- 2017年07月10日 10:13
セックスだけの許可制外注はできるのか 『1122』
1/2渡辺ペコ『1122』1巻
ここ1ヶ月くらいだけのスパンをとってみると、渡辺ペコを再読する率の高さといったら、ない。通勤の行き帰りに何度も読んでしまうわ。
特に渡辺の描くクール系の女性が好きで、『にこたま』の高野とか、『ボーダー』の種田をしみじみ眺めてしまう。
弁理士をしている高野は、同僚の後輩男性(主人公・岩城)と偶発的なセックスをしてしまい、妊娠し、結婚を求めずに一人で子どもを産んで育てようと決意する女性。自分の中にわきあがる動揺に当初戸惑いながら理性でそれをねじ伏せるクールさがシビれるし、それがまた生硬で、不器用で、疲れた感じが残っている様子が、もー、生々しくて、すんごい好き。
高野が彼氏と別れるエピソードが番外編で描かれているけど、理性で最後のセックスをやめてしまうところとかがそれ。
彼氏と別れた後、岩城が職場で笑っているところを高野がふと眺めたら、頭の上に窓外の虹が重なって見えて「アタマから虹出てんの」と高野が内語して可笑しむ。岩城が別に高野に何か言ったわけでもないのに、高野のカタさを壊してくれるかもしれない楽天性がそこに重ねられ、高野が岩城に好感を抱く瞬間が描かれる。こういう洒落た描き方に、惚れる。
高野が東京の職場を辞めて実家のある静岡に戻る途中、岩城に偶然会って、新幹線で話すシーンとか、ホント何回も読むよね。
こっちで
いっしょに
仕事する?
でもわたし
岩城くんて
けっこう好きなのよ
とか。悶える。ちょい年上の女性に、「……くん」って言われたい病のワタシ。
男らしくない男を好む需要もあるってこと
セリフと絵がとろけそうに、快楽的。そういうものとして読む。
『1122(いいふうふ)』は、連載中の渡辺の最新作である。主人公の夫婦は、家族としては、穏やかで、コミュニケーションが豊富で、お互いを労わりあう、いわば「理想的な夫婦」なのに、この夫婦にはセックスだけがない。
夫(おとやん)はセックスをしたいのに、妻(いちこ)はしたくない。
妻の公認のもと、夫は家庭の外に「恋人」を作り、週1回デートをしてセックスをする。つまり「公認不倫」である。
『1122』は、主人公の一人、いちこの不器用さが、生々しい悲しみのうちに、しかし、それがなぜか美しく叙情的=快楽的に描かれていると感じるので、ぼくはその描写を避けることなく、何度もその箇所を読んでしまう。
例えば、いちこが、実家に帰るシーン。
いちこの母親が父親から暴力を振るわれ、自分が無力だった過去を思い出させる実家に戻った時に(すでに父親は死亡)、いちこは、母親の言葉一つひとつに理屈立てて噛みつく。
あの人がDVのクズだったのは同意だけど
わたし その遺伝子半分受け継いじゃってんの
でもそれ わたしのせいじゃないから
おかあさんはいいよ 元々他人だし
もうあの人死んでるし
夫婦は解消できるのに
それ しなかったのは自分の選択でしょ
わたしは“やさしいおとやんをつかまえた”んじゃないよ
今の生活を選んで大事に維持してるんだよ
わかる?