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【赤木智弘の眼光紙背】本当の犯罪予告者は誰か

 思い返してみれば、7日頃からであっただろうか。Twitter上に「2月11日に、新宿で通り魔事件を起こすという予告があったので、新宿に行く人は気をつけて」というつぶやきが散見されるようになった。

 私は「まぁ、よくあるデマだろう」と無視をキメこんでいたのだが、Twitter上では割と好評なネタようで、それから毎日どこかしらで予告を目にしていた。

 当日になると「犯行時間が変わった」「犯人が逮捕された」「新宿に行かないで!」など、つぶやきが錯綜していたが、結局通り魔事件は発生せず、容疑者は逮捕されたようだ。(*1)

 犯人は中学生で、その動機を「どれぐらい騒ぎになるのか見てみたかった」と供述しているという。


 彼は逮捕されたわけだが、供述された動機を信用するのであれば「どれぐらい騒ぎになるのか見てみたかった」という目的は完全に達成されたと言っていい。実際、Twitterはもちろん、多くのサイトで通り魔予告は取り上げられ、ネット上ではそれなりの規模の騒ぎになっていた。

 彼はたしかに犯行予告を行った。そのことは非難されるべきであることは間違いない。しかし、その犯行予告を広く通知し、騒ぎを演出したのは誰なのだろうか?


 かつて、インターネットが広く普及し始めた頃、今もなお放送されている人気番組「ザ!鉄腕!DASH!!」のチェーンメールが問題になったことがあった。(*2)

 番組の調査や対決なので、メールを回して欲しいという文面で、これが広まってしまったことから、番組のサイトで「一切そのような実験を行なっていないので転送を止めてほしい」というメッセージを掲載するに至った。

 こうした経緯が知られると、鉄腕DASHのチェーンメールは沈静化したが、検索をすると、2005年や2008年にも同じチェーンメールがちょっとした流行になった形跡が見られ、今もなお、どこかで拡散しているのだろう。このように、一度拡散したチェーンメールは容易に無くならない。

 他にも、「特殊な血液型が必要です」とか「保健所やペットショップで犬猫が殺されます」などというチェーンメールが、具体的な病院名や保健所やペットショップの名称や電話番号付きで流れ、問い合わせに現場が忙殺されてしまうこともある。

 こうした問題から「チェーンメールは受け取っても、他の人に回さない」が常識なのだが、これがTwitterになってしまうと、実にあっさりチェーンのようにつぶやきが連鎖してしまうのはなぜだろうか。


 1つに、Twitterでつぶやくことに対する自覚の無さがあるだろう。

 送信先を決定しなければならないメールと違い、Twitterは自分のフォロワー全員につぶやきを簡単に送信することができてしまう。チェーンメールの「5人以上にメールを送ってください」などという数とは、まったく比較にならない。

 また、犯罪予告に対して「こういう情報があるのだけれど、本当?」と、懸念の姿勢でつぶやいたとしても、その情報自体はフォロワーに伝達され、結果として拡散を助けてしまう。

 こうしたことから、Twitterではメールよりもはるかに、情報がチェーンとして伝達されやすい。

 そしてもう1つ、こうした犯罪予告は、つぶやく人にとって、極めて都合のいい題材だということが挙げられるだろう。

 人数が少ない頃ならともかく、みんながみんな数百人のフォロワーを抱える現在のTwitterでは、かつてのように「朝ご飯なう」みたいな、日常のつぶやきをしているだけでは誰にも反応を返してもらえない。そこで、いかに目立つつぶやきをするか、多くの人が苦心している。

 そうした中で「こんな犯罪予告があるよ」というつぶやきは、刺激的で注目を浴びる書き込みであるように思えるのだろう。

 しかし「こんな犯罪予告があるよ」とつぶやき、それにレスが帰ってくることに満足を得たいと考えるのは、騒ぎを眺めてほくそ笑む犯罪予告犯と同じ考え方である。

 今回の容疑者が「どれぐらい騒ぎになるのか見てみたかった」と証言しているように、犯罪予告の目的の多くは、予告が注目されることであり、そのために予告は広く拡散される必要がある。ならば「犯罪予告を流した犯人と、犯罪予告を広めた拡散者は共犯関係にある」と言えるのではないだろうか。


 犯人はネット上で拡散することを期待して、犯罪予告を書きこむのだから、我々が本当にしなければならないことは、善意や情報伝達を装って犯罪予告を拡散させることではない。「チェーンメールは自分のところで止める」という、ネットリテラシーの基本を守り、犯罪予告を無視することこそ、犯罪予告への正しい対処である。

 それでも何かしたいと思うのであれば、各都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口(*3)やインターネットホットラインセンター(*4)などに、粛々と情報を提供するのがいいだろう。
 なにも犯罪の片棒を担いでまで、Twitterで目立つ必要もないだろう。


*1:ネットに通り魔予告 中3少年逮捕(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110212-00000030-mai-soci
*2:人気番組“ザ!鉄腕!DASH!!”の企画を騙ったチェーンメールが流布(ascii.jp)http://ascii.jp/elem/000/000/316/316053/
*3:都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口等一覧(警察庁)http://www.npa.go.jp/cyber/soudan.htm
*4:インターネット・ホットラインセンター http://www.internethotline.jp/

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