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【赤木智弘の眼光紙背】原発のリスク 社会のコスト

 かつて小泉内閣で経済財政政策担当大臣や、金融担当大臣などを務めた竹中平蔵が、菅直人首相による浜岡原子力発電所への停止要請を受けて、ツイッター上で「30年で大地震(東海地震)の確率は87%、あえて単純計算すると、1年で地震が起こる確率は2.9%。1ヶ月で0.2%。社会経済的コストを試算するために1カ月かけても、地震が起こる確率は極めて低いはずだ。」との旨をつぶやいた。(*1)


 もちろん、この確率計算がおかしいことはいうまでもなく、この珍妙な計算方法はツイッター上で批判を受けている。これでは時間が経つにつれて2年目は5.8%、3年目は8.7%と、どんどん地震発生の確率が上昇して行ってしまう。

 それを茶化して、単に「経済学者が変な計算をしている」で終わるのならいいのだが、私はかつて日本の大臣になった人間が、このような今の社会を矮小化したツイートをして平気だという事実に、寒気を覚える。


 日本人が福島第一原子力発電所の事故によって思い知らされたことは、原発事故が起きたときのコストは、私たちの想像を遥かに超える範囲で発生してしまうということだ。

 事故によって地元で生活できなくなってしまった人たちに対する支援のコストは算出できる。放射性物質の飛散によって、海外の業者が日本製品に対して汚染の危機感を感じて輸入を躊躇するような風評被害のコストも計算することは可能だろう。

 しかし、長期の避難により、それまで積み上げてきたコミュニティーが崩れてしまう問題や、多くの外国人が日本を出て行ってしまった問題。当面災害を意識せずにいられない日本人たちの精神や行動にまつわる問題や、放射線を気にして子供を産んだり育てることに不安が生まれるような問題。そうした、原発事故による細々とした、しかし私たちの生活の隅々までに入り込んだ社会的コストの算出は、極めて難しいだろう。

 現状の、浜岡原発を一時的に止めることや、原子力政策を見直すこと。原子力にまつわるありとあらゆる問題は、そうした「想像もつかない多大なコスト」がかかっているという現実を見据えた上で行われるしかないのであり、私たちはこれからの日本を考える上で、そのことを強く意識しなければならない。

 もちろんお金の話だけでいいなら、そうした細々としたコストは無視することもできる。しかし政治は経済そのものではない。人間が生きる社会の方向性を決めるのが政治なのだから、そこには人間の不合理で複雑な心情が入り込むのは当たり前のことである。世の中そんなに単純にはできていないのだ。

 そうした複雑な社会的コストを丁寧に算出することでしか、原発がはらむリスクなど算出することはできないのである。


 「日本は危険な国になったから、防犯カメラをたくさん増やすべき」のような議論に接するときに、単純に「今の日本は、戦後でもっとも殺人件数が少ない。だから防犯カメラなど必要ない」と論破することは、極めて簡単である。


 しかし、いくら殺人件数が少ないといっても、実際に殺人に遭った本人やその家族にとって、殺人件数が少ないことは、何の慰めにもならない。また、幼い子供を持つ親たちは、殺人に遭うリスクを極めて高く見繕っている。そしてそうした心情は、人間が人間である以上当たり前の話である。

 実際の防犯カメラ設置の議論というのは、そうした統計上の数値や、それぞれの立場の人たちの認識といった、多種多様な見知の上に成り立っている。そうしたことは議論を重ねれば、自ずと理解できるハズだ。

 しかし、竹中平蔵のツイートには、そんな複雑な問題への熟慮が何もない。ただ地震の確率を割り算するだけで、なにか政府に対して意見をできているかのように思ってしまっている。この竹中のツイートは、原発行政がはらむ多大な問題に対して、あまりに軽い。


 彼が単なるどこかの大学の経済学者ならば、それでもいいだろう。しかし、過去に大臣を務め、政治の場にいた人間が、政権批判をするためだけに、このような安易な言葉を繰り出して平気だということに、空寒さを感じるのである。

*1:@HeizoTakenaka(竹中平蔵)http://twitter.com/#!/HeizoTakenaka/status/67726323170283520

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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