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【赤木智弘の眼光紙背】子供に労働環境を用意することは、父親の愛情である

 京都教育大学の学生が起こした集団暴行問題。この問題に関与した学生が、父親のコネによって臨時学童保育指導員として働いていたことが明らかになり、父親に降格処分が下ったという。(*1)

 性的な問題を犯した人間が、学童保育という教育の場に入り込んだ。しかも無期停学で問題を起こしていたことを知りながら、本人に応募を進め、面接を行ったのが父親。身内びいきの市民への背任行為。世間的にはそう考えられるだろう。
 とはいえ、果たしてこのこと自体がどれほどの問題なのか、私には判断しかねる部分がある。
 まず、公務員は職員の縁故採用自体の禁止はしていない。また、正規職員としての採用ならともかく、あくまでも臨時職員。賃金も12日で5万円(*2)であり、単なるアルバイトでしかない。
 また、集団暴行という性的問題を起こした学生が、学童保育に入り込んだ問題についてだが、単純に危険性だけで言えば、同年代の女性を暴行するからといって、子供に対する暴行可能性が直接増えるわけではない。それはまったく異なる性癖である。

 だが、それよりもこの問題で重要なのは「犯罪者やそれに類する人に対して、家族が仕事をあっせんしたことは、果たして処分されるような行為なのか?」という点ではないだろうか。
 父親が、息子の採用を決めた時点で、どこまでの事情を把握していたのかは分からないが、むしろ息子の状況を把握していればしているほど、停学という状況に対して、家で時間を持て余すよりは、労働に就け、少しでも更生の道に進める方がいいと考えるのは、通常の親心であると思う。
 そして、たまたま父親が公務員であったことから、自分の周辺で仕事を探したところ、それが臨時職員であることは、決しておかしなことではない。さらに、学童保育の仕事を与えたということは、やはり今後に教員という仕事に就くための糧となることを考えたのだろう。

 こうしたことを、「自分の家族のことしか考えない身内びいきだ」と批判することは簡単である。
 しかし、ならば「性犯罪に関わったものを教育の場で働かせるな」という批判だって、自分の子供のことしか考えてない身内びいきに拠る批判であろう。
 どうにせよ、今回、被害女性との示談が成立し不起訴処分(*3)になった彼は、近くどこかで働かなければならない。その時に周囲が「ここでは働いて欲しくない」と、彼の労働を否定することは、果たして正当だろうか?
 社会福祉の質が極度に低い日本においては、十分な資産がない限り、働いて労働収入を得ることでしか生活することはできない。ならば、こうした犯罪を犯した、もしくはそれに類する者がいたとしても、彼らから労働の権利を奪うことはできない。労働の権利を奪うことはそのまま、生活の権利を奪うことになるからだ。

 被害者とその家族のことが大きく取り上げられ、彼らの権利と人権を守れと叫ぶ風潮があるが、その一方で加害者の人権についてはほとんど関心が持たれていない。それは、加害者を罰すと同時に、加害者の生活を考えなければならないというパラドキシカルな問題など、誰も考えたくないからだろう。
 けれども、その問題から決して逃げられなかったのが、今回の父親である。彼は息子の罪を受け入れなければならなかったと同時に、彼の今後の生活を考えなければならなかった。だって、家族なんだから。

 少なくとも私には、この父親を「倫理観のない、自分勝手な人間」だなどと、断罪することなどできない。
 私は家族という「制度」を否定することはできるけれども、家族に対する愛情そのものを否定することなんて、とてもできないのである。

*1:京教大生集団準強姦事件で逮捕の学生の父を減給 大阪・茨木市(産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090619/crm0906191918039-n1.htm
*2:青少年課長の父 レイプ息子を学童指導に採用(スポニチ)
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2009/06/05/01.html
*3:京教大の6学生全員を釈放 集団暴行で示談、不起訴へ(共同通信)
http://www.47news.jp/CN/200906/CN2009062201000446.html


プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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