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トランプ大統領がついた嘘はこれからどうなるのか? NYTが発見した100の嘘 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

 今回のテーマは「トランプの100のウソ」です。米ニューヨーク・タイムズ紙(2017年6月25日付)は、ドナルド・トランプ米大統領が同年1月20日の大統領就任式から6月21日までの153日間に、ツイッターに投稿した内容を調査しました。その結果、100個にものぼる「ウソ」を発見したのです。本稿では、同紙が掲載した100個のウソを分類した上で、トランプ大統領の狙いと今後の課題について考えます。

手柄のウソ

 トランプ大統領の100個のウソにはある傾向が存在します。同大統領のウソは、主として手柄(19回)、オバマ前大統領(12回)、メディア(10回)及び、数字(7回)に4分類できます(図表)。まず、手柄からみていきましょう。


 4月28日、トランプ大統領はF-35戦闘機について「私は交渉に携わることで7億2500万ドル以上を削減した」とツイッターに投稿しました。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、実際は同大統領就任前に、ほとんどの削減が決まっていたのです。トランプ政権前から見積もられていたのにもかかわらず、翌日29日にもF-35戦闘機に関して「私が交渉をして値下げをした」と書き込んでいます。同大統領は「自分がやった」というメッセージを発信して、手柄を自分のものにするのです。

オバマを巡るウソ

 次に、オバマ前大統領を巡るウソについて説明します。1月25日、トランプ大統領はオバマ大統領(当時)が地元のシカゴで演説を行った時、2人が銃撃でなくなったとツイッターに投稿しています。その日、シカゴでは銃撃事件はありませんでした。

 トランプ大統領のオバマ前大統領に関するウソは続きます。3月4日、同大統領は「ひどい!選挙の勝利直前にオバマがトランプタワーを『盗聴』していた」とツイッターに書き込みました。しかし、盗聴の証拠はありません。

 2016年米大統領選挙で、トランプ陣営とロシア政府が共謀していたのではないかという「ロシアゲート疑惑」から米国民の関心をそらす意図で、トランプ大統領は「オバマのトランプタワー盗聴」というウソをついたのでしょう。筆者がワシントンで下院外交委員会に所属するジェリー・コノリー議員(バージニア州・第11選挙区)にヒアリング調査を行った時、同議員もそのようにみていました。このウソは不発に終わりました。

 トランプ大統領が、ツイッターでオバマ前大統領の医療保険制度改革法(通称オバマケア)を標的にしてウソを繰り返している点も看過できません。例えば、3月13日同大統領はオバマケアが「ごく少数しか対象になっていない」と投稿しました。事実は異なります。オバマケアの下で、約2000万人が保険に加入できました。

 米議会予算局の試算では、オバマケアに対する上院共和党の代替法案では、それが施行されますと10年間で約2200万人が無保険者になります。勿論、トランプ大統領はこれに関して自身のツイッターに投稿していません。

 トランプ大統領はオバマ前大統領がアフリカで生まれたので、大統領になる資格がないと繰り返し主張してきました。オバマ氏が出生証明書を見せた後は、資格に関する批判を控えています。トランプ氏にはオバマ氏に対する執着心があることが、同氏を巡るウソの投稿からはっきり読み取れます。

メディアのウソ

 さらに、メディアに関するウソも取り挙げてみましょう。トランプ大統領は、殊に米CNNテレビ及びニューヨーク・タイムズ紙を標的にしています。相撲で喩えれば、2社をフェイク(偽)ニュースの東西の横綱に置いています。

 2月4日、トランプ大統領はツイッターに「私が当選後、ニューヨーク・タイムズはフェイクニュースで謝罪に追い込まれ負けたのだ」と投稿しています。この書き込みに関してニューヨーク・タイムズ紙は「決して謝罪していない」と反論しています。2日後、同大統領は同紙について再度「読者に私の当選後、謝罪を迫られた」と書き込んでいます。これに対しても、同紙は事実ではないとして否定しています。

 「潜入!トランプタワー、信者たちの正体」で紹介しましたが、大統領就任式の前にニューヨーク市にあるトランプタワーで熱狂的なトランプ信者を対象にヒアリング調査を実施しました。その際、白人男性の信者の一人が「彼(トランプ)は決してウソをつきません」と断言していました。驚いたことに、この男性には「トランプ=真実、メディア=フェイク」という公式が成立していたのです。

数字のウソ

 トランプ大統領のツイッターには、数字のウソも含まれています。例を挙げてみましょう。1月23日、同大統領は16年米大統領選挙について「300万人から500万人の不法移民のせいで票を失った」と投稿しています。ライバルであった民主党のヒラリー・クリントン元国務長官は、選挙人獲得数で敗れました。ところが、クリントン元長官は得票数において同大統領よりも約290万票以上も獲得しています。それで同大統領は300万人という数字を思いついたのでしょう。同大統領の主張にもかかわらず、不法移民による投票を裏付ける決定的な証拠はありません。

 それに加えて、明白なウソもあります。2月16日、トランプ大統領は「選挙人を306人も獲得した。ロナルド・レーガン大統領以来の大勝利だろう」と書き込んでいます。08年米大統領選挙でオバマ氏は選挙人365人、12年は332人をそれぞれ獲得しています。

危険な「ウソ」とリスク

 トランプ大統領は、支持者固めのためにツイッターでウソをついているとみて間違いないでしょう。100個のウソの中には、ロシアゲート疑惑に関する危険な「ウソ」も潜んでいます。

 5月12日、同大統領は「民主党は選挙に負けた言い訳のため、ロシアとトランプ陣営が共謀したとの話をでっちあげたのだ」と投稿しています。それに対してニューヨーク・タイムズ紙は、米連邦捜査局(FBI)は選挙前にすでに共謀の疑いで捜査を行っていたと述べ、同大統領のコメントを否定しウソと断定しています。

 ロバート・モラー特別検察官は、ロシア政府とトランプ陣営の共謀疑惑について現在捜査中です。仮に共謀が立証された場合、トランプ氏は外国政府と協力して大統領の座を射止めたことになります。しかも、その外国政府とは与党共和党内に不信感があるロシア政府です。共謀に関する確たる証拠が見つかった場合、同氏の「でっちあげ」の主張は覆され、信頼回復が困難になる危険性を含んでいます。 

 これに加えて、トランプ大統領のツイッターが乗っ取られるリスクも存在しています。ハッカーが大統領になりすまして、「中国にはもう期待できない。北朝鮮に軍事的行使をすることに決めた。米国は勝つ!」という内容がツイッターに投稿されたら、世界中に衝撃が走り大混乱を起こします。ツイッターを多用するのは「大統領らしくない」という批判に対して、同大統領は「現代的な大統領だ」と強気の投稿をしており、リスクが高いことを認識していないと言わざるを得ません。

 今後もトランプ大統領は、手柄、オバマ前大統領、メディア及び数字に関するウソを用いてツイッターに投稿し続けるでしょう。同大統領のメッセージの受信者が、それらのウソに慣れて無感覚になり受容してしまうことが最も危険であると言えます。

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