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THAADが初の中距離弾道ミサイル(IRBM)迎撃実験に成功:THAADとは?

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在韓米軍へのTHAAD配備の意味は?

2017年、在韓米軍が慶尚北道・星州にTHAAD1個中隊を配備開始しました。韓国の中国に対する遠慮(阿り?)もあり、二転三転したこの問題も落ち着くところに落ち着いたという感じです。北朝鮮の強硬な姿勢が後押ししたところもあるでしょう。

星州に配備されたTHAADについて、「ソウルを守るものではない」という言説があります。これは技術的なことを言っているわけではないでしょう。なぜなら、THAADの13回の迎撃実験のうち9回がSRBMの迎撃実験ですから、THAADがSRBM迎撃に十分な能力を持っていることは実証済みです。『38North』ではTHAADが北朝鮮のSRBMから韓国全域を防衛できることを分析しています。

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38Northより引用。赤がAN/TPY-2のカバー範囲。黄色が迎撃可能範囲。白線がノドンMRBMの最小エネルギー軌道。)

他方で、開戦劈頭に北朝鮮からソウルに斉射されるであろう数百発のロケット砲や短距離弾道ミサイル(スカッド・シリーズ)迎撃任務に1個中隊のTHAADミサイルを使うのは効率が悪いのは確かです。有事においては、それらはKSAMやパトリオットの仕事になるでしょう。

在韓米軍のTHAADの「主な」任務は、北朝鮮のMRBM~IRBMの脅威から、在韓米軍、在日米軍、グアム、ハワイを防衛する際の前方展開センサー・ノードとして機能することです。射手としてよりも目や耳としての役割、というところでしょうか。下図は、北朝鮮から沖縄やグアムの米軍基地への経路を示したものですが、AN/TPY-2がいずれのミサイルも追跡するのに適していることがわかります。

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ヘリテージ財団より引用。)

在韓米軍のAN/TPY-2がハワイのC2BMCと連結され、日米韓のイージス艦とも連結することでSM-3やPAC-3などの他の迎撃ミサイルも最大射程での運用が期待できるようになります。衛星や前線配備TPY-2レーダーなどが早期警戒ノードとして探知・追跡・識別といった迎撃シーケンスを支援し、BMDシステムの交戦能力の精度・範囲が向上することは自明です。

ローンチ・オン・リモートおよびエンゲージ・オン・リモートが可能になって初めてミサイル防衛システムの本領が発揮されるといっても過言ではありません。そのためには、日米韓のBMDシステムをネットワーク化することが重要なのです。

政治的駆け引きの材料にも

在韓米軍へのTHAAD配備に対しては、中国が強く反発しています。THAADシステムが米中間の軍事バランスを不安定化させるものであると主張しているのです。

しかしながら、軍事的な意味においてTHAADが中国の戦略を大きく損ねるものではありません。まず、在韓米軍のTHAAD迎撃ミサイルでは中国内陸から米本土(CONUS)へ向かうICBMを迎撃できません。

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ヘリテージ財団より引用。)

次に、発射地点にもよりますが、DF-31Aなど戦略級弾道ミサイルが配備された基地からの発射を探知・追跡することも在韓米軍のAN/TPY-2では難しいでしょう。それらは衛星の仕事となります。AN/TPY-2が前方展開センサー・ノードとして中国のICBMをブースト・フェイズでとらえ、CONUS及びハワイ・グアム防衛の目や耳となることを警戒しているともいわれますが、すでに日本に2か所AN/TPY-2が展開し、イージス艦のSPY-1レーダーが日米韓に存在する今、星州の1基のAN/TPY-2にそこまで神経質になる合理的理由はありません。

おそらく、中国もTHAADが軍事的な脅威であるとは本気で考えてはいないでしょう。その証拠に、韓国軍が2012年にスーパーグリーンパイン・レーダー×2基を導入した際、中国は今回のような強い反発を示しませんでした。スーパーグリーンパインは探知距離800kmで、探知距離ではAN/TPY-2レーダーに劣らないはずなので、中国のTHAADへの反発が純粋に軍事的なものではないことが見て取れます。

THAADに対する中国の強硬姿勢は、結局のところ韓国が日米のミサイル防衛システムに組み込まれ、日米の側についてしまうことへの反発です。THAADはより高次の政治的駆け引きの材料にも使われているわけですね。

THAADの価格は?

米陸軍では1個中隊の配備に8~10億ドルかかるようです。

北朝鮮の弾道ミサイル開発進捗を受けて、日本でもイージスBMD(SM-3)とPAC-3に加えてさらなる多層防御を構築しようという議論が高まっています。その中で選択肢となったのが、「イージス・アショア(SM-3)」と「THAAD」でした。現時点ではおそらく前者を導入する模様ですが、日本がTHAADを導入するとなるとどのくらいかかるのでしょうか?

参考となるのは中東の2か国です。

アラブ首長国連邦(UAE)は2011年に2個中隊を19億6千万ドル(当時)で契約し(ロッキードマーチン)、ミサイル×96発など初期発注があり、次いで2012年の契約では、ミサイル×48発、ランチャー×9基、その他スペアパーツ・人員訓練費・訓練設備、米国からの技術支援やロジ支援など諸経費を含めて11億3千500万ドル(当時)で購入するとの発表がありました(国防安全保障協力局)。UAEはすでに2基のAN/TPY-2レーダーをターミナルモードで運用中です。

また、2012年にはカタールがランチャー×12基、ミサイル×150発、、火器管制・通信システム×2、AN/TPY-2レーダー×2、早期警戒レーダー×1などを含む2個ユニットを総額65億ドル(当時)でリクエストしています(国防安全保障協力局)。

日本に導入する場合、3個中隊(ランチャー×18、ミサイル×144)+AN/TPY-2レーダー×2基(3,000万ドル)などと仮定すると、少なくともUAEの30億ドルを超えるのは間違いなさそうです。システムの維持管理や人件費などの差もあるので、一概にコストを試算するのは適切ではありませんが、日本が有償援助調達(FMS)でTHAADを調達するとなると、このあたりが目安になると思われます。

極超音速滑空ミサイル vs THAAD-ERの開発

中国は2014年に、初めての極超音速滑空実験機(HGV:hypersonic glide vehicle)「DF-ZF(米国によるコードネーム:WU-14)」の飛行実験を行っています。DF-ZFは大陸間弾道ミサイルの弾頭に搭載されて発射され、その後滑空してニア・スペース(準宇宙)をマッハ10で機動するよう設計されています。弾道ミサイルと違って単純な放物線を描かないため、既存のミサイル防衛網を突破するゲームチェンジャーとして中国が開発しており、現在までに7回の飛行実験を重ねています。

米国はHGV自体の開発も中国に先んじて始めていますが、HGV迎撃システムの開発にも着手しています。そのうちの有力な候補が、THAADを改良した「THAAD-ER」です。



ER(Extended Range)という名の通り、射程は3倍延伸し、10~40倍の機動能力向上、迎撃範囲は9~12倍拡大します。現行THAADが1段式であるのに対し、THAAD-ERは2段式となります。現行THAADの動向とともにTHAAD-ERの今後にも注目しておきたいところです。

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