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【赤木智弘の眼光紙背】国のモラル低下が止まらない

 文部科学省は、国費を財源とする無利子学生ローン貸与の条件として、「社会貢献活動への参加」を追加する方針だという。(*1)


 記事中では「奨学金」という言葉が使われているが、「奨学金」では学生に対する給付金であると勘違いしがちなので、ここではそうした、もも肉をロースと言い換えるような慣習は止めて、明確に無利子学生ローンという言葉を使うことにする。

 三上寛の歌に「夜中に起きたら、母ちゃんが泣きながら隣村の村長に抱かれていて、枕元にくしゃくしゃの千円札が」という内容の「夜中の二時」という救いようのない曲があるが、その隣村の村長だって、あとで「その千円を返せ」とは言わないだろう。

 冗談はともかく、今回の文部科学省の方針は、隣村の村長に負けず劣らず「ゲス」なものであるというのが、私の基本的な捉え方である。

 ただでさえ不況で、超買い手市場と言われる今の就職戦線のなか、勉学のための時間が奪われてしまうことが問題になっている(*2)。にもかかわらず、社会貢献を国によって義務づけられることになれば、貧乏人の子は、いつ勉学に勤しめばいいのだろうか。

 国が奨学金を与えるべきなのは、国民に勉学に勤しんでもらい、その結果として国が発展する。そして、そのこと自体が国に対する貢献だからである。

 にも関わらず、奨学金行政のこの態度。彼らは、いったい学生に勉強をさせたいのか、それとも、学生にローンをおっかぶせて、返済業務を作ることで、自分たちの仕事を増やして予算をたんまり獲得したいだけなのか、さっぱり解らない。


 それにしても、無利子学生ローンを受ける学生たちに、社会貢献活動をさせることで、文部科学省は、学生たちに一体何をさせたいのだろうか?

 ひょっとしたら、最近では、不況の影響で無利子学生ローンの滞納が問題になっているが(*3)、その理由を「モラルハザード」だと勘違いしているのかもしれない。だから社会貢献というモラルを身に付けることを条件に、ちゃんと返すように教育したいのだろうか?

 そうしたモラル教育が必要だと思うのなら、それを貧乏人だけに押し付けるのではなく、たんまり稼いでいる人にも求めるべきだろう。

 少し前に話題になった「消えた老人」問題では、老人の在宅が確認できない問題の1つとして「民生委員が足りない」ということが言われていた。

 しかしおかしいのは、単純に人の数でいうなら、日本でもっとも人口ボリュームの多い団塊世代が、退職したりして、そこそこヒマになったはずである。にも関わらず、民生委員が足りないということは、どういうことだろうか。あれだけニュースで叫ばれたのに、右肩上がりの経済成長の中、なんの不自由もなく生活してきた彼らの中から、民生委員という社会貢献活動へ立候補する、団塊世代はいないのだろうか?

 平成20年度版の『犯罪白書』では、高齢犯罪者の増加が著しいと論じられている。(*4)

 高齢者人口が増えたからと思いがちだが、過去の統計などを照らし合わせて考えれば(*5)、今の高齢者層は、若い頃から血の気の多い人達だったと言わざるを得ない。彼らにこそ、民生委員などの社会貢献活動を行ってもらい、真っ先にモラル教育を施すべきだと思うが、どうだろうか?


 もちろん「そもそも国によるモラル教育は、本当に必要なのか」という議論もあるのだが、そこに至る以前の問題として、国によるモラル教育を、押し付けやすいところから順次押し付けていくような考え方こそ「国のモラル低下」であり、国民ひとりひとりのモラルを論じるより、はるかに大きな問題ではないだろうか。

*1:奨学金の条件「社会貢献活動への参加」追加へ : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101021-OYT1T00027.htm

*2:就活早期化、ゼミ遠のく4年生(朝日新聞社)http://www.asahi.com/edu/university/shushoku/TKY201004270175.html

*3:クローズアップ現代 奨学金が返せない(NHK)http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=2931

*4:平成20年度版犯罪白書 第7編 再犯者の実態と対策(法務省)http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/55/nfm/n_55_2_7_1_0_1.html

*5:反社会学講座 第2回 キレやすいのは誰だ(パオロ・マッツァリーノ)http://pmazzarino.web.fc2.com/lesson2.html

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。

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