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【赤木智弘の眼光紙背】金融資産と格差はあんまり関係がない

 『若い人が本気で資産形成を図らなければならない理由』の記事(*1)を読んでいて、少し気になることがあった。
 記事の中に出てくる「年齢階層別金融資産保有高」の円グラフは幾度か目にしているのだが、ネット上でこのグラフが、さも「年齢による格差の証拠」であるかのように扱われることに疑問を持っていた。

 そもそも、年をとれば取るほど金融資産が増えるのは当たり前の話である。蓄積期間が長ければ長いほど、その量が増えていくことに何もおかしなことはない。また、投資十八番の分析に疑問があるわけでもない。50代以上の人たちが「きわめて資産形成をしやすかった世代であった」ことは、疑いようもない。
 だが、問題はそこではない。では仮に20代30代の金融資産が増えたとして、それで「年齢間での格差が縮まった」のかと言われれば、まったくそうではない。むしろ、事態がまったく逆の可能性もある。
 例えば、「親元で生活している貯金が100万円あるフリーター」と、「アパートに一人暮らしで貯金が0円の正社員のサラリーマン」。保健などは同等として、これを単純に金融資産で比較し、格差の証拠ということにしてしまうと、「貯金が0の正社員の方が、格差社会の犠牲者だ!」などという、とんちんかんな結論に至ってしまう。

 金融資産が仮に増えたとしても、そこに生活する人たちが幸せであるとは限らない。大きな不安を抱えながら、お金を使えずため込むことでしか安心を得られないとすれば、それこそ経済が回らず不全に陥った状態であるといえよう。
 給料を貯めたり、投資などで金融資産を形成しようという欲求は、記事中にもあるとおり、年功賃金や各種社会保障に期待ができないからこそ、個人で資産形成を図らなければならないという、ある種の諦念といえる。
 そうした中で20、30代の金融資産が増えていくとすれば、それは個人の生活が個人の責任として、社会に課されてしまっている状態であり、社会保障による「生活の安定」を一切感じないという、格差の是正とは、まったく真逆の事態に陥っているといえよう。

 格差問題で重要なのは、単純な資産や給料の多少ではない。
 毎月必ず一定の給料をもらえたり、毎年健康診断を受けられたり、キャッシュカードを作って低い金利で一時的な借金ができたり、ローンを組んで車や家が買えること。そうした細かな生活の安定性に関わるサービスを享受できるか否かが、実は「心情的な格差問題」の中心なのである。(*2)
 非正規労働者を「安心」させるには、正規労働者よりもカネがかかる。
 仮に、正規労働者が月収20万+ボーナス2ヶ月分の、年収320万円で安心していたとすれば、非正規労働者が同等の安心を得るためには、最低でも500万円の年収が必要になってくるだろう。そうでなければ、いつ仕事を切られるかも知れないという、リスクに対して、まったく割りが合わないのである。
 企業による「非正規化」というリスクヘッジの負担が、いまのところ非正規化された個人に一方的に負わされてしまっている。そうした経済体制の変化に、社会保障がついていけてないことにより、格差が生まれているという現状である。

 結局は、個人として資産形成を図ることは当然としても、そうした個人の努力に社会や企業は甘えるべきではない。また、個人としても十分な社会保障を社会に求めて行くべきという、ごく当たり前の結論が出てくるのだけれど。


*1:若い人が本気で資産形成を図らなければならない理由(投資十八番)http://news.livedoor.com/article/detail/4785009/
*2:衣食住が満たない状態に関しては、格差問題というよりも貧困問題であり、今回の話題ではその範疇を含めていない。

プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。

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