記事
- 2010年09月02日 10:00
【赤木智弘の眼光紙背】自転車を公共利用することの意味
神戸市が、観光客や市民に対して、電動アシスト自転車などを貸し出して、CO2の削減や観光活性化に繋げるための社会実験を行うようだ。(*1)
気になる利用料金は、最初の1時間は無料で、1時間を超えたら1000円。2時間を超えたら5000円を支払う必要があるという。
「2時間を超えたら5000円」という数字は間違いではない。
俺も最初にこのニュースを見たときに「100円と500円の間違いじゃないの? Webのニュースだからって、最低限のチェックはしないと」などと思ったものだが、神戸市のサイトや市長の会見などを見ても、「2時間を超えたら5000円」と明言しており、ニュースは何も間違えていなかった。
神戸市のサイト(*2)によると、このシステムはパリで運用されている「ヴェリブ」を参考にしているという。
ヴェリブは2007年に開始されたレンタサイクルシステムである。日本でイメージされる、駅前で自転車を借り、1日利用して同じ店に返すというレンタサイクルとは異なり、利用者は最寄りのステーションで自転車を借りた自転車を、移動先のステーションで返すことができる。
利用者は自転車を移動のためだけに使い、施設利用中は自転車をステーションに返却、施設利用が終わったら、また自転車を借りるという考え方のため、自転車を1日占有する必要はない。逆に占有されてしまうと、自転車のシェアがうまくいかなくなるために、短時間の利用は安いが、数時間利用すると通常のレンタサイクルよりも高くなる料金設定になっている。
これらの特徴は、パリのヴェリブも、神戸の実験も同じではあるが、問題は規模が圧倒的に違うことにある。
ヴェリブは運用開始時から750のステーションと1万台以上の自転車を用意したのに対し、神戸の実験は6ヶ所のステーションと50台の自転車で行われる。
そのため、パリの約300メートルずつに設置されるステーションは、「移動先に必ずステーションがある」という利便性を実現する一方で、神戸の6ヶ所しかないステーションでは「ステーションが移動先」である場合にしか使いようがない。
自転車は決して、安価で移動力が劣るだけの、電車やバスの安易な代替物ではない。
自転車を公共利用するときに考えられる利便性は、電車やバスなどの公共交通が街のスポット、すなわち点同士を繋ぐ「線」としての役割を持つのに対し、自転車は決められた路線を走るものではないことから、街を「面」として利用できることにある。それにより、観光客がスポットの間にある商業施設などを利用し、また、観光視点では思いも寄らない、新たなスポットが発掘されることが期待できる。
また、それは生活においても同じである。電車移動では駅前しか利用できない生活圏が、自転車を利用することによって大きく広がり、それが地元の新たな魅力を発見することに繋がる。
しかし、ステーションが6ヶ所では、結局、ステーションという点を目指す移動しかできない。また、仮に途中で興味のあるスポットを発見し、そこでゆっくりしたいと思っても、「2時間を超えたら5000円」という恐怖のペナルティーが、そこにとどまる意欲を削いでしまう。というか、地図上で見る限り、想定されるステーションの場所は、電車とほぼ平行していることから、多くの人達は5000円を払わなければならないリスクを抱えてまで、自転車を利用しようとは思わないだろう。
確かに、今回は社会実験なので、小規模にとどまるのは仕方がないといえる。しかし、それでも5000円というペナルティーはあまりに高価である。盗難リスクなども踏まえての値段なのだろうが、リスクを気にするあまり、そもそもの社会実験すら成り立たないのであれば、意味がない。ちゃんと利用してもらって、始めて実験になるのだから。
また、神戸という街が、移動の他に20分程度しか楽しめないような、底の浅い観光地にすぎないと言うなら、1時間無料でも十分だろう。しかし、それなりの歴史があり、多くの人が生活している街であれば、観たくなるものはたくさんあるはずだ。
しかし、そこに住んでいる人は、それをなかなか「他所から来た人達が観たいもの」であるとは気づかないし、生活に車や電車を使っていればなおさら、それらに気がつく機会はないだろう。
自転車の公共利用は、単純に電車やバスを自転車に置き換えるものではない。
市の観光課が見せたいモノと、観光客が見たいモノの違いを浮き彫りにし、新たな神戸の魅力を再発見するためにこそ、自転車は公共利用されるべきなのである。
それが5000円という、高額なペナルティーのために立ち行かなくなると予想できてしまうことは、とても残念である。
*1:レンタル自転車:神戸市が事業化視野 観光活性化やCO2削減狙い/兵庫(毎日新聞)http://mainichi.jp/area/hyogo/news/20100825ddlk28040304000c.html
*2:コミュニティサイクルの社会実験「KOBEまち・ちゃりシャトル」の実施(神戸市)http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2010/08/20100824194601.html
