記事

ハリウッドの映画人たちが政治的発言をするワケ 『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか』 - 本多カツヒロ(ライター)

1/3

 今年のゴールデングローブ賞授賞式でのメリル・ストリープのスピーチは、トランプを暗に批判したとして日本でもニュースで話題となった。彼女に限らず、ハリウッドをはじめとする映画人はよく政治的発言をしているイメージがある。

一方、日本はどうだろうか? タレントや俳優といった注目を集める立場にいる人間が少しでも政治的発言をしようものなら、どんな内容であってもそれが彼らにとってプラスのイメージとなるとは考えづらい。

 そこで『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)を上梓した朝日新聞「GLOBE」記者の藤えりか氏に、なぜ映画人たちは政治的発言をするのか、転換期を迎えているハリウッド映画、そして中国マネーの影響などについて話を聞いた。

――本書のタイトルはかなり長めですが、意図があるのでしょうか?


藤:たとえば日本では、ハリウッドをはじめとする映画の俳優や監督、プロデューサーの記者会見は、映画の内容やPRに関する質問が目立ち、政治や社会情勢などについての質問はほとんど耳にしません。特にエンタメ色の強い映画では顕著です。

 でも、私が朝日新聞のロサンゼルス支局長時代に現地の記者会見やインタビュー、また新聞やテレビなどの報道で目にしたのは、俳優や監督、プロデューサーが映画そのものだけでなく政治や社会情勢についても積極的に発言する姿でした。

私は映画専門の記者ではないだけに、国際報道の記者として現地の記者に刺激を受けながら、映画界を取材する際は映画の内容や論評にとどまらない、政治や経済、世相にからめた取材となるよう努めました。日本に戻ってからもそうしたインタビューを続け、政治について語りたい映画人のいわばメッセンジャーとしての役割を担えれば、とGLOBEで「シネマニア・リポート」という連載記事を始めました。

インタビューなど当事者の声を基本とするその連載をベースとした本書の意図がきちんと伝わればという思いから、タイトルがつけられました。担当編集者さんいわく、幻冬舎新書史上最長のタイトルだそうです。

――連載期間がちょうど欧米諸国の政治的な激変期と重なっています。

藤:連載を開始したのが、昨年の6月で、ちょうどイギリスのEU離脱が決定した月でした。しかも連載1回目が、21世紀のベルリンにヒトラーが蘇るというベストセラーをもとにしたドイツ映画『帰ってきたヒトラー』。この映画では、ヒトラーを演じるオリヴァー・マスッチが、一般人と接する場面をほぼ台本なしで、ゲリラ的に撮影しています。

そうした場面から、戦後ヨーロッパの優等生となったはずのドイツの一般の人たちのなかにも、ヨーロッパで問題となっている排外主義やポピュリズムが蔓延していることがうかがえます。インタビューしたマスッチは、「撮影されていることがわかっていても、外国人排斥や人種差別を口にする人がいた」と、驚きとともに危機感を口にしていました。

 ご存知のようにその後、アメリカではトランプが大統領選で勝利。インタビューではよく、大統領選前後のトランプ旋風や、ヨーロッパで広がる排外主義やポピュリズムなどの話題になりました。結果的に、この連載期間がちょうど「beforeトランプ」「afterトランプ」となり、その間の映画人の肉声を一冊にまとめることができました。

――そう考えると、本書の冒頭にも書かれていますが、まさに映画界にとっても、欧米社会にとっても転換期になったわけですね。

藤:冒頭に書いた「転換期」とは政治面と経済面の両面において、特にハリウッドが転換期にあるということです。

 政治面では、多くのハリウッド映画人にとって、大統領選でのトランプ勝利はものすごくショックな出来事でした。オリバー・ストーン監督のようにヒラリー・クリントンをまったく支持しなかったり、クリント・イーストウッドのように元々共和党を支持していたりする人たちもそれなりにいますが、アメリカの映画業界全体ではクリントン支持が目立っていました。

