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国民に負担を課す施策が今後ますます必要になるから、政治家は根拠のある数字を示し、きちんと説明していくべき - 「賢人論。」第40回加藤久和氏(中編)

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前編「高齢化による不足分は経済成長で補うことができる。グローバル化やAIなどを加味した長期的なビジョンを打ち出すべき」では長期的な政策ビジョンを立てることの重要性と、日本の伝統的な雇用システムの問題点を指摘した加藤久和氏。若者の減少に伴う生産力の低下をどう補うかがひとつのひとつの大きな課題だ。中編では、そんな超高齢社会において政治家の説明責任がますます重要になることが説かれる。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/小林浩一

社会保障の重要性を説明し、理解してもらう努力を政治家は払うべき

みんなの介護 高齢者福祉を中心に政治が回り、若者向けの政策がないがしろにされてしまう問題、いわゆる「シルバーデモクラシー」についてはどうお考えでしょうか。

加藤 あまりにも高齢者向けのお金を使いすぎているということは政治家自身もわかっているようです。でも、高齢者を優遇したほうが選挙に有利なので、選挙区に帰ると本音とは違う話をする。そういうところが日本の政治の弱さですよね。

ある政治家の方と同席したとき「消費税を上げてその分を介護に充てたらどうですか」と私は発言をしました。そしたら、その場にいたある政治家の方が「加藤さん、消費税を上げるのがどれほど大変かわかっていますか?」と怒られてしまったことがありました(笑)。言いたいことはわかりますけれど、それはあくまでも政治の世界の中で大変だという話ですよね。

みんなの介護 「賢人論。」第38回前編「いくら“公”が縮小していても、“民“は熱くなることができる。民間が社会を作っていく感覚が日本には足りない」で投資家の藤野英人さんが、介護は経済的リターンの少ないただのコストになってしまっているとおっしゃっていました。

加藤 それが現状だとしても、消費税は社会保障に充てていかなければならないと私は思いますよ。高齢者対策や少子化対策は我々自身の将来への投資でもありますから、現時点でリターンが感じられないとしても何も問題ありません。社会保障はリターンを求めるのではなく、リスクを分散するものです。

現在の社会保障費は膨大で、たとえ消費税を10%まで引き上げたとしても賄えないんですよ。これだけ社会が高齢化しているにも関わらず、わたしたちの負担額はそもそも少なすぎるんです。高齢者福祉のためにどうしてもお金が必要なんだということを世間に訴え、理解してもらう努力を政治家がもっと行っていくことがまずは必要ですよ。

みんなの介護 消費税は逆進的(所得が低くなるほど税負担率が重くなる性質)であるという批判もありますが?

加藤 確かにそうした面もありますが、社会保険料の方がよっぽど逆進性は高いですよ。例えば国民年金の保険料は所得の高低に関わらず誰もが同じ金額を払わなければならないでしょう。ですから、どちらかといえば消費税の方がまだ公平ではないでしょうか。

一方、最近出てきた「こども保険」は少し注意しなければならない提案だと思います。子どもをどう考えるか、公共財という性質があるならこれは、厳密には「保険」でなく「分配」(税)でやるべきで、既存の保険に上乗せするようなものではないと思います。しかも高齢者が負担しないのであれば問題外です。若い世代のために高齢者に負担してもらう、という意見がもっと出てこないとだめだと思います。

高齢者間の格差は目立ちにくいが、実は深刻

みんなの介護 高齢化問題への対処としては、出生率を上げるなど「少子高齢化そのものを食い止める」というやり方と「高齢社会を前提に上手くやりくりする」というやり方の2つの方向があると思われます。加藤さんはどちらの方が有効だと思われますか?

加藤 少子化を止めるのはそう簡単ではないでしょうね。いま出生率は1.46で、目標は2.07なんです。そこまで引き上げるのはとても大変なことですし、仮にいますぐに出生率が2.07になったとしても、人口バランスが正常に戻る(定常化する)までには70~80年もの時間がかかると言われています。現実的にできるのは、どれだけ人口の減り方を遅くするかくらいです。

このような状況ですから、結論として「人口が減っていくことを前提とした社会保障制度を整える」というアプローチにならざるを得ないと思いますね。

みんなの介護 超高齢化でも持続可能な社会保障制度を実現するためには何が必要でしょうか?

加藤 私が理想だと思うのは「社会を支えるためにある程度負担を分かち合っていかなければならないんだ」ということを、すべての国民がまずは認識している状態です。それこそが、制度が持続可能になるための最も重要な条件だと思います。

みんなの介護 現段階では若者が高齢者を支える一方ですが、今後は高齢者同士でも支え合ってもらう方向にシフトしていかなければ、という話もあります。

加藤 私は世代間格差の議論に長い間取り組んでいて、本も書いたことがあります。その中で感じたのは、どうしても若者と高齢者の間の格差だけが着目され、高齢者同士の格差というのはなかなか目立ちにくいのだということでした。

みんなの介護 その高齢者間の格差はどれほど深刻なのですか?

加藤 年金を月額1万円程度しかもらえない人もいれば、満額もらっているのに加えて他の収入源も持っているため、年収が600万円もあるという人もいます。

ですから、お金を持っている人への社会保障の給付を抑え、その分お金がない人に手厚くするというやり方をとっていくべきだと思います。具体的には、介護保険料を高齢者が3割負担することは当然だと思いますし、年金も半分は税金ですから、高所得の高齢者の方への給付を減らすなどの工夫も必要でしょう。

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