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【赤木智弘の眼光紙背】人生、一度ぐらい自殺を考えて当たり前じゃないの?

 仙台市のアパートで、24歳の男性が自殺をした。
 彼は動画生配信サイトのustreamで、自らの自殺を生放送していたという。(*1)

 私は生中継を直に見てはいないのだが、youtubuに投稿されていた、自殺直前から決行して動かなくなるまでの動画を見ることができた。

 ワイヤーラックの上に大きめの液晶テレビ、エアコン。そして開けっ放しの窓の向こうに物干し竿。そしてそこには首吊りの紐。彼はなんどか室内をうろつき、うめき声をあげ、自ら顔を袋で覆い、首を吊った。それから少しして、筋肉の弛緩と思われる微動があって、それから彼は動かなくなった。上半身しか映っていたいので、脱糞や失禁があったかどうかは分からない。

 こうした自殺映像は、一昔前なら特殊な趣味をもつ人の間で「裏ビデオ」として、コピーにコピーを重ねた、本当に自殺しているのかどうかも判らないようなものが、細々と流通していたのだろう。それが今や、個人が自殺をそれなりに綺麗な画質で生中継し、それが動画投稿サイトにアップされ、我々は自宅にいながらアクセスすることができる。すごい時代になったなぁと思うと共に、ネットを子供に使わせたくない親の気持も、少しだけわかる気がする。


 閑話休題。
 さて、彼はどうして自らの自殺を生中継などしたのだろうか?
 記事中で精神科医の和田秀樹が指摘している「止めてもらいたい気持ち」があったからこそ、ネット上で生放送をし、書き込みを募っていたのだということは、想像に容易い。しかし、「悩みがあるのなら、いのちの電話など相談できるところに打ち明けてほしい」という指摘には、少々首を捻るところがある。

 ネットでの生放送という、それ相応のネットリテラシーを持つ彼が、自らの悩みを相談できる場所などを知らなかったとは思えない。にもかかわらず、彼はそうした施設に頼らず、ネットの書き込みを頼ってしまった。

 ネットの書き込みというのは、玉石混合であるが、その大半は石である。自殺の生中継などしようとしたところで、そこには誹謗や嘲笑の書き込みばかりが集まり、余計に傷つくだけだということは、彼だって知っていたはずである。

 しかし、きっと彼は相談できなかったのだろう。
 自殺するほど人間が絶望するというのは、お金の問題か病気の問題か孤独の問題である。彼のパーソナリティーを知っているわけではないので断言はできないが、記事を見るに、彼は孤独で、「世間」から突き放されたと感じていたであろうことは推測できる。

 だからこそ、自殺を考える人間が、世間から突き放されていると思えば思うほど、そうした自殺の相談に乗ってくれると称する「アカの他人」に、相談することなど、容易にはできなくなってしまうのではないだろうか。

 もし、そうした人達に相談したとして、いろいろと探られたくない気持ちを探られて、結局は「若いんだから頑張れ」とか「それは甘えだ!」というような言葉を投げかけられるのではないか。という不信はつきまとう。

 もちろん、それは想像に過ぎず、実際は有用なアドバイスを受けられるのかもしれない。しかし、ここで重要なのは、客観的な事実ではない。自殺の誘惑に悩む人が、自殺の悩みを聞いてくれるような団体などに対して、「信頼」という主観を抱けるかどうかである。

 彼がもし、これまで彼が世間から受けてきたようなメッセージを、そうした団体が繰り返すのだと思い込んでいれば、その思い込みがアドバイスを受けるために超えなければならない高い壁となってしまう。


 現在、さまざまな団体が、「自殺防止キャンペーン」を行っている。
 内閣府は「お父さん、眠れてる?」をキーワードに、睡眠キャンペーンを行っている。(*2)
 「お父さん、最近眠れてないんでしょ?」と、娘が父親に問いかけるTVCMを見た人は多いはずだ。
 政府はもちろん、自治体やNPO団体、そして宗教法人など、各自の思惑はどうであれ、さまざまな団体が自殺防止を掲げている。

 しかし受け入れ側がいくら相談して欲しいと訴えかけても、自殺を思い悩む人の前に立ちはだかるのは「世間」である。世間が彼に対して、「もっと頑張れるはず」とか「今の世代はゆとり世代で、何を考えているのかわからない」というような偏見を、全体的なメッセージとして投げつけ続ける限り、苦しい立場にいる若者は、世間に助けを求めようとは、とても思うことができないだろう。
 だからこそ彼は、ネットで救われることがないと知りながらも、それでもネットに頼らざるを得なかったのではないかと、私は推測している。


 自殺は決して個人だけの問題ではない。自殺の多くは、社会の積極的な取り組みによって防げる可能性がある。
 最近は、小学生がイジメで自殺したり、俳優の妻が自殺して、マスコミが興味本位の報道を繰り広げているが(*3)、こうした報道に見られるような自殺者本人の心の持ちようや、家庭環境のような個人的な要因に安易に注目するのではなく、社会の取り組み不足として、自殺の問題は理解されるべきであろう。


 しかし、そうした対策の必要性が理解されていても、それがなかなか実施されないのは、やはり日本社会が、レールの上に乗ってさえいれば、多くの人は自殺などを考える必要もない安心安全な社会だからだろうと、私は考えている。

 内閣府の調査によれば、なんと7割の人間が「自殺したいと思ったことがない」(*4)ということだ。常に頭のどこかで死を考えざるを得ない私にとって、そんなに多くの人間が自殺を考えたことがないなど、信じられない。いったい彼らはどんな幸福な人生を送っているのだろうか。

 もしくは、自殺を考えていたということを表明することが「恥」であると考えているのかもしれない。
 どちらにせよ、自殺を考えるほどに、自らの人生に思い悩んだり、そのことを堂々と語れる人間が少数派である限り、自殺を思い悩む人間の方が悪かったり、劣っているかのように思われてしまう。そうしたことが、自殺の相談などをできない壁になってしまっているのではないか。

 ならば、多くの人が一度は絶望に嘆き、自殺を考えながらも、それでも社会の中に戻っていくような人生こそが標準であり、ごく当たり前の人生であるべきという考え方をするべきなのではないか。

 それは決して悪趣味的な問いかけではなく、多くの人間が「死にたい」と思うまでの緊張感を持って己の人生に接し、人間関係や自分の人生に対して渇望する人生。

 そうしたハングリー精神を持った人間が多くいる社会からしか、多様性のある豊かな社会というのは産まれないのではないだろうかと、私は思う。

*1:ユーストリームで予告繰り返し 24歳男性が自殺実況中継 (J-CASTニュース)http://news.livedoor.com/article/detail/5131160/
*2:自殺対策ホームページ(内閣府)http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/index.html
*3:「いじめ自殺」報道のあり方(自殺対策支援センターライフリンク)http://www.lifelink.or.jp/hp/jisatsuhoudou.html
*4:自殺対策に関する意識調査(内閣府)http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/survey/report/2-3.html


■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。

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