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【赤木智弘の眼光紙背】周知徹底は誰の仕事か

 視覚障害者が金融機関での口座開設や預金の引き出しを行なう際に、書類記入の代筆を職員に断られるケースが相次いでいるという。(*1)


 私たちが通常の社会生活をおくるときに、銀行のお世話にならない事は考えられない。

 特に、銀行口座を通しての金銭のやり取りは、大半の人が日ごろ当たり前に行なっていることであり、誰でも口座を開設し、金銭的取引ができる権利を保障する事は、私たちが円滑な社会生活を行なうためにも、非常に重要なことである。

 「目の見える人がいればいいのだから、連れて来ればいいのに」と思うかも知れない。しかし、障害を抱えた人が、いつでも健常者に付添を頼めるわけではない。また、やたらと付添がつけばいいというわけでもない。

 バリアフリーというと、段差にスロープを付けたり、トイレを広くしたり、点字ブロックを設置するなどの、物理的な障壁についての施策ばかりがイメージされがちである。

 しかし、障害などを持った人が、行く先行く先で健常者が当たり前にできることが、制度の壁によってできなかったり、他人の力を必ず借りないとできなかったり、時間を長くとられるようでは、障害を抱えた人は積極的に生活を営む事や、社会参加に対して及び腰になってしまう。こうした精神的な障壁を取り除くための制度作りもまた、重要なバリアフリー施策である。

 そして、金融機関は企業の責務として、こうしたバリアフリー施策の実施を求められている。


 金融庁のアンケート結果(*2)によれば、都市銀行などでは代筆に関する内部規定を整備しているが、信用金庫や信用組合といった地域密着型の銀行では、まだ内規が定められていない所があるようだ。


 大手の銀行が対応していれば問題ないと思えるかもしれないが、学校の徴収金などの「相手方が指定した金融機関の口座でしかできない取引」などもあり、すべての銀行で、代筆が滞りなく行われる事が求められる。

 一方、内規を定めている銀行も、アンケートによれば「100%内規を周知徹底している」というが、周知徹底できていると思っていても、現場でマトモに運用できていないから、こうしたニュースになってしまう。


 しかしそれは「窓口に立っている末端の行員が、内規を理解すればいい」という話ではない。

 銀行に訪れる人の大半は健常者であり、健常者に対して正しく窓口業務をこなす中で、そうした例外的な職務は、なかなか実践の機会もなく、例えマニュアルに記載されていたとしても、徐々に忘れ去られて行く。

 一般行員が、健常者相手の当たり前の業務ばかりを意識するのは当たり前である。だからこそ、定期的にそうした内規の覚え直しをさせたり、また行員が間違って断っているような状況を自ら発見して、細かい特殊事例の仕事を含めて、行員を正しく指導し、客の利便をはかるのが管理職の仕事であろう。それができてないのは、行員のマニュアル理解力の問題ではなく、管理職の注意力の問題である。


 1月30日に、東京ドームシティアトラクションズで、安全バーロックの不徹底により、遊具に乗った客が投げ出されて死亡するという痛ましい事故があった。(*3)

 これも「現場の係員が安全確認を十分にしなかったのが悪い」のではなく、係員の管理をする人間が、係員たちが安全バーのロック確認を目視で済ませる事があるという、安全上の問題をちゃんと発見できなかったが故の事故である。


 こうした問題が、「内規を理解しないダメな行員がいました。ダメな係員がいました」で解決されるのではなく、管理職が正しく現場の状況を理解し、末端の人間のフォローをする事を己が仕事として認識する事によって、解決されて行くことを期待したい。

*1:<視覚障害者>金融機関で代筆断られるケースが続発 (毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110129-00000042-mai-soci
*2:視覚障がい者等に配慮した取組みに関するアンケート調査の結果について(速報値)(金融庁) http://www.fsa.go.jp/news/22/ginkou/20101130-1.html
*3「スピニングコースター舞姫」事故の件(株式会社 東京ドーム)http://www.tokyo-dome.jp/pdf/important/oshirase110130.pdf

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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