■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。
気になる利用料金は、最初の1時間は無料で、1時間を超えたら1000円。2時間を超えたら5000円を支払う必要があるという。
「2時間を超えたら5000円」という数字は間違いではない。
俺も最初にこのニュースを見たときに「100円と500円の間違いじゃないの? Webのニュースだからって、最低限のチェックはしないと」などと思ったものだが、神戸市のサイトや市長の会見などを見ても、「2時間を超えたら5000円」と明言しており、ニュースは何も間違えていなかった。
神戸市のサイト(*2)によると、このシステムはパリで運用されている「ヴェリブ」を参考にしているという。
ヴェリブは2007年に開始されたレンタサイクルシステムである。日本でイメージされる、駅前で自転車を借り、1日利用して同じ店に返すというレンタサイクルとは異なり、利用者は最寄りのステーションで自転車を借りた自転車を、移動先のステーションで返すことができる。
利用者は自転車を移動のためだけに使い、施設利用中は自転車をステーションに返却、施設利用が終わったら、また自転車を借りるという考え方のため、自転車を1日占有する必要はない。逆に占有されてしまうと、自転車のシェアがうまくいかなくなるために、短時間の利用は安いが、数時間利用すると通常のレンタサイクルよりも高くなる料金設定になっている。
これらの特徴は、パリのヴェリブも、神戸の実験も同じではあるが、問題は規模が圧倒的に違うことにある。
ヴェリブは運用開始時から750のステーションと1万台以上の自転車を用意したのに対し、神戸の実験は6ヶ所のステーションと50台の自転車で行われる。
そのため、パリの約300メートルずつに設置されるステーションは、「移動先に必ずステーションがある」という利便性を実現する一方で、神戸の6ヶ所しかないステーションでは「ステーションが移動先」である場合にしか使いようがない。
自転車は決して、安価で移動力が劣るだけの、電車やバスの安易な代替物ではない。
自転車を公共利用するときに考えられる利便性は、電車やバスなどの公共交通が街のスポット、すなわち点同士を繋ぐ「線」としての役割を持つのに対し、自転車は決められた路線を走るものではないことから、街を「面」として利用できることにある。それにより、観光客がスポットの間にある商業施設などを利用し、また、観光視点では思いも寄らない、新たなスポットが発掘されることが期待できる。
また、それは生活においても同じである。電車移動では駅前しか利用できない生活圏が、自転車を利用することによって大きく広がり、それが地元の新たな魅力を発見することに繋がる。
しかし、ステーションが6ヶ所では、結局、ステーションという点を目指す移動しかできない。また、仮に途中で興味のあるスポットを発見し、そこでゆっくりしたいと思っても、「2時間を超えたら5000円」という恐怖のペナルティーが、そこにとどまる意欲を削いでしまう。というか、地図上で見る限り、想定されるステーションの場所は、電車とほぼ平行していることから、多くの人達は5000円を払わなければならないリスクを抱えてまで、自転車を利用しようとは思わないだろう。
確かに、今回は社会実験なので、小規模にとどまるのは仕方がないといえる。しかし、それでも5000円というペナルティーはあまりに高価である。盗難リスクなども踏まえての値段なのだろうが、リスクを気にするあまり、そもそもの社会実験すら成り立たないのであれば、意味がない。ちゃんと利用してもらって、始めて実験になるのだから。
また、神戸という街が、移動の他に20分程度しか楽しめないような、底の浅い観光地にすぎないと言うなら、1時間無料でも十分だろう。しかし、それなりの歴史があり、多くの人が生活している街であれば、観たくなるものはたくさんあるはずだ。
しかし、そこに住んでいる人は、それをなかなか「他所から来た人達が観たいもの」であるとは気づかないし、生活に車や電車を使っていればなおさら、それらに気がつく機会はないだろう。
自転車の公共利用は、単純に電車やバスを自転車に置き換えるものではない。
市の観光課が見せたいモノと、観光客が見たいモノの違いを浮き彫りにし、新たな神戸の魅力を再発見するためにこそ、自転車は公共利用されるべきなのである。
それが5000円という、高額なペナルティーのために立ち行かなくなると予想できてしまうことは、とても残念である。
*1:レンタル自転車:神戸市が事業化視野 観光活性化やCO2削減狙い/兵庫(毎日新聞)http://mainichi.jp/area/hyogo/news/20100825ddlk28040304000c.html
*2:コミュニティサイクルの社会実験「KOBEまち・ちゃりシャトル」の実施(神戸市)http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2010/08/20100824194601.html
■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。



