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【赤木智弘の眼光紙背】現実は空気によって生み出される

 日本PTA全国協議会は、『平成21年度 子どもとメディアに関する意識調査』をまとめた。
 産経新聞が報じるところによると、この調査により子供のゲーム依存が進んでおり、麻雀や大人向けのエロゲーをプレイしている子供の存在が明らかになったという。(*1)

 日本PTA全国協議会のサイトに、この調査の全文が掲載されている。(*2)
 私はやはり「子供が本当にエロゲーをぷれいしているのか?」ということが気になったので、その辺りを調べてみると、どうも数値が怪しいことに気づく。
 なぜか「大人向けのいやらしいゲーム」を「ポータブルゲーム機」や「家庭用ゲーム」でプレイしていることになっているのだ。
 携帯用や家庭用のゲーム機には、「エロゲー」と評されるような「18禁」のゲームは存在しない。かつてSEGAが展開していた家庭用ゲーム機「セガサターン」のごく初期、1995、96年にに18禁ゲームの分類が存在したことはあったが、当時のソフトを今の子供がプレイしているとは考えずらい。また、家庭用ゲーム機のDVD再生機能でアダルトDVDを見ていたとしても、さすがにそれを「大人向けのいやらしいゲーム」として認識することはないだろう。PSPのUMDなら間違う可能性はあるかもしれないが。
 一番納得のいく考え方は、そもそもこのアンケートは小5と中2の児童自身と、その保護者へのアンケートであり、解答欄を見ても、具体的なゲーム名を書き込む欄はなく、回答者自らが分類している。
 すなわち、彼ら自身が「大人向けのいやらしいゲーム」だと思っているゲームを回答しているに過ぎないということであり、子供がエロゲーをプレイしているという実証では、一切ないということである。

 産経の記事では「麻雀や大人向けのアダルトゲームなどと答えている子供たちもいた」となっているが、項目はあくまでも「大人向けのいやらしいゲーム」であり、18禁のアダルトゲームとは異なる。
 確かに、家庭用ゲームでも、ビーチバレーのゲームに出てくる女の子のキャラクターにポールダンスをさせることができるようなゲームなど、セクシャルな表現のあるゲームは存在している。しかし日本の家庭用ゲーム機で発売されているゲームソフトは、すべて審査会社のレイティングを受けており、その範囲内での表現に留まる。家庭用ゲーム機でのセクシャルな表現がどんなものかといえば、イメージとして「由美かおるの入浴シーンぐらい」だと考えておけばいいだろう。
 また、「麻雀や」の部分についても、記事では「ギャンブル」のイメージで書かれているが、項目は「囲碁、将棋、トランプ、麻雀などの遊びのゲーム」となっており、いわゆる「テーブルゲーム」の分類である。このうちから「麻雀」だけ抜き出すのは、少々恣意的ではないだろうか?

 これまで記したようなことは、普通にゲームの知識と、少しばかりの想像力、そして、元の資料にあたる検索能力があれば、簡単に分かることである。
 しかし、多くの人たちは、そこまでたどり着かない。この記事だけを読んだ人は、「子供がアダルトゲームをプレイしている」と思い込む。思い込まなくても、子供にゲームを取り上げたくてしかたのない人は、この記事をPTAの合会などでこの記事をプリントして配布する。そうした中で「子供にゲームを与えるのはよくないことだ」という気分が醸成される。
 そうして気分に支配された社会では、もはや事実すら意図的に生み出される。
 どんな事柄であれ、こうしてアンケートという形でまとめられたデータは、それが本当に客観的な視座に基づくかどうかは関係なく、さも客観的であるように認識される。本来「大人向けのいやらしいゲーム」という分類は主観であるが、それがさも客観的に証明されていると勘違いされている。
 さらにそれが、新聞記事などのメディアに掲載され「翻訳」されることにより、元のアンケートとかけ離れた「事実」が産まれてしまう。「大人向けのいやらしいゲーム」という言葉が「大人向けのアダルトゲーム」と、わずか数文字入れ替わり、それが見出しに「エロゲー」というまったく別の文章となって登場する。
 こうした記事が許されてしまうのは、やはりこうした「都合のいい事実」が許される空気が、この社会に醸成されているからだろう。

 こうした記事がおおっぴらに批判され、そのことが納得をもって受け入れられる社会になった時にはじめて、テレビゲームやマンガやアニメなどの、子供が関わるメディアに対する偏見が払拭されるのではないだろうか。

*1:携帯型ゲーム所持率7割超 小中学生進む依存、麻雀や大人向けエロゲーも(産経新聞)http://news.livedoor.com/article/detail/4772359/
*2:21年度-子どもとメディアに関する意識調査(日本PTA全国協議会)http://www.nippon-pta.or.jp/material/pdf/17_mediahoukoku.pdf

プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「「当たり前」をひっぱたく」など。

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