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【佐藤優の眼光紙背】谷内正太郎政府代表に対する非難は正しい情報に基づいているのだろうか?

5月12日にロシアのプーチン首相(前大統領)が訪日する。このときには、北方領土問題に関する交渉も行われる予定だ。この関係で、日本政府が北方四島は日本領であるという原理原則を崩しているのではないかという憶測が流れている。

4月17日毎日新聞朝刊に掲載された、谷内正太郎政府代表(前外務事務次官)の発言をめぐる次の記事が憶測を呼ぶことになった。

<北方領土問題:返還「3島と択捉一部でも」 谷内・前次官、交渉打開案に言及
日露間の懸案となっている北方領土問題の解決を巡り、前外務事務次官の谷内正太郎政府代表は16日までに毎日新聞のインタビューに応じ、「個人的には(四島返還ではなく)3・5島返還でもいいのではないかと考えている。北方四島を日露両国のつまずきの石にはしたくない」と述べ、日本が領土交渉で四島すべての返還に固執するべきではないとの考えを明らかにした。

北方領土に関しては、2月18日にロシア極東のサハリンで行われた日露首脳会談の際、麻生太郎首相とメドベージェフ大統領は「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」で協議を加速させることで一致している。谷内氏は、外務次官時代から麻生首相のブレーン役を務めてきており、2月の首脳会談にも同行している。谷内氏の発言は、前大統領で現ロシア政権に強い影響力を残すプーチン首相の5月来日を前に注目を呼びそうだ。

谷内氏は「(歯舞、色丹の)2島では全体の7%にすぎない。択捉島の面積がすごく大きく、面積を折半すると3島プラス択捉の20〜25%ぐらいになる」と指摘した。政府は歯舞、色丹、択捉、国後の四島の帰属をロシア側に求める立場を崩していないが、麻生首相は先の日露首脳会談の際、記者団に「向こう(ロシア)が2島、こっち(日本)が4島では進展がない。政治家が決断する以外、方法がない」と強調。谷内氏の発言は麻生首相の意向を反映したものとみられる。>

この記事に対して、谷内氏が「国賊」であるというような批判が展開されている。袴田茂樹青山学院大学教授、丹波實元駐露大使らが谷内氏を弾劾するための意見広告を新聞に掲載するために募金をしているという。

しかし、ここで一歩立ち止まって、冷静に考えてみる必要がある。まず、谷内氏自身は、「3・5島の返還で、平和条約を締結する」と述べたことはない。日本政府の原則は、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の日本に対する主権を確認して平和条約をつくるというものだ。これは原則であり、譲ることはできない。

他方、外交には相手がある。「まず北方四島返還を約束せよ。それから話をする」というのでは、ロシアは絶対に交渉に乗ってこない。ロシアの乗せるために柔軟な姿勢を示すことは、交渉術として「あり」だ。

不良債権処理を考えてみよう。4億円の不良債権がある。相手が「とりあえず3億5千万円払います」というとき、まずそれを受け取って、残り5千万円を取り戻すべく交渉することのどこがおかしいのだろうか。

北方領土に関しても、現段階では2島、次の段階で3島など段階的に問題を解決する可能性を当初から排除するべきではない。米国との戦後処理も、まず奄美、次ぎに小笠原、そして最後に沖縄の施政権が返還された。

現時点で毎日新聞は谷内氏とのインタビューテープを公表していない。谷内氏が何を発言したか、ほんとうに3・5島返還で平和条約を締結すると考えているという認識を表明したというには、情報が決定的に欠けている。谷内正太郎政府代表に対する非難は正しい情報に基づいているのだろうかと筆者は首をかしげている。

柔軟性を欠いたナショナリズムを煽り立てる発言をはき続けても、北方領土は日本に近づいてこない。(2009年4月26日脱稿)


プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「テロリズムの罠 右巻 忍び寄るファシズムの魅力」、「テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方」、「テロルとクーデターの予感 ラスプーチンかく語りき2」、「「諜報的生活」の技術 野蛮人のテーブルマナー」など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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