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【赤木智弘の眼光紙背】千葉県職員は悪人じゃない

千葉県の不正経理問題で、森田健作知事がえらく芝居がかった会見を行っていた。イメージ通りと言えばイメージ通りだが、逆に言えば森田県知事は昔からそんな一本調子の演技しかできない役者だったという印象がある。
それはともかくとして、確かに裏金作りは悪いことであるし、経理が不正だといわれればそうとしかいいようがない。しかし、それを「職員が悪いことをしたのだ」と単純に批判し、正しいことをすれば、行政の無駄がなくなるという理解をしてしまっていいものだろうか?

記者会見の中で森田知事は「おまえたち何やっているんだ、と怒鳴られても仕方がない」と怒鳴っていた(*1)が、彼らが何をしているかといえば「仕事をしていた」としか言いようがない。彼らは、限りある予算と、一方的な予算削減の欲求の中で、円滑に業務を進めるために、なんとかお金を工面しようと考えた、優秀な公務員たちである。
そもそも、日本社会において労働者に求められるのは、組織内における勤勉で実直な精神である。組織のためになら、嫌なことにも首を縦に振り、サービス残業も粛々とこなし、裏金作成や犯罪行為だって業務の一環として当たり前に作るような人材こそ、戦後の日本では優秀な労働者として重用されてきた。その一方で、社内の不正を正そうとしたり、サービス残業は違法であると告発するような労働者は「職場の和を乱す、自分勝手な人間」というレッテルを貼るのが日本社会である。
そのような社会においての「仕事」とは、倫理観や正当性と離反した、それぞれのオフィスでローカライズされた「仕事」でしかない。今回の件は、社会から県職員に要求される「仕事」と、ローカライズされた「仕事」が、離反していたという問題である。
だが、私は社会から要求された仕事が正しく、県職員の中でローカライズされた仕事が間違っていたなどと、私は単純に考えることはできない。今回の不正経理の中で、業者に架空の代金を支払い、業者側にお金をプールする「預け金」というシステムは、約40年前から行われていたという。(*2)
公務員だけではなく、すべての企業や組織において、ある部門が予算を効率よく使い、それが余るようなことがあれば、次からは予算が削減されるというのは、お約束になっている。だからこそ予算を浪費し、いかにも「予算が足りない」かのように振る舞う。そうして次年度の予算が増えることは部門にとっての経済成長を意味するのである。組織が円滑に運営されるためには、慣例になっていた不正が必要不可欠だった。だから不正をしたのである。

この不正経理の問題というのは、決して「怠惰な公務員が不正をした」ことが問題なのではなく、「不正なシステムを守ることが組織に対する忠誠であると勘違いした公務員たちの考え方」が問題なのである。
こうした公務員の不正について「民間ではありえない」などと口にする人も多いが、民間でも同じことである。
派遣労働の問題を見聞きしていると、割とよくある事例であるが、派遣会社が管理する工場労働者の怪我を隠し、労災扱いにせず、労働者に治療をさせないことがある。怪我といっても擦り傷などの軽微な怪我ではなく、機械に指を挟むなどの後遺症が残りかねない怪我である。なぜなら、労働者の怪我によって派遣先企業に不利益があれば、派遣会社の心証が悪くなり、契約が不利になる。だから、弱い立場の派遣労働者を言いくるめて、労災ではなく「自分で怪我をした」と、自己負担での治療を要求する。派遣労働業界では、そうした不正はありふれている。
ほかにも、大手食品会社による牛肉の偽装や、倒産寸前の状況を隠して、建築主に一括払いを迫る住宅メーカー。こうした企業による不正な事件のいずれもが、組織に対する忠誠を誓った、優秀な会社員によって起こされているのである。

いまの日本において、こうした不正を正すということは、決して「ちゃんとした会計監査を行う」という、戦術レベルの方法論で行えることではない。
そうではなく、社会全般の利益を考え、自らの組織に固執することなく、不正は不正であると告発することのできる人間を増やすことはもちろん、それを支持できる世論を作り上げていくという、戦略レベルの方法論が必要なのである。
しかし、今の日本が優秀と考えるサラリーマン像は、かつてナチスドイツの親衛隊として、上の命令に淡々と従った結果、たくさんのユダヤ人を虐殺した「アイヒマン」と同じである。そうした日本の労働者の大半を占める優秀なアイヒマン達を、不正の告発者として成長させることは、決して簡単なことではないだろう。

*1:<千葉県不正経理>管理職で7億円返還へ 森田知事が謝罪(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090909-00000130-mai-soci
*2:千葉県不正経理「40年前から」カネ管理の業者証言(朝日新聞)http://www.asahi.com/national/update/0909/TKY200909080391.html


プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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