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【赤木智弘の眼光紙背】晒されるオタクたち

西武鉄道の特急レッドアロー号を「メイド喫茶」にした臨時列車を走らせるというイベントがあった。しかし、マスメディアと乗客のトラブルを懸念して、取材はNGとなったそうである。(*1)


それはとても当たり前のことであり、必然という他ない。

これまでマスメディアは、露骨にオタク趣味を持つ人達を好奇の目で社会に晒し、彼らの存在を貶めつづけてきた。

例えば、テレビのワイドショーが「○○県の△△市の□□神社に、アニメファンが殺到しています」などと報道するときに、必ずと言っていいほど、出演者はニヤニヤと半笑いをしている。それはさも、常人には度し難い、特殊でおかしな光景を見ているかのようである。

しかし、アニメに限らず、作品のファンが作品のモデルになった場所を訪れるのは、よくあることである。
 
ヒットしたドラマシリーズ舞台が観光地となり、地元経済を活性化させることは、決して珍しくはない。また、梶井基次郎の短編小説『檸檬』を読んだ人が、京都の丸善に檸檬を置いていくことなどもあったそうだ。(*2)

しかしそれが、テレビドラマや小説の舞台ではなく、「アニメの舞台」となるだけで、それは薄ら笑いの対象となり、なにか特殊でおかしな事例が起きたかのように報じられる。

そうした報道では、地元の人へのインタビューがあると「最初はどうなるかと思ったが、賑わっているようでよかった」などと、わりと素朴に、オタク趣味を持つ人達が地元に集まることの不安を口にしている姿を見ることが多い。

そうした言葉を聞く度に、「やはりオタク趣味を持つ人達に対する偏見はぬぐい難い」ということを実感させられる。


一見、オタク趣味も市民権を得たように思える。

今や、アニメの主題歌がオリコン入りすることは珍しくないし、アニメやゲームといった作品を、一般の人が目にする機会も格段に増えている。経済効果という括りにおいては、もはや経済界はオタク産業を無視することができない状況にある。

しかし、いくら表面的に理解をされようとも、人間的な嫌悪や蔑みは、単純に解消されるものではない。今もなお男女差別や民族差別、そして部落差別などが横行している現状を考えれば、一度行われた差別は、そうそう消えてなくなるものではない。

今、これを書いている時点。ちょうど東京で、「子どもを守る」という大義名分と、「気持ち悪いオタクを排除したい」という偏見が、いびつにねじれて結びついた、青少年健全育成条例の改定案が、本会議での可決間違いなしの状況にある。(*3)

経済的に大きな産業になったとしても、決してオタク趣味は世間に受け入れられてはいない。産業が成長すれば、オタク趣味を持たない一般の人達の目に、オタク趣味が晒されやすくなる。

私が考えるに、まだオタク趣味に対する偏見は無くなっていない一方で、今回のメイド列車など、好奇の目に晒される機会は増えてしまっている。だからこそ「いい気になっているオタクに対する楔(くさび)」として、都の青少年健全育成条例が改定されたり、「決して認めたわけではない」という世間の半笑いがあるように思う。

そのように、オタク趣味を持つ人達が好奇の目に晒される状況で、彼らがそうした視線に対して極めて慎重になることは、当たり前であると言えよう。


個人的には、あくまでも乗車する客の利益を優先し、客をメディアに晒して宣伝することをしなかった、西武鉄道側の決断に対して、拍手を送りたい。

また、こうした状況を単純に「取材しようと思ったら取材できなかった。それはオタクが嫌がるからだ」としか考えられてないのだとすれば、マスメディア自身がマス的であるが故に持つ「暴力性」に対する認識が、少々甘いのではないだろうか。


*1:“アキバ系”乗客が「メイド列車」を取材NGにしたワケ(夕刊フジ)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101210-00000019-ykf-soci
*2:閉店惜しみ置きレモン 小説「檸檬」ゆかりの京都・丸善(朝日新聞)http://book.asahi.com/news/OSK200510010010.html
*3:これが掲載される頃には、もう本会議で条例案が可決されているであろう。

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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