記事

【赤木智弘の眼光紙背】やらせやらせと言うけれど

 先月から、話題になっている、九州電力の「やらせメール」問題。

 問題は今だ収束を見せないまま、あちこちに飛び火し「あれもやらせだったのではないか」「こっちの電力会社でもやらせがあったのではないか」と大騒ぎである。中には原子力保安院による電力会社への動員や、質問を作成して渡していたなどという話もあったようである。

 確かにそのことが、社員に対する強制であったのなら問題である。それは単純に意見や質問の強要と言うだけではなく、休日出席の強要などがあれば、それは労働法あたりで厳しく罰せられるべきだろう。

 しかし、シンポジウムなどに動員された電力会社や、その関連会社の社員たちは、無理やり原発推進の片棒を担がさせられたのだろうか?

 自分がもし電力会社やその関連会社の社員であったならば、当然、原発推進を望むだろう。なぜならそれによって自らの給料も上がるし、雇用も安定する。そうした「利己心」の帰結として、会社から強制されなくとも、原発推進のために動こうとすることは、決して不思議なことではない。

 そうした、電力関連会社の社員も、また「ひとりの生活者」であるという現実を無視して、彼らが動員されたということのみを指して「やらせだ!」と非難し、彼らの原発を推進したいという意志を、一方的に否定してしまって、本当にいいのだろうか?


 そうしたことを考えながら頭に浮かんできたのが、中国の「パクリ」問題である。

 先日テレビを見ていたら「中国でまたしても!」といった前置きで、ある家具屋が映されていた。店内はどこかしら安っぽさはあるものの、広々とした青と黄色のカラーリングは、なるほどあのIKEAを思わせるものであった。(*1)

 レポートではこれを「IKEAのパクリ」として報じていて、IKEAのパクリである証拠として、IKEAで販売されている、関節が動く人形が、この家具店でも売られていると報じていた。

 しかしこの人形は「デッサン人形」や「ポーズ人形」と呼ばれるもので、日本でもホームセンターや画材屋で簡単に手に入る、極めて一般的なアイテムである。また、この家具屋はちゃんと自社名を名乗っており、その前に報じられた「偽アップルストア」とは、根本的に異なっており、同列に並べて報じることはできないのではないだろうか。

 確かに、コンセプト等はIKEAをなぞっている側面はあるが、店舗イメージそのものが意匠として保護されるものかどうかの十分な解説もないままに、一方的にこの家具店をパクリと呼んではばからない報道の姿勢に対し、私は疑問を感じずにはいられなかった。

 その一方で、「ピカチュウに似ている」として話題の、山口県宇部市のキャラクター「エコハちゃん」の着ぐるみについては、中国の家具屋に向けられた「パクリ」「偽物」「真似」といったような強い表現はなく、「酷似」「似ている」という柔らかい表現を使って報じられており、宇部市に対する配慮が感じられる。(*2)


 電力関連会社のやらせ問題と、中国のパクリに対する報道の問題。この2つに一致するのは、これらが報じられたり問われるときに、まず最初に「これはやらせである」「これはパクリである」という強い表現が前提として存在する点である。

 こうした文脈においては、様々な細かな問題は消え失せ、「あいつは悪である」という一方的な断罪がなされてしまう。

 そして、私たちの頭の中で、電力関連会社の社員は被災者や国民を嘲笑い貶める悪魔に変貌してしまう。彼らもまた一介の生活者であるという事実を忘れ去ってしまう。

 世の中はそのように即断できるほど単純ではない。動員に加担した人たちにもまた、それに与した理由があるはずである。彼らの事情を考慮せず、ただ鬼か悪魔のように糾弾すれば、彼らはさらにかたくなに、自分たちの仕事を守るしかなくなってしまう。

 宇部市のエコハちゃんに対して配慮ができるのであれば、やらせという表現にも、もう少し配慮を加えるべきではないだろうか。

 最近、ネット上で個人がまとめたニュースを見ていると、書かれているヘッドラインと、実際の記事の内容が全く違っていることが少なくない。

 できるだけショッキングなヘッドラインを書いて、サイトへの来訪者を増やすのが目的なのだろうが、「やらせ」や「パクリ」といった、配慮なき強い言葉の氾濫は、マスメディアのヘッドラインが、個人サイトのレベルに向かって低下し続けていることを示す一例だと思うのは、私だけだろうか。

*1:中国「偽IKEA」 コンセプトを丸ごとコピー(MSN産経フォト)http://photo.sankei.jp.msn.com/essay/data/2011/08/0803fakeIKEA/
*2:山口のキャラ、ピカチュウに酷似 宇部市の「エコハちゃん」(47NEWS)http://www.47news.jp/CN/201108/CN2011080301000316.html

赤木智弘(あかぎ・ともひろ)

1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    日本人はナゼ「貧乏になったこと」に気が付かないのか?

    内藤忍

    06月21日 14:24

  2. 2

    劇場不発?小池百合子知事も「中止」選択は取らず 東京五輪の次なる焦点は観客の有無

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月22日 09:58

  3. 3

    リモート営業で絶対に使ってはいけないフレーズとその理由

    シェアーズカフェ・オンライン

    06月22日 08:31

  4. 4

    「児童手当無し、高校無償化も対象外」高所得者への"子育て罰ゲーム"が少子化を加速

    PRESIDENT Online

    06月22日 09:33

  5. 5

    年上の高齢男性から告白されるということについて

    紙屋高雪

    06月21日 09:11

  6. 6

    フェイク情報に騙されない教育とは:高校生の98%がネットで真偽を見誤る/米研究結果より

    ビッグイシュー・オンライン

    06月22日 08:18

  7. 7

    リニア工事の遅れが必至となった静岡県知事選 利便性が県民に知られない残念さ

    赤池 まさあき

    06月22日 14:15

  8. 8

    フランス人記者が菅首相の五輪めぐる答弁に憤り「私は日本国民のことを気にしている」

    ABEMA TIMES

    06月22日 10:32

  9. 9

    小川彩佳アナと離婚へ ベンチャー夫の呆れた一言「今からなら、遊んでも…」

    文春オンライン

    06月21日 19:30

  10. 10

    共同通信『慰安婦謝罪像、東京で展示を検討』 とんでもないことで許せぬ

    和田政宗

    06月21日 08:22

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。