記事

【赤木智弘の眼光紙背】酒やタバコを追放すれば健康を守れるのか?

 WHOが今年5月に採択したアルコール規制の指針の中に、飲み放題の制限が謳われているそうで、居酒屋やカラオケ店などのサービスに大きな影響が出そうだという記事(*1)を目にした。
 私もそれなりに飲み会に顔を出すが、10人程度の飲み会になったときには、各自が注文するよりも、飲み放題で頼んでしまった方が手っ取り早い。また、2時間以内などの時間制限は、むしろ酒をダラダラと飲みすぎないですみ、終電を逸するようなミスも少なくなるので、私個人としては、飲み放題はありがたいと思っている。
 自分のことはさておき、WHO「アルコールの有害使用の低減世界戦略」(*2)を全会一致で採択したのは5月であり、旧聞に属するが、この問題はとりあげてなかったので、改めてとりあげたい。
 これまで何度かタバコの問題を取り上げてきたが、タバコに関しては路上や施設内での喫煙が次々と廃止になる一方、無駄遣いという批判によって喫煙所はなかなか設置されない。それどころか喫煙者に対して分煙環境を提供するのではなく、他者への副流煙被害や、喫煙者自身への健康問題を大幅に誇張する形で、喫煙者を公共の場から排除するべきという、社会的な風潮となってしまっている。
 その頃から「次は酒だろう」と言われていたが、その流れが、いよいよ飲酒に向って、一気に押し寄せるのだろうか。

 記事上では、お酒のイッキ飲みなどがが健康被害に繋がるということで、若者の飲み方が問題にされているが、若者の間で「イッキ」がもっとも流行ったのは、とんねるずが「一気!」を歌った1980年代であり、今、安い居酒屋チェーンなどに行っても、若い人は和気あいあいと飲んでいるだけで、イッキのコールが聞こえることは、ほとんどない。それどころか、最初の一杯からビールにサワーに烏龍茶と、自分の好きな飲み物を頼み、自分のペースで飲んでいる人が、ほとんどである。
 むしろ「駆けつけ三杯」という言葉が古くからあるように、アルコールの強要は昔ながらの地域共同体や、一部の体育会系といった古い価値観のコミュニティーで行われる印象が強い、「上司のついだ酒が飲めないのか」といったパワハラや、「男なら酒ぐらいは飲んで当然」として、飲めない男性を馬鹿にするような風潮など、昔ながらのお酒に対する接し方にこそ、問題があるのだろう。
 また、酒の飲みすぎが体に悪いのはそうだとしても、度を超えた酒の飲みかたは、普段の生活の辛さや不安から来るところがある。私もそうだが、強い不安や不満を感じた時には、酒を飲んで忘れようとすることがある。それを「お酒は健康によくないから」と押さえ込もうとすることは、かえってそうした感情を簡単に発散させる場を失わせ、本人的にも社会的にも不利益となるのではないかという考え方もある。
 健康問題を論じるときに考えなければならないのは、健康問題の多くは決して病気や物質の単独問題ではなく、社会的に組み込まれた複合問題であるという点であり、その点は常に意識しておく必要がある。

 「とにかく、酒やタバコは体に悪いのだ」という観点から推し進められる規制は、国にとって都合のいいものである。
 保険診療の多様化など、具体的な健康増進の方法を国民に提供するよりも、酒やタバコは自己責任として道徳感情を煽り立てる方が、対策としてお金がかからない。さらには「健康増進のため」と称して、酒税やたばこ税の増税という、収入まで得られる可能性がある。所得税や消費税を上げようと思えば国民の反発は不可避だが、健康のために道徳に反する飲酒やタバコを規制するという名目の増税は、大きな批判にさらされることはない。実際、来月のたばこ税増税に対して、多くの国民は当たり前のように受け入れており、一部には「よい政策」であるとさえ考えている人もいる。
 そう考えると、今回のWHOの指針は、けっして理想主義的観点から考えられたものではなく、国がその提言を受け入れやすいことを考えて行っているのではないかという気がしてくる。
 もちろん受け入れられやすいように工夫をするのは悪いことではないが、それが結局、酒やタバコの問題を単純化し「タバコが無くなればいいのだ」「酒が無くなればいいのだ」「酒やタバコを呑む人間は悪である」という結論へと方向づけをしてしまっているのであれば、それはどこかで社会に不利益を産み落とす「歪み」となって立ち現れるのではないか。
 もちろん、そんなに単純な話ではないことは分かっているが、タバコの例を見ているだけに、私はそうした危惧を、簡単には払拭できそうにないと考えている。

*1:「イッキ飲み」飲酒事故を誘引 WHO、飲み放題に規制検討も(MONEYzine)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100809-00000000-sh_mon-bus_all
*2:「アルコールの有害使用の低減世界戦略(草案)」(特定非営利活動法人ASK)http://www.ask.or.jp/who2010.html

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。

トピックス

議論新型コロナウイルスに向き合う

ランキング

  1. 1

    富岳が分析 ウレタンマスクはNG?

    諌山裕

  2. 2

    コロナで医療全体ひっ迫は間違い

    名月論

  3. 3

    安倍氏聴取に感じる特捜部の覚悟

    早川忠孝

  4. 4

    渡部建の目論みに冷ややかな声

    女性自身

  5. 5

    ニトリ偽サイト「ミトリ」に注意

    ABEMA TIMES

  6. 6

    欧米との差 医療崩壊は政府次第

    青山まさゆき

  7. 7

    行政批判した旭川の病院に疑問点

    中村ゆきつぐ

  8. 8

    パスワードの管理方法は紙が最強

    PRESIDENT Online

  9. 9

    中島みゆきとユーミン 本当の仲

    NEWSポストセブン

  10. 10

    日本の外交に感じられる弱体化

    ヒロ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。