 オリバー・ストーン監督も指摘していますが、映画人個々の思想は別として、ハリウッドは総じて、民主党政権下も共和党政権の時でも、常に「政権寄り」なんです。 

 遡れば、ブッシュ政権が始めたイラク戦争にリアルタイムで反対だと発言した映画人は実はそこまでいませんでした。実際に、イラク開戦の数日後に開かれたアカデミー賞授賞式で、マイケル・ムーア監督が「恥を知れ。ミスター・ブッシュ」と発言しましたが、会場は拍手も上がった一方で、多くのブーイングにも包まれたそうです。

 その後、オバマが大統領選への立候補を表明すると、マット・デイモンやジョージ・クルーニーらが資金集めにも協力して支援しました。オバマ政権下のアカデミー賞授賞式では、ミシェル・オバマ大統領夫人(当時)が作品賞のプレゼンターを務め、副大統領ジョー・バイデン(当時)が招かれたこともありました。

 さらに遡れば、ハリウッドは、マッカーシーの赤狩りを真っ向から否定する態度を取らなかったために、チャップリンはアメリカを事実上追放されましたし、多くの映画人たちが職を失う事態となりました。

 つまり、ハリウッドの映画人たちが政治的な発言をするといっても、全体としては「現政権」にはあまり批判的にならないのが常でした。これだけ巨大な産業ですから、ある程度、政権と距離を近しくしておくのは不可欠な部分もあるのでしょう。

たとえば、今や北米に次ぐ世界第2の映画市場となった中国では外国映画の上映枠が決まっているうえ、検閲制度もあります。アメリカ映画の枠を増やしたいと業界は要望してきましたが、2012年の米中映画協議でそれが見事に実現します。

その際、当時すでに中国国家主席就任が目されていた習近平・国家副主席と、アメリカのバイデン副大統領が会談しましたが、そのバイデンがその後、授賞式に招かれているわけです。

 しかし、今回のトランプ大統領誕生で、これまでのこうした関係性が大きく崩れました。ハリウッドとしては、政権寄りどころか、いわば「反政権」的な立場に立たされた格好です。

――経済面での転換期とはどういうことでしょうか?

藤:経済面の転換期は、すでに迎えています。ハリウッド映画はかつて、大手スタジオが大規模な予算で、チャレンジングな作品にスター俳優を配し製作していました。

しかし、ケーブルテレビやネットフリックスなどの台頭もあって、映画館に足を運ぶ人の数が先進国を中心に頭打ちになり、北米などでは3Dなど付加価値をつけた割高なチケットを売ることで興行収入をある程度増やしつつ、全体としては伸びる新興国の売り上げに頼っている状況です。

 そうしたなかで、昔のようにチャレンジングな作品をつくることができなくなり、リメイクや続編など最大公約数に受けるような「安全」な作品づくりが多くなってしまっています。

あわせて読みたい

「ハリウッド」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    河村市長がトヨタ自動車の抗議に態度一変 企業城下町の恐ろしさ

    猪野 亨

    08月06日 08:43

  2. 2

    「スゴイ日本!」ばかりのテレビ五輪放送。在留外国人は東京五輪を楽しめるか

    Dr-Seton

    08月05日 08:29

  3. 3

    淀川長治さんが『キネマの神様』を絶賛?CMに「冒涜」と映画ファン激怒

    女性自身

    08月05日 09:07

  4. 4

    なぜ選手が首長を訪問? 名古屋・河村市長のメダルかじりで「表敬訪問」に疑問の声

    BLOGOS しらべる部

    08月05日 18:37

  5. 5

    病床を増やさないどころか計画の実効性もないコロナ禍の一年半 残念すぎる政府の対応

    中村ゆきつぐ

    08月06日 08:42

  6. 6

    ベラルーシ選手はなぜ政治亡命したのか ルカシェンコ政権の迫害ぶりを示した東京大会

    WEDGE Infinity

    08月05日 09:18

  7. 7

    ひろゆき「バカほど『自分にごほうび』といってムダにお金を使う」

    PRESIDENT Online

    08月05日 15:33

  8. 8

    東京都、新規感染者数5042人に疑問

    諌山裕

    08月05日 17:42

  9. 9

    ワクチン完全接種5割の8月末まで好転無しか

    団藤保晴

    08月05日 09:02

  10. 10

    74年間一度も改正されていない日本国憲法 「決められない日本人」の象徴

    篠田 英朗

    08月05日 14:16

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。