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【赤木智弘の眼光紙背】若者に血液事業の真実を伝えよ

 若年層の献血離れが進んでいることから、厚生労働省は男性の献血対象年齢を引き下げ、これまで18歳からであった400ミリリットル献血を、17歳から実施できるようにする意向だという。(*1)

 まず、このニュースをパッと見て思ったのは、「またなんでも若者のせいか」ということである。
 厚生労働省血液対策課の担当者は「若者の個人意識が高まり、助け合いで成り立っている献血に対しての意識が変化している」などと言っているようだが、記事にあるように輸血用血液製剤を主に必要としているのが高齢者の患者であるというなら、なおさらのこと私は積極的に献血をしようなどとは思わない。
 これまで散々、自分たちの雇用を守るために若い人を非正規労働者として低賃金で働かせ搾取する社会を利用してのうのうと生きていたくせに、さらに血液まですすり舐め尽くそうという、その卑しい感覚に腹が立って仕方がない。助け合いと言うなら、まずは老人の方から若者に金を差し出すべきなのである。

 だが、そうした感情的な非難は別として、現実問題として考えれば、私たちは決して献血に一本化された今の血液事業を頓挫させてはならないのである。ネット上では冗談半分に「売血を復活しろ」などと書く人もいるようだが、冗談でも売血の復活など望むべきではない。
 かつての血液事業は、決して多くの人の善意で成立していたものではなかった。売血や預血といった、血を商品として取引する過去があった。そうした過去の日本で日常的に売血をする人たちは、生活の苦しい人たちであり、血液は決して質のいいものではなかった。一応、採血の回数などに制限は設けられていたが、その徹底は極めて杜撰であり、人々は生活のために月に何度も血を売り、血液銀行は自らの会社の利益のために、血をどんどん買い上げ、病院へ流していった。
 その結果、医療用の血液の質は低く、輸血を受けた患者の多くが、肝炎などの障害を負うこととなった。
 こうした事態に対してマスコミや市民は「黄色い血追放キャンペーン」を繰り広げたが、厚生省の役人たちは「売血制度がなければ血が足りなくなり、日本の医療は成り立たない」として、その重い腰をなかなか上げなかった。

 こうした状況が一変した原因となったのが「ライシャワー事件」である。
 1964年の3月にアメリカ大使を務めていたエドウィン・O・ライシャワーが、大使館の門前で暴漢に刺されて重傷を負った。この時に日本の血液を輸血したのだが、多くの日本人がそうであったように、彼もまた肝炎を患ってしまった。
 このことが大きな社会問題となり、政府は同年8月「輸血用の血液は献血により確保する」とする決議を採択。日本の血液事業が献血に一本化される流れとなった。やがて売血や預血が廃止され、輸血用血液が完全に献血に一本化されたのは、それから10年経った1974年であった。(*2)
 多くの日本人の訴えにはまったく動かず、アメリカ人が傷害を負って初めて日本の医療体制にメスが入るという、日本人のアメリカ様に対する卑屈さには、いつもながら呆れてしまうが、とにもかくにも、現在の日本の医療において、血液事業が献血に一本化されていることは、極めて重要であることが分かる。
 しかしながら、「助け合い」という単純で軽いボランティアであるかのように見える現在の献血には、「献血によって現代日本の医療体制を守る」という重さが感じられない。

 日赤は若い人を献血に呼ぼうとして、さまざまな手を打っている。
 ジュースやお菓子の無料提供はもちろん、占い師やネイリストを呼んで女性を呼び込もうとしたり、記事にあるようにフィギュアを飾るなどしてオタクを呼び込もうとしている。
 確かにそうした「軽さ」も必要ではあろうが、上記のような売血中心だった時代の酷さを訴え、献血が「重いボランティア」であることを伝えることも重要である。今の若者を「軽さ」だけで呼び込もうとしても、それだけでは逆に若者を遠ざける。
 今の時代の若者は、バブル時代の若者のように軽薄ではない。表面的には軽いボランティアでありながらも、その裏にある献血制度の重さを受け入れる度量を、今の若者は確実に持っている。

 若い人に献血に来てもらうためには、恐れることなく過去の血液事業の悪夢を提示し、「だから献血が必要なのだ」と真摯に訴えるべきである。そうした過去を黒歴史として封印し、ごまかし続ける限り、若い人は軽いだけのボランティアに積極的に協力する意思を持たず、これまで通り、献血に積極的に参加しようとは思わないだろう。

*1:「尋常じゃない」若者の献血離れ 将来に不安、献血年齢一部引き下げ(J-CASTニュース)http://www.j-cast.com/2010/01/02057085.html

*2:血液事業の歩み(日本赤十字社)http://www.bc9.org/index.php?option=com_content&task=view&id=12

プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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