのか分からない人もいる。

 さらには、この記事を下敷きにした記事が、他の商業ネットニュースメディアにまで掲載されてしまっている始末だ。

 先ほど私は、43.7キロのルートと、ユーザーが指摘したルートが全く違うと論じたが、こうして文章に書く必要がないのであれば、この2つの違いを認識するのは、さほど困難ではない。元記事の2つのリンク(*2)(*3)をクリックし、並べて見比べればルートの違いは一目瞭然であり、誰もがすぐにでもデマと断じることができる。

 ところが現実には、そのたった数クリックの手間すらかけず、ただ記事のタイトルだけを鵜呑みにして「徳光が走った距離は43.7キロ」と吹聴して回った人がたくさんいるのである。


 そもそも、今回デタラメ記事に利用されてしまった、24時間マラソンの追跡隊は、2002年に走った西村知美がショートカットをしたのではないか? という疑惑の中で「じゃあ俺たちで監視しようぜ!」ということから、翌年の山田花子の監視からスタートした活動であり、かれこれ9年目になる。

 いかにもネットのノリでスタートした活動ではあるが、少なくとも24時間マラソンの事実性を確認するという目的は十分達成していると言っていいだろう。

 しかし今回、この活動が「徳光が走った距離は43.7キロだ」という風説の流布に利用されてしまった。実際に追跡した人たちのTwitterなどをみるに、ネットユーザーの代わりに事実を確認するために行われている活動が、当のネットユーザーによる風説の流布に利用されてしまったということに、追跡者が困惑している様子が見て取れる。


 ネット上でよくみられる言論に「マスメディアは嘘を付いており、ネットはそれを暴く」というものがある。

 テレビは都合のいい情報のみを取り上げるが、ネットは沢山のユーザーがいるために、そうした一方的な情報は流通しない。さらにはネット上で多くの人に査読される事により、ネットに幅広く流れる言論は真実に限りなく近くなる。ネットにはそんな「信仰」とでもいうべき感覚が通底しているように、私には思える。

 しかし、私は今回の件を経て、改めて「ネットに真実をあぶり出す能力はない」と断じたいと思う。

 ネット上では盛んにデマや思い込みが吹聴される。もちろんそれが流言飛語であると気づく人はいるが、気づかない人もたくさんいる。そしてその多くに「それは間違っている」という情報は届かない。

 今回のような、追跡者による事実のデータがあり、かつそれが元記事にリンクされているような、極めて簡単に「これはデマである」と断定できる情報ですら、こうして広範囲にばらまかれ、それが真実のような顔をして居座っているのである。

 しかし、逆に言えば、いまもまだネットには「たったの数クリックで事実を確認するためのツール」がたくさんあるとも言える。9年も続いた追跡隊も、そうしたツールの1つである。

 それらを利用して事実をあぶり出すのは、結局「人間」の仕事である。人間が手を抜けば、どれだけ優れたツールがあっても、事実にたどり着くことはできない。人間の側に「眼の前のものを鵜呑みにしたい欲求」がある限り、マスメディアだろうが、インターネットだろうが、誰かにとって一方的に都合のいい流言飛語が飛び交うメディアで在り続けるのだろう。


 あ、そうそう。

 今のところ、私は「徳光さんはいまココです」に掲載されているデータを「鵜呑み」にしている。

 もし「徳光さんはいまココです」のデータが事実かどうかを調べたければ、24時間テレビやその後に放送されたドキュメント番組で放送された映像から、交差点の名前や、お店などを調べて確認すればいい。そうすれば更に精度のいい「事実」が浮かび上がるはずだ。
 
 
*1:徳光さんネットユーザに走行距離が43.7kmと特定される(秒刊SUNDAY)http://www.yukawanet.com/archives/3908709.html
*2:秒刊SUNDAYが「走ったコース」としているGoogleMap(google)http://bit.ly/p1vIZs(URLが長いため、短縮URLを使用しています。ご了承ください)
*3:徳光さんはいまココです!(いまココ!マップ☆)http://imakoko.didit.jp/2011-tokumitsu/
*4:走行ルート2011(24marason @ ウィキ)http://www39.atwiki.jp/24marason/pages/23.html


赤木智弘(あかぎ・ともひろ)

1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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