記事
  • MIAU

【MIAUの眼光紙背】東芝に対する「補償金」裁判、裁判所が注目しているのはどこか

去る1月19日から、「私的録画補償金」をめぐる初の裁判が始まっている。私的録画補償金管理協会(SARVH)が東芝を訴え、東京地方裁判所で第1回弁論が開かれたのだ。次回弁論が3月9日に予定されていることもあり、前回筆者が傍聴してきた様子をここで振り返っておきたい。

まず訴訟の原因だが、アナログチューナーを内蔵しない、地上デジタル放送専用のDVD録画機を東芝が昨年2月から発売したことにある。そして東芝はこの機器を発売する際、「私的録画補償金」の徴収に関する「協力」を拒否した。

問題の私的録画補償金とは、ユーザーが家庭内でテレビ放送を録画するためのデジタル機器・メディア(主にDVDやブルーレイディスク)に課されるお金のことだ。そのお金は私的録画の「補償」という名目で集められ、SARVHから権利者へ分配される。

家庭内でこの種の録画をすること自体は、権利者へいちいち断る必要がないと著作権法でも定められている。しかしデジタル録画の場合は、画質の劣化が少なく、高速に複製できるために「著作者等の利益を害している状態に至っている」との認識が権利者側にある。そこでこの「補償金」制度が作られ、録画分野では1999年から運用されている(録音分野では1993年から)。

この制度で補償金を支払うのは、録画するユーザーである。現に、録画機器やメディアの価格には補償金分の金額が含まれており、録画機だと数百円から1000円、メディアなら数円程度を支払っている。では、なぜ今回の裁判では、実際に録画を行なっていて「補償」する立場のユーザーではなく、機器メーカーの東芝が訴えられたのか。ここに本制度のトリッキーなところがある。

本制度を定める著作権法では、ユーザーを「支払義務者」、メーカーを「協力義務者」として定めている。ユーザーが、小売店で機器やメディアを購入する際、価格に含まれた補償金を負担する。これが「支払義務」の内容だ。しかし実際のSARVHへの支払いは、機器・メディアを出荷した数を基準に計算し、メーカーが行なっている。これがメーカーの「協力」というわけである。返品が発生した分を差し引くなどして、計算基準を実売数に近づける努力はされているものの、小売店で実際にいつどれだけ売れたかといった細かいところまでは補償金額に反映しにくい面があるのが現実だ。

以上のことから、今回の裁判の構図はこうなる。現行法で地デジ専用のDVD録画機に補償金が課金されると解釈できるのか、との点で権利者・メーカー間に見解の違いが生じた。そこで東芝は、当該機器の補償金はユーザーに支払わせられないとして、補償金徴収の「協力」を拒否した。結果、支払の原資となるべきユーザーからの補償金を東芝が受けないまま、SARVHから「補償金」の支払いを求める訴訟を起こされたというわけだ。

こうして始まった裁判の第1回弁論では、原告・SARVHと被告・東芝からそれぞれ提出された証拠の確認と、争点を明らかにするためのやりとりがあった。SARVHは、争点として(1)当該DVD録画機が補償金の対象なのかという一点のみを挙げた。しかし東芝は、もちろん(1)も争点に含むが、さらに(2)「コピー制限のもとで録画するための機器にまで補償金をかけるべきなのか」といった点でも争う姿勢を見せた。

(1)については、SARVHからの質問に対し、文化庁が「補償金の対象となる」との解釈をすでに明らかにしている。一方で、東芝は、課金対象を規定する政令の解釈上、地デジ専用録画機は含まれ得ないとしている。また同社は、この課金について関係者間の合意に至っていない点も指摘する。そのためSARVHが文化庁の見解を求めたのと同様、東芝も権利者・メーカー間で合意に至っていないとする経済産業省の見解を引き出した。ブルーレイへの課金の前に文部科学省・経済産業省の間で合意した文書には「無料デジタル放送の録画の取扱い等私的録画補償金制度のあり方については、早期に合意が形成されるよう引き続き努力する」との一文があったが、経産省の見解がそれ以後変わっていないと明らかにされたわけだ。

