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【赤木智弘の眼光紙背】素朴な疑問にどう答えるべきか

飲酒運転の厳罰化に呼応する形で、売り上げを伸ばしつつある、アルコール1%未満の、ビールテイスト飲料(ノンアルコールビール)。

味や香りはもちろん、缶のデザインなどもビールに酷似しているために、未成年に売っていいのか、戸惑う小売店が多いのだという。(*1)


僕としては不思議で仕方がない。

「コーラやサイダーを子供に売っていいのか?」などと戸惑うことはないのに、コーラやサイダーと同じ炭酸飲料に過ぎないビールテイスト飲料を売ることに、一体なにを思い悩むのだろうか?

「1%未満」という括りで言えば、缶入りの甘酒や栄養ドリンクは、1%未満のアルコールを含んでいるが、これらを子供に販売することに戸惑う小売店はないし、それを咎める人もいない。

自分が子供の頃は「栄養ドリンクは子供が飲むものではない」という空気があった気もするが、それは「なんとなく大人の飲み物」という意識であって、アルコールを含むことが理由ではなかった。


原理原則で考えれば、僕たちは「何を口にしようが自由」である。

ご飯を口にしようが、ジュースを口にしようが、アルコールを口にしようが、毒薬を口にしようが、そのこと自体は僕たちの自由である。

しかし、毒薬を口にすれば生命の危機に至るので、毒薬は口にするべきではない。

アルコールは、酩酊による事故や事件。身体的には脳の萎縮。精神的にはアルコール依存などといった問題があり、心身ともに未熟な成長過程の子供が口にするべきでないと、多くの国で考えられており、ある程度の年齢まで口にしてはいけないという規制がされている。

20歳という年齢で線引きすることに明確な科学的根拠があるわけではないし、大人になったからといってアルコールの悪影響がなくなるわけではないが、それでも僕たちの自由を一時的に奪うに足る理由はあると、僕は考えている。

そのように、原則自由で、それ相応の理由があるときに規制が許されるという考え方であれば、ビールテイスト飲料を子供に販売することに対して戸惑う理由など、まったくないことは明白である。

しかしながら、ビールテイスト飲料になじむことは、同時に飲酒への掛け橋になると考え、飲ませたくない人達がいることも理解できる。では、その根拠を子供に対してしっかり説明できるのだろうか?


かつて、テレビの討論番組で、ひとりの若者が「どうして人を殺してはいけないのか?」という疑問を口にしたことが、広く話題になった。

多くの大人たちはこの疑問に対して、真っ正面から答えることができなかったし、また「そんな疑問を持つこと自体、どこかおかしいのだ」と、若者を変人か犯罪予備軍であるかのような扱いをする者もあった。

作家の大江健三郎は、朝日新聞のコラムで「まともな子供なら、そういう問いかけを口にすることを恥じるものだ」と論じた。(*2)

そしてその理由として、「子供は幼いなりに固有の誇りを持っているから」「人を殺さないということ自体に意味がある。どうしてと問うのは、その直感にさからう無意味な行為で、誇りのある人間のすることじゃないと子供は思っているだろう」と論じている。

つまり、人を殺してはいけないという感覚は、生きていく中で人間的成長として自然と身につく考え方であり、そこに対する疑問を口にすることは、自らがその成長を遂げていないと告白するのに等しいということである。と、大江は言っているのだろうと、僕は読んだ。


その上で疑問に思うのは、まず、日本においては、死刑制度が存在しており、8割程度の国民によって支持されている(*3)以上、「人を殺さないという直感」が我々に共有されているとは、まったく言えないということ。

また、戦争においては他人を殺すことが強く肯定されるのであって、「人を殺さない」というのは決して、人間的成長によって直感的に得られる合意と言いきることはできないのではないか。

そうである以上、「殺してもいい」と「殺してはいけない」の間に存在するはずの線引きを探る「どうして人を殺してはいけないのか」という質問は、極めて複雑な意味を持った、十分に成長した人間が発言するに足る、決して無意味ではない行為であったといえよう。

ビールテイスト飲料の問題は、人の生死ほどクリティカルな問題ではないように思えるかもしれない。

だが両方とも、「素朴な疑問に対して、子供の身近にいる大人が、いかに誠実に答えることができるか」という問題をはらんでいる。

僕は決して、この問題について「ノンアルコールだから飲ませればいいじゃん」という結論を提示したい訳ではない。そうではなく、飲ませたくないと考えるのであれば、それ相応の理由を準備する必要があると言いたいのである。

「そういうルールだから」「(何だか分からないけど)悪影響がありそうだから」という言葉でシャンシャンと疑問を打ち切り、自主規制をすることは簡単にできる。

しかし、ルールの意味を考えるにつれ、必ずどこかで「どうしてそういうルールなのか?」という疑問は産まれる。

それを子供から執拗に尋ねられたときに、ちゃんと答えることができるのか、それとも無視したり、異常視したり、怒鳴りつけたり、殴ったりして答えることを放棄するのか。

単純に戸惑うことから一歩進んで、今後産まれるであろう疑問に対して、スッキリする答えではなく、誠実な答えを用意する必要がある。もし、用意できないのであれば、少なくともそのルールに至る考え方を明示する必要がある。

そうした、しっかり説明しようとする「大人としての態度」が、求められているのではないだろうか。

*1:ノンアルコールビール 未成年に売っていいの?店主ら困惑 (毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101204-00000031-maip-soci
*2:1997年10月30日 朝日新聞朝刊 21世紀への提言(朝日新聞)
*3:基本的法制度に関する世論調査 死刑制度に対する意識(内閣府)http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-houseido/2-2.html

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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