記事

北朝鮮やISの影にある「世界で最も無視される危機」:中央アフリカ内戦はなぜ「放置」されてきたか

2/2

安全保障コストの「効率的」配分

第三に、大国における安全保障コストの配分が変化していることです。

中央アフリカに関して、大国の間には「既にゼロに近い利益しかない国を見放すことは自分の損失にならない」という判断が働きやすい一方、「資源調達とセットにした紛争解決に乗り出す」という、いわば「火中に栗を拾う」余裕はほとんどありません

図1で示すように、多くの先進国は、リーマンショックが発生した2008年以降、経済の低迷にともない、軍事予算を縮小してきました。そのなかで各国は、オバマ政権の「アジア・シフト」をはじめ、対テロ戦争やロシア対策など、優先度の高い問題に集中的に軍事予算をあてる傾向を強めたのです。

さらに、「自国第一主義」の米国トランプ政権は、同盟国に「公正な負担」を要求。その結果、2017年6月に北大西洋条約機構(NATO)加盟のヨーロッパ諸国やカナダは、軍事予算の増加に応じざるを得なくなりました。これにより、軍事予算の「効率的運用」を求める圧力は、さらに高まったといえます。

これらに鑑みれば、2017年6月に、主に米国からの要求を受け、国連が平和維持活動(PKO)関連予算を6億ドル削減する方針であることが明らかになったのは、不思議ではありません。さらに米国は、中央アフリカのMINUSCAだけでなく、アフリカ各地のPKOから撤退する方針です。

こうしてみたとき、より「効率的に」軍事予算を配分する必要に迫られるなか、各国は自分たちにとっての脅威とならず、経済的利益も薄い中央アフリカでの危機に手を出すことを控えてきたといえるでしょう。

フランスの関与が乏しいこと

第四に、そして最後に、フランスの関心の低さです。

かつてアフリカに広大な植民地を保有していたフランスは、各国の独立後も大きな影響力を持ってきました。フランスにとって、旧フランス領の各国は「大国」としての発言力を担保するための足場。さらに、資源開発などの経済活動で、他の大国より有利なポジションを確保するうえでも、アフリカ各国との関係は重要です。

そのため、良くも悪くも、フランスは必要に応じて、単独ででもアフリカで軍事力を展開してきました。例えば、2012年、やはり旧フランス領のマリで、アルカイダと結びつきのあるアンサル・ディーンが関与する内戦が発生。この際、フランスは国連安保理での決議を受けて介入。チャドなど周辺国の部隊とともに、マリ政府を支援しました。このような場合、米国をはじめ各国は、「あまり関わりたくない」旧フランス領で発生した問題をフランスに任せる傾向があります

しかし、2013年末に中央アフリカに派遣されたフランス軍は、民生復帰を契機に2016年10月に国連PKOからの撤退を開始。その一方で、マクロン大統領は2017年7月1日、周辺5カ国(チャド、マリ、モーリタニア、ニジェール、ブルキナファソ)と、安全保障に関する協力の協定を締結する方針を発表。これは、ボコ・ハラムなど、西アフリカにおけるイスラーム過激派の拡散を念頭においたものです。

2015年にパリで2度発生した大規模テロ事件は、フランスをそれまで以上に対テロ戦争に駆り立てる転機になったといえます。

フランスの新聞社襲撃事件から「表現の自由」の二面性を考える-サイード『イスラム報道』を読み返す

パリが戦場になった日-ISによる犯行声明が世界と日本にもつ意味

しかし、フランスの関心が国内の治安、シリア情勢、国際過激派組織の動向に集中するほど、アフリカのローカルな宗派対立への関心は、低下せざるを得なくなります。フランスが率先して行動しない以上、他の大国がフランスの「縄張り」のためにコストを負担することは、ほとんどありません。

「世界で最も無視される危機」が示すもの

こうして、中央アフリカにおける危機は「無視されて」きました。情報発信力の弱いアフリカ諸国の割合がMINUSCAにおいて大きいことは、大国の関心の低さ(そこには当然日本も含まれる)の結果であると同時に、国際メディアで中央アフリカが取り上げられる頻度を引き下げる効果があるともいえるでしょう。いずれにせよ、「世界的に無視された」結果、この国における人道危機がさらに深刻化してきたことは確かです。

そして、この問題は、人道主義と各国の利益のいずれを優先させるかのジレンマを示しています

人道的な危機がある時、それに巻き込まれる人々に同情することは、自然な感情といえます。しかし、各自が「自分の安全」や「自分の懐」を意識することも、避けられないことです。その意味で、切迫する環境のもと、各国が自らの安全や経済を優先させたとしても、不思議ではありません。

とはいえ、世界は一つの人体のようなもので、一ヵ所の不具合を放置すれば、それが長期的に他の部分に悪影響をもたらしがちです。アフガニスタンやソマリアでは、大国にとって直接的な脅威でないために、内戦が長期にわたって放置され、その結果としてこれらはイスラーム過激派や海賊の巣窟となり、テロ、難民、麻薬の輸出国になりました。

また、アフリカに紛争が絶えず、政情が不安定な国が多いことは、北朝鮮がこの地に武器を輸出して外貨を稼ぐ一方、大量破壊兵器の部品を調達するルートとして利用する背景となっています。2016年6月にAFPは、中央アフリカに展開するコンゴ民主共和国のPKO部隊に北朝鮮製の武器が支給されていると報じました(同国政府はこれを否定している)。

こうしてみたとき、人体と同じく、世界でも一ヵ所の問題はあちこちに結びつきやすく、それらがひと固まりとなって全体を侵食することになりがちです。したがって、優先順位をつけることは避けられないとしても、破局的な脅威となる前に、「直接的な影響が薄い不具合」に目を配ることが必要なことも、やはり確かといえるでしょう

※Yahoo!ニュースからの転載

あわせて読みたい

「難民」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。