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【赤木智弘の眼光紙背】働く人間に社会的価値を与えられない、我が国日本

 民主党の衆議院議員で、経済産業省の政務官である中山義活が、岐阜市で行われた「女性起業家サミット」の昼食会で、「日本の女性は家庭で働くことを喜びとしている」と発言したという。(*1)

 こんな素朴で牧歌的な男女差別を聞くのも久しぶりである。
 中山氏は「女性が十分に家庭で働いているという事実を言っただけ。差別するつもりはない」と毎日新聞に対して弁明しているようだが、そもそもその文脈における「働いている」という言葉の意味を、彼は一度でも真剣に考えたことがあるのだろうか?

 日本の現状として、労働は大きく3つにわけられる。
 1つが「家族を養えるほどの賃金を得られる労働」。いわゆる大・中企業の正社員のことである。
 1つが「自分一人の生活が賄える程度の賃金を得られる労働」。小さな企業の正社員などはここに入るだろう。
 そしてもう1つが「働いても自分一人の生活すらままならない賃金しか得られない労働」。いわゆる「ワーキングプア」はここに所属している。
 では、主婦が家庭で働くことは、この3つのうちのどれに当てはまるだろうか?
 答えは最後の「働いても自分一人の生活すらままならない賃金しか得られない労働」である。

 労働において重要なのは、それによって「賃金」が得られるか否かである。
 現状の日本においては、生活のためにはお金が必要不可欠であり、それを得る手段が労働である。
 お金は、日本国内であればどこでも同等の価値を持つ。1万円というお金は、1万円分のサービスを購入することを保証する。また海外では為替レートに応じて価値は変わるものの、意味合い的には同じである。
 労働によってお金を得て、社会に通用する価値を得ることが「賃労働」の意味である。
 一方、家事労働はいくら働いても、それ自体に賃金が支払われることのない労働である。賃金が支払われないということは、家事労働は社会に通用する価値をもたない労働ということである。
 そのかわりに、家事労働は夫との関係性を繋ぐ。主婦は、夫との関係性を良好に保ちながら、夫の得た賃金をわけてもらうことによって生活をしている。そこにはおのずと主従関係が形作られる。

 もし、会社勤めの男が、会社から解雇を言い渡されたとしても、それまでに積み立てたお金の存在が、その男の社会的な価値を担保してくれる。しかし、主婦は夫から離婚されてしまえば、その間に繋いだ関係性は一瞬にして破綻する。そうなれば、元主婦は自分一人の生活すらままならない。
 もちろん、慰謝料などの救済措置はあるが、それも結局は、夫との関係性が変化したに過ぎない。履歴書に書くこともできないような、社会的な価値をもたない労働しか担うことができなかった主婦は、離婚したとしても、十分な賃金を得られる仕事にも就けず、元夫との関係性に縛られるしかないのである。

 そう考えると、中山義活の「女性が十分に家庭で働いている」という言葉の堪え難い幼稚さや傲慢さがよく分かる。
 家事労働を社会的な価値として認めない現状において、これを「働いている」と称し、まるで褒め称えているかのように論じることは、夫や家族という特定の他者の存在を前提にしてしか労働価値を得られない主婦労働に対して無理解であるのみならず、社会がその労働を必要としながら、しかし十分な社会的価値を与えることのできていない労働が、今の日本にはたくさん存在するという「日本の労働」の現状を、彼が一切理解していないということを証明しているのである。
 そして、それは決して主婦だけの問題ではない。
 安い賃金で使い捨てにされる非正規労働者や、フリータなどもまた、同じ労働問題の中で苦しんでいるのである。
 人ひとりの生活が成り立たない程度の賃金しかもらえない労働に就かされる状況を「働いている」などと称することは、企業の人間がフリーターや非正規労働者を「活用する」などと称して、低賃金労働を押し付けているのと、同じ意味である。

 社会が主婦労働や単純労働を必要としながら、それに応じた人に十分な社会的価値を保証しない
 別の視点でいえば、お金を稼ぐことでしか、社会に対して、自分が生きている価値がある人間であることを証明できない。
 そうした人たちに社会的価値を与えることすらできない“先進国”日本の薄ら寒い現状から目を逸らし、「女性が十分に家庭で働いている」などと胸を張る態度をとる議員に、これからの日本を担えるはずもない。

*1:<中山政務官>「日本の女性は家庭で働くことが喜び」と発言(毎日新聞)

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。

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