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【赤木智弘の眼光紙背】裁判員制度開始前のイメージとまったく違う、顔出し記者会見

さいたま地裁で行われた裁判員経験者への記者会見のなかで、守秘義務違反に当たる恐れのある発言があったと、さいたま地裁が見解を示したという。(*1)

裁判員制度について、ニュースで散々「裁判員として知り得た秘密や、裁判員になったことをみだりに話してはいけません」と報じられにも関わらず、裁判後に実名顔出しで記者会見に応じる裁判員を見て、多くの人達は「なんだこりゃ? これまで考えていた裁判員制度のイメージと違う」と思ったのではないか。
私としても、刑の確定後ならまだしも、地裁レベルの判決しか出ていない状況で、裁判員経験者の身元が、こうも堂々と全国に晒されるという事態に接して、これまで以上に裁判員制度に対する不信を強くした。
日本新聞協会によれば、「裁判員経験者が感じたこと、考えたことを社会全体で共有することは、国民の司法参加という理念を理念を定着させるために重要であり、司法権の行使が適切にされているかを検証する上でも必要不可欠」として、裁判員経験者への記者会見を求めている。(*2)
しかし、当然のこととして、素人である裁判員経験者が、何が守秘義務違反で、何が違反ではないのかということを的確に判断できるはずはない。ましてや記者会見という、普段の生活の中には決してあり得ない独特の場所で、瞬時に的確に判断することは不可能に近いだろう。今回は地裁側に確認することで回答を控えることができたが、いずれはそうした発言をしてしまい、発言の途中で地裁側に静止される裁判員経験者も出てしまうだろう。また、高裁などでの判決や、刑の確定後にマスコミが裁判員経験者に直接取材を申し込むことも考えられ、そうした場所で守秘義務を守ることができるかは、疑問である。
問題は、そのような問題が起きた時に、マスコミはどのような対応をするかである。
守秘義務違反の回答を引きだしてしまったことに対して、謝罪をおこなうのだろうか?
守秘義務違反にあたる回答は、報道段階で差し止められるのだろうか?
実際、そのようなことが起きたとして、どこが守秘義務違反だったかと、おもしろがって実名顔出しのVTRを何度も繰り返して放送するのが、今のマスコミのレベルだろう。

逆に、記者会見の自由を前提にするなら、裁判員に対する守秘義務については、もっと突っ込んだ議論がされるべきだった。現状の守秘義務違反は「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」であり、刑罰なので罰せられれば「前科」となってしまう。そして守秘義務は一生のものである。
その一方で、裁判官の守秘義務違反は、在職中のみに適用され、しかも罰についても弾劾や懲戒のみで、刑事罰ではない。
1966年に、静岡県清水市で起きた強盗放火殺人事件、いわゆる「袴田事件」と呼ばれる事件があるのだが、2007年に、静岡地裁でこの事件の死刑判決に関わった元裁判官が、「彼は無罪だと確信したが裁判長ともう一人の陪席判事が有罪と判断、合議の結果1対2で死刑判決が決まった」と発言している(*3)が、これは守秘義務違反にならない。こうした発言を裁判員経験者が行えば、刑事罰に問われることとなるだろう。

裁判員制度は既に開始されているが、人間によって決められた制度は、人間によって破棄、または改良することは可能である。こうした裁判員制度のおかしな実態を踏まえて、今一度、この制度を考え直すという動きがあることに期待している。


*1:「守秘義務違反の恐れ」=裁判員会見の発言で見解−さいたま地裁(時事通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090812-00000172-jij-soci

*2:裁判員となるみなさんへ(社団法人日本新聞協会)http://www.pressnet.or.jp/info/seimei/saiban-in20090206.html

*3:「大したもんじゃない」  守秘義務、裁判官と格差(共同通信社)http://www.47news.jp/feature/saibanin/47news/094649.html


プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧 Readerに追加RSS

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