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【MiAUの眼光紙背】日本の著作権法は10年遅れ? ネット対応著作権法改正案が審議中

GoogleやオンラインRSSリーダー、ソーシャルブックマーク……。普段、我々が何の違和感もなく使っているインターネット上のサービスだが、日本の著作権法を厳密に解釈すると「違法」だと指摘されるものが少なくない。

端的な存在は今やネットに欠かせない存在となった検索サービスだ。ウェブサイトなどを収集し検索可能にする過程で、他人の著作物をサーバーのハードディスクに「コピー」しているので、日本では著作権者の許諾をいちいち取らないと「違法」になる。だからGoogleやYahoo!といった著名な検索サービスは、違法状態になるのを避けて日本にサーバを置いていない。

同じく著作権の問題が指摘されているものに、ネットオークