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【赤木智弘の眼光紙背】若者は結婚したがっている

 人気アニメ「らき☆すた」の聖地として知られる、埼玉県の旧鷲宮市で、オタクに向けた就活イベントが企画されたが、男女各20人の定員に対し、なんと男女合わせて500人の応募があったという。(*1)


 最初、このニュースが流れたとき、ネットの掲示板などの反応は「こんなの、男が行くわけねーだろ」「男性の参加費が高過ぎる。男性差別だ!」と、散々だったことを覚えている。しかし、フタを開けてみれば、大盛況のようだ。

 この手のイベントへの、男性の応募が多いのは必然としても、女性の応募も多いのはなぜなのか。

 一般的な理解では、オタクの女性といえど、オタクの男性は歯牙にもかけていないという印象があるのかもしれないが、私としては、女性の参加が多いのは、わりと納得がいく。

 例えば、オタク趣味を持つ女性が「クリスマスイブは一緒に過ごせない」と言った時に、オタクに理解のない男性であれば当然「他に男がいるのか!」と疑うだろう。しかし、相手が年末年始のオタク事情を理解している人であれば、「ああ、冬コミの追い込みね」と、分かってもらえる可能性は高い。

 また、逆に理解がない男性は、彼女の趣味に理解をしめそうとして「作っている本を見せて」などと要求してしまうこともある。同人誌を作っている女性の中には、アカの他人に自分の本を見てもらうのはよくても、身内に見せるのは絶対に嫌な人もいる。そうした女性が、オタク趣味に理解のない男性に、そうした心情を理解してもらうというのは、かなり難しい。

 「同人をやっていることは認識してもらえて、かつ、その内容に干渉しない」という条件は、相手がオタクである以外では、なかなか成立しないだろう。


 中には、こうした数字を見て「オタクは草食系ではないのか?」と疑問に思う人も、いるかもしれない。

 しかし、草食系という言葉は、最初の頃は、女友達がいても恋愛関係などに発展させようとしない男性の事を差して使われていた言葉であり、決してモテない男性を指す言葉ではなかったし、ましてや、意気地のない男性を見下すための言葉でもなかった。

 本来は一部の若者を分類するだけの言葉が、このように、、社会にとって都合のいい言葉に変化させられていくのが、パターンかしているように思う。

 かつて、「NEET」という単語が、結局は「ニートは自分から望んで就職をしないのだ。だから、彼らに国や社会の責任として職を与えなくても問題はない」と理解された。

 それと同じように、「草食系男子」という言葉も、結局は「最近の若者は草食系だから、自ら望んで結婚をしないのだ。だから、彼らに国や社会の責任として、結婚できるような安定した職や賃金を与えなくても問題はない」と理解されている。

 また「DINKS」なんていう言葉もあって、両働きで子供のいない夫婦を表す言葉だが、これもまた「結婚しても子供を産まない夫婦は、共働きで豊かな生活を望んで営んでいるのであり、彼らが子どもを産まなくて問題はない」と理解されている。


 しかし、現実はそうではない。確かに若者の一部に、NEETや草食系男子やDINKSを志向する人はいる。それは嘘ではない。しかし、それは若者のごく一部である。

 多くの若者は働きたいと思っているからこそ「就活」という、内定争奪戦が行われ、結婚したいと思うから「婚活」がブームとなる。子供だって、生活に不安さえなければ、欲しいと考えている若者は少なくないはずだ。

 「労働」「結婚」「子供」。これらの問題は、決して個人の好き嫌いのみで決定される問題ではない。

 結婚などとは縁遠いと思われがちなオタクですら、ちゃんと本人たちの希望を汲んで、丁寧にマッチングを行えば、自治体のお見合い企画の応募にだって、500件以上の申し込みが集まるのである。

 このお見合い企画の応募数というのは、まさにこれまで国や社会がいかに、働いたり結婚したり子供を産んだりしたいという若者の需要を汲んだ政策や手当てを行っておらず、若者たちがそれを渇望しているかということの、1つの証明であると考えている。

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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