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【赤木智弘の眼光紙背】RTするということ

 予想外の岡田ジャパンの活躍で盛り上がったワールドカップ。残念ながらパラグアイ相手にPK戦の末に敗れてしまったが、にわかサッカーファンとして、ずいぶん楽しませてもらった。
 私がサッカーの盛り上がりを楽しんでいたのは、当然現地のスタジアムではなく、またパブリックビューイングやスポーツバーといった家の外でもなく、パソコンの画面上であった。特に「Twitter」のタイムラインは、日本戦に一喜一憂する人たちで盛り上がっていた。

 その翌日。目を覚ますと、Twitterのタイムライン上に「みのもんた」の文字が踊っているのが目に入った。
 そのつぶやきを見るに、みのもんたが司会を務めるTBSの朝の情報番組「朝ズバッ!」で、みのもんたが、PKを外した日本人選手の母親に対して、謝罪を強要したのだという。(*1)
 結果として、これはデマである事が明らかになったのだが、そのつぶやきを見た時点で私は、十中八九デマであろうと判断していた。
 判断の基準は色々あるが、もっとも決定的だったのは、これだけ多くの人がみのもんたの行為を書き込み、批難しているにも関わらず、動画サイトに該当の動画が、一切投稿されていなかった事である。
 パブリックビューイングで「申し訳ない」と語っている動画は発見することはできたが、肝心の「みのもんたが謝罪を強要した」ような部分は、まったく発見する事ができなかった。
 その時点で自分は十中八九デマであると判断し、「次の日までに動画が上がらなければデマということでいいや」と結論づけたのである。
 その数時間後、Twitterのタイムライン上には「デマではないか」というつぶやきが溢れ、騒ぎもやがて収束していった。

 Twitter上では、これまでもさまざまなデマが吹聴されている。
 Twitterの教科書があるとすれば、必ず掲載されるだろうと思えるほど有名なデマは、ハリーポッターシリーズのハーマイオニー役で知られる女優の「エマ・ワトソン」が、交通事故で亡くなったというデマである。
 日本でも、タレントの松村邦洋が心不全になったとされたり、チェーンメールのお約束のような「Rhマイナスの血液型が足りないというデマがTwitterでも流れている。
 また、政治的な話題としては、「ザイール政府の証明書で、何百人分もの子ども手当てが申請された」というデマや、宮崎の口蹄疫問題に際し、民主党の政治家が消毒薬を横流ししたなどのデマが流れた。

 こうしてみると、Twitterという新しいツールで流されているデマは、「死亡説」「Rhマイナスの血液」そして「政治的喧伝を目的にした怪文書」という、非常にパターン化した古めかしいデマばかりである。
 みのもんたの件に関しても、デマだと分かり出した頃に、デマを拡散していた人が一様に口にしていたのが「みのもんたなら、それぐらいやるだろう(と思ったのでデマを信じた)」という、一方的な思い込みの告白であった。これも単なる「他人への悪口」という古めかしいものの1つに過ぎない。
 こうした、これまでも人づての噂や、電子メールでのチェーンメールなどで、繰り返し行われて来たのであり、決してTwitterというメディア特性によるものではないだろう。

 しかし、だからといって、Twitterによるデマの流布の影響が、他のメディアと同じというわけではない。
 人づての噂は、直接対話する事でしか届かないし、チェーンメールは、わざわざ友達に電子メールを送り付ける必要がある。しかし、Twitterは自分でつぶやいただけのことが、フォロワーの全員に流布されるのである。それこそ数百人や数千人にデマを流布する事が、非常に簡単にできる。
 そして、そのつぶやきを見たひとが、また自分のタイムラインで「RT」(ReTweet)する。例え誰かのつぶやきを、100人中1人しかRTしないとしても、RTした人が抱える数百人のフォロワーに、そのデマは再び回示される。このRTの連続によって、Twitter上のデマは、チェーンメールをはるかに超える早さで、Twitter上を行き交うのである。
 単純にデマが行き交うだけならいいのかも知れないが、こうした情報が行き交った結果、例えば「Rhマイナスの血液」のようなデマは、そのうちの何人かが、病院に直接問い合わせをする事になる。
 直接の問い合わせも、数が少なければ、情報の真偽を確かめる慎重な行為となるが、デマが広範囲に広がり、多くの人が問い合わせを行えば、病院は業務以外の対応に追われる事になってしまう。

 1973年の12月愛知県で、「信用金庫が倒産する」というデマが流布されたことから、預金者がお金を引き落とそうと信用金庫に殺到、取り付け騒ぎになった事があった。(*2)
 もちろん当時は、インターネットも電子メールもなかった。途中「アマチュア無線」という伝達経路もあったようだが、それでも大半は人の口づてに伝わっていった。
 こうした少人数の口伝でも、金融機関が危機に陥る状態にもなりえる。ならば当然、もっと多人数に伝わるTwitterのようなメディアは、もっと大きな騒ぎになる可能性を秘めているのである。

 Twitterにおいて「RT」は、「他のユーザーの言葉の引用」という意味を持つ。しかしReTweetという言葉は「再つぶやき」である。RTという行為は、ただ誰かの言葉を引用するのではなく、誰かの言葉をまた自分の言葉としてつぶやくという行為なのだと、私は思う。
 ならば、RTをすることには、その発言の元であるという責任も同時に負っていると考えるべきである。
 引用だからといって、他人の発言を無責任にRTするべきではない。なぜなら、RTもまた「その人のつぶやき」なのだから。

*1:駒野選手母の謝罪で「朝ズバッ!」批判 ツイッターでまた「デマ」が広がる(J-CASTニュース)http://news.livedoor.com/article/detail/4860522/
*2:近年では、2003年に佐賀の銀行が倒産するというチェーンメールが流れ、取り付け騒ぎに発展するという事件があった。

プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。

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