(2)は、補償金が導入された当時、テレビ放送にコピー制限がかけられていなかったことが話の原点になる。また、当時すでに映画などのビデオパッケージにはコピー制限がかけられており、これは補償金の分配先から外す扱いを受けていた。「私的録画できない」コンテンツならば補償は不要――との前提で組み立てられた制度で、はたして「可能なコピーはゼロではないけれども、一定数までしかコピーできない制限がある場合」は補償の必要があるのか?はひとつの論点と言える。これについて東芝は、補償金制度にまつわる議論の記録を紐解き、多数の証拠を元に主張していく模様だ。

東芝に限らず、メーカー側は「コピー制限があれば補償の必要は無い」と長らく主張してきた。一方、権利者側は「コピー制限があっても補償は必要」とする。現に、SARVHが東芝を訴えた直後の権利者記者会見でもそうした発言があった(※1)。補償金をめぐる過去の論争で、両者はこの一点でずっと対立し続けてきた。もしここで司法判断が仰げるのであれば、今後の補償金制度を考える上で意義があると言えるだろう。2011年7月からアナログ放送は停波され、使える録画機のチューナーがデジタルのみになるからなおさらだ。

※1 http://www.culturefirst.jp/news/2009/11/post_4.html

上の(1)と(2)の争点に加えて、第1回弁論では注目すべき出来事がもう1つあった。裁判所が、質問の中で「強く興味を持っている」点を示したのだ。それは、メーカーが負っているとされる「協力義務」の内容をどう解釈すべきか、という点だ。現時点での「協力」は前述の形で運用されているが、裁判所の解釈により新たな「協力」のあり方が示される可能性も出てきたわけだ(もっとも、現行制度を追認する可能性もある)。

以上のように、訴訟の概要をまとめてみて分かることがある。ユーザーの存在感が希薄なのだ。「支払義務者」としては確かに登場するが、あくまでも対立の構図は権利者対メーカーである。

東芝が争点にしたがっている(2)コピー制限と補償金との関係については、インターネットユーザー協会(MIAU)と主婦連合会が既に意見を表明している(※2)。「コピー制限があれば補償金はなし」「コピー制限がなければ補償金を払ってもいい」との二択であるべき、との考えだ。しかし後者の「コピー制限がなければ」の方は、議論において軽視もしくは無視される傾向が否めない。

※2 http://miau.jp/1256976000.phtml

無論、MIAUや主婦連だけがユーザーの声を代表するものではない。しかし実際に意見を発表し、私的録音録画補償金をめぐる議論にも直接関与してきた両団体ですら、その意見がどれだけ権利者・メーカーらに意識されてきたか疑問である。

本裁判の第2回弁論は、3月9日の午後1時半から予定されている。東芝同様に、地デジ専用DVDで「協力」を拒んでいるパナソニックも、SARVHから訴えられるのが時間の問題と見られている中で、この日に原告・被告双方から「協力義務」をめぐる弁論がある。ユーザー置き去りの構図のまま裁判が続いていってしまうのか、あるいは「協力義務」との関わりで実質負担者のユーザーにも光が当たるのか。そういった点に注目して裁判の行方を見守りたい。

(谷分章優/MIAU事務局長、フリーライター)

プロフィール:
MIAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:MiAU

トピックス

ランキング

  1. 1

    トランプ氏の大相撲観戦に苦言

    早川忠孝

  2. 2

    反安倍勢力を警察が「予防拘禁」

    田中龍作

  3. 3

    トランプ氏の「不機嫌」外交術

    井戸まさえ

  4. 4

    日米蜜月にケチつける日本の新聞

    門田隆将

  5. 5

    トランプ歓迎 国民性出た千秋楽

    早川忠孝

  6. 6

    安倍首相だけがトランプ氏と緊密

    城内実

  7. 7

    安倍首相はトランプ接待の達人か

    内藤忍

  8. 8

    トランプ接待は国民に利点ない

    階猛

  9. 9

    米中の貿易戦争は日本にチャンス

    田原総一朗

  10. 10

    結婚式のスピーチ 秘訣は緊張感

    おときた駿(前東京都議会議員/北区選出)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。