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【佐藤優の眼光紙背】外国人地方参政権と高校無償化問題

 人間は社会的動物なので、群れ(共同体)をつくる。国家と社会は起源を異にする共同体だ。国家は、支配する者と支配される者が包摂された共同体だ。これに対して、社会はさまざまな部分的共同体の間の交換(交流)によって成り立つ共同体である。

 われわれは、民族という現象が流行している時代で生活している。日本人、中国人、朝鮮(韓国)人、イギリス人などという民族は、数百年以上続いていると観念されるが、そうではない。<実際、民族は、国家と同じように偶然の産物であって、普遍的に必然的なものではない。民族や国家が、あらゆる時代にあらゆる状況の下で存在するわけでない>(アーネスト・ゲルナー[加藤節監訳]『民族とナショナリズム』岩波書店、11頁)からだ。民族とは、ナショナリズムという運動から生みだされた現代においてもっとも流行している宗教と考えた方がいい。もっとも流行している宗教は「自然」な感じがするので、それを信じている人たちは、宗教という意識をもたない。<端的に言って、ナショナリズムとは、エスニック(引用者註*文化から見た民族。政治的単位をもっていない場合もある)な境界線が政治的な境界線を分断してはならないと要求する政治的正統性の理論>(前掲書2頁)である。ゲルナーは、国家と社会の関係をわかりやすく整理している。人類史は社会的に三段階の発展をとげる。第一段階が前農業(狩猟・採取)社会だ。ここには社会はあるが、国家がない。第二段階が農業社会だ。ここには、地域共同体だけがあり、国家がない場合もある。またエジプトや中国の古代帝国のように強力な国家が存在する場合もある。第三段階が産業社会だ。ここには必ず国家がある。国家を必然的にもつ産業社会に生きているわれわれは、国家と社会の区別が皮膚感覚でつかなくなってしまっている。しかし、原理的に国家と社会は起源を異にする存在であることは、きちんとおさえておおかなくてはならない。

 主権者である国民が参政権を行使することによって、国家意思が形成される。この原理原則から、外国人の地方参政権について考えるべきだ。国家は究極的に、戦争をする存在だ。日本には現在、徴兵制がないが、国家が国民を徴兵し、「わが国家のために死ね」と命令する権利をもっていることは、国際基準であり、客観的な現実なのだ。こういう問題は、ゲームのルールを単純にする必要がある。参政権については、日本国民に対してのみその行使が認められるべきだ。外国人参政権などという中途半端な権利を認めることで「二級市民」をつくりだすことは、国益に反する。参政権を行使したい外国国籍保持者ならびに無国籍者は、日本に帰化すればよい。それだから、筆者は外国人に地方参政権を付与することに反対する。

 これに対して、高校の実質的無償化に関しては、朝鮮高校を含めるべきと考える。教育は基本的に社会に帰属する機能だ。朝鮮高校が朝鮮総聯(在日朝鮮人総聯合会)と緊密な関係をもつ故に「北朝鮮と関係の深いこんな連中に国民の税金を投入しなくてはならないのか」という反発が右翼、保守派のみならず、国民の間にも根強い。しかし、ここで冷静に考えてみる必要がある。朝鮮総聯は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の利益代表の機能を果たすだけでなく、日本における朝鮮人共同体としての社会的機能も果たしている。日本国籍をもたない朝鮮人も日本国家に対して税金を納めている。このような中間団体として果たす朝鮮総聯の機能を認めなくてはならない。日本の伝統である寛容の精神に立ち、多元的社会を強化することが、結果として日本国家を強化することになる。日本社会が排外主義に傾くと、結果として、日本社会が弱くなり、日本国家も弱くなる。この観点から、朝鮮高校を高校の実質的無償化の対象にすべきと筆者は考える。(2010年2月25日脱稿)

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「はじめての宗教論 右巻~見えない世界の逆襲 (生活人新書) (生活人新書 308)」、「日本国家の真髄」など。

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