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【赤木智弘の眼光紙背】いただきますを言わず、笛や太鼓で給食を食べる学校って、本当にあるの?

 ネット上で、給食を食べるときに「いただきます」と言ってはいけない学校があるということが話題になっていた。どうやら、朝日新聞の投書欄に、そうした学校があるという話が掲載されたようだ。

 投書を見るに、ある小学校で、給食の配膳が終わると笛や太鼓の合図で「いただきます」と言わないままに、給食を食べ始める学校があるということらしい。

 投稿者はこのことに対して、「いただきます」や「ごちそうさま」といった感謝の言葉を言うのは当然であり、食材に感謝するべきだと論じていた。

 概ねネットの反応は、同じようなものが大半で、なかには「最近のモンスターペアレントはトンデモない」「そんな子供はろくな大人にならない」という文句もあった。(*1)


 私は、これに似た話を、5年前くらいに耳にしたことがある。

 かつて永六輔のラジオ番組で紹介されたメールが、大きな論争を生んだ。

 ある小学校で「給食費を払っているのだから、子供にいただきますを言わせないで欲しい」という申し入れが、生徒の母親からあったそうだ。理由としては「給食費をちゃんと払っているのだから、言わなくてもいいではないか」というものであった。

 これに対しても、当時のネットの反応は同じようなものだったので、今回の話を聞いて、私は「その話、5年前に聞いたわー」などと、地獄のミサワのようなことをつぶやいて、お茶を濁そうくらいに考えていた。


 しかし、気になって調べてみると、面白いことがわかった。

 実は今回の話のスタート地点である、投稿者が研修で聞いた「笛や太鼓の合図で、いただきますも言わず、給食を食べ始める小学校の話」というのは、何を隠そう、永六輔が各地の講演会などで披露している、一種の持ちネタらしい。

 書籍だと、1993年に出版された『もっとしっかり、日本人』(永六輔 日本放送出版協会)の中に、ピーッと笛を吹いて給食を食べ始める小学校があると「聞きました」と書かれている。

 笛で給食を食べる理由としては、いただきますの合唱が宗教的行為であり、それを公立の学校で行うことは信教の自由を損なうのではないかという理由だそうだ。そういえば5年前の論争にも、宗教の問題も、少ないながら指摘されていたことを思い出した。

 それにしても、5年前の「いただきます論争」も、今回の投稿者が研修会で聞いたという「笛や太鼓の合図で、いただきますを言わない小学校」の話も、どちらも話の大本が永六輔というのは面白いではないか。


 私は別に「永六輔が怪しい」と言いたいわけではない。5年前の論争についても「永六輔にハガキを読んでもらいたいファンが、読んで貰えそうな話を大げさに書いて送ったんじゃないか」とも思うのだけれど、そうしたことの真偽は置いておこう。

 そうではなく、私はこの「いただきます論争」の変遷そのものに問題が含まれると考えている。つまり、かつて、かつてと言っても時期がはっきりしないので、少なくとも1993年以前に「合唱という宗教的儀礼の問題」として理解されていた「いただきますと合唱」の問題が、2011年に至ると、そうした宗教的問題であることが忘れ去られ、別の理由として「モンスターペアレント」という親の資質問題にすり変わってしまっていることに、問題が潜んでいると考える。


 「最近の子供は自然を知らず、非人間的である」という主張をするために、よくされる話の1つとして「カブトムシに電池が入っていると思う子供の話」がある。

 この話もかつては「カブトムシがゼンマイで動いていると思う子供の話」だったようで、井上陽水も「ぜんまい仕掛けのカブトムシ」という曲を発表している。私は将来この話は「カブトムシの羽はソーラーパネルでできている」という話になると思っているのだが、こうして話の内容がすり変わっても問題にもされず、この話がいまだに「本当にあったこと」であるかのように流通しているということは、結局誰も「カブトムシがぜんまいや電池で動いていると、本当に信じている子供の存在」など、誰も問題にしていないということである。

 誰も見たことがない子供が、「聞いた話によると」という前置きで、時代に合わせて内容を変えて「非人間的な子供代表」として口伝されていく。

 そしてそのことによって、実在の子供が、カブトムシが電池で動いていると信じている、非人間的な存在であるかのように、論じられてしまうのだ。


 今回の「いただきます」の話も同じである。

 笛や太鼓の合図で、いただきますも言わずに給食を食べる小学校が本当にあるのかどうかも分からないのに、「最近の小学校は酷い」と卑下する。

 いただきますを言わせるなと主張する親が本当にいるのかどうかも分からないのに、「最近の親はモンスターだ」と卑下する。

 そして、いただきますも言わずに給食を食べている子供が本当にいるのかどうかも分からないのに、「最近の子供は食べ物に感謝をしていない」と卑下する。

 ネット風の言い方でいえば「拡散元」である永六輔すら「給食のときに、ピーッっと笛吹いて食べ始め、食べ終わるとまた、ピーッと笛を吹くという、そんな学校があると聞きました。」と、伝聞でしかこの件を書いていない。にもかかわらず、「いただきます」という言葉を言うことがどんなに大切かという文脈だけで、架空の「最近の〇〇」が生み出され続け、一方的に卑下されている。

 そうしたことを省みない人間が多いことのほうが、いただきますと言わないことよりも、日本社会にとってはるかに根深い問題ではないか。私にはそう思えてならない。


 繰り返すが、本当にいただきますをしない学校があるのか、またはいただきますと言わせない親がいるのか。そのことの真偽が問題なのではない。

 そのことに対する事実を求めようともしないまま、うわさ話が都合のいいように形を変え、それを聞く方も都合のいい解釈を加えていくという、まるで幽霊のようなプロセスが、脈々と次の世代に伝えられていってしまうことこそが、問題なのである。

*1:「学校給食のとき「いただきます」を言わせるな?」(Togetter)http://togetter.com/li/171994

赤木智弘(あかぎ・ともひろ)

1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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