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【赤木智弘の眼光紙背】脱原発を目指すのか目指さないのか

 イタリアで、原子力発電再開の是非を問う国民投票が行なわれ、再開反対票が9割を超え、イタリアが脱原発への道をとることが確実となったという。(*1)


 9割超という数字であるが、決してイタリア国民の9割が脱原発を選択したということではなく、過半数を超えないと国民投票自体が成立しないということから、原発再開に賛成する人たちが投票をしていないと考えられ、イタリア国民の大半が脱原発を選択したということではない。

 しかしながら、国民投票が成立し、脱原発というイタリアの今後が明確になった。また、それに先立ってドイツでも脱原発の姿勢が閣議決定(*2)され、欧州では脱原発の動きが強まっている。


 私は決して脱原発派ではない。

 イタリアやドイツがが脱原発を目指せるのは、陸続きの他国から電力を直接買えるという事情もある。また、脱原発を推し進めることにより、再び火力中心になれば、一部の産油国などにエネルギー供給を大きく依存することになる。昨今の原油価格の乱高下は記憶に新しい。もちろん、二酸化炭素排出などの環境負荷といったこともあり、問題は山積みである。

 そうした事情を勘案すれば、安易に脱原発に走ることはできないと考えている。

 しかし、その一方で「安易ではない脱原発」は、日本にはアドバンテージがあったのではないかと考えている。原発によらない、新しいエネルギー技術の振興という大義名分は、原爆で多くの人の命が奪われた我が国にとってこそ、世界に向けて発信しうる美旗だったのではないだろうか。

 それは安易な反戦の意味ではなく、原発の次のエネルギー技術の振興を早く行なっていれば、技術的に他国に先んずることができたのではないかという意味である。日本も「技術立国」を標榜するなら、そうした世界に先んじる技術を育て、立国するべきだったのでは無いだろうか。

 しかし、日本ではそうしたイニシアチブをとる人はおらず、進歩のないまま、ただズルズルと原発の耐用年数を粉飾してきた結果、福島第一原発においてクリティカルな事故が発生してしまった。


 正直なところ、こうした状況においてイタリアみたいに明確に国民の意思を示せる国が羨ましいと思う。

 日本では菅総理の退陣論が噴出しているようだが、そもそも菅を降ろしてどうしたいのかもさっぱり分からない。被災地のみに向けたリップサービスは耳にするような気もするが、被災地はあくまでも日本の一部であり、それだけで国を任せられるハズもない。

 少なくとも私には、菅を含め、誰もなんら今後の日本全体に対する明確なビジョンを提示しているとは思えないし、また日本人が今後の日本に対してどのようなグランドイメージを描いているのかもさっぱり分からない。そうした状況で頭だけすげ替えたところで、何かが変わるとは、私にはまったく思えない。

 そうした日本の体たらくをみると、ドイツやイタリアのように、脱原発の姿勢を明確に示せることは、単純にうらやましいし、またトップの側としても、求められる方向性がハッキリしている方がやりやすかろうと思うのだ。


 日本人は脱原発を目指しているのだろうか? いないのだろうか?

 少なくとも、東京では原発推進への意欲を誰よりも明確に出した石原慎太郎が再選し、青森でも推進派の知事が再選(*3)した。しかし、その一方で、メディアやネットなどを見ていると、放射性物質の問題に底知れぬ不安を抱いている人は多い。そうした意識と現実のズレを、ハッキリとしたグランドデザインで修正する必要があるだろう。

 今、日本に必要なのは首をすげ替える解散総選挙などよりも、明確な意志を示すための国民投票である。


*1:イタリア:脱原発を継続 国民投票成立、再開反対9割超(毎日新聞)http://mainichi.jp/select/world/news/20110614ddm001030103000c.html
*2:ドイツ、脱原発法案を閣議決定(WSJ日本版)http://jp.wsj.com/World/Europe/node_246583
*3:青森県知事選:原発推進派勝利「誰がやっても無くなんね」(毎日新聞)http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110606k0000m010102000c.html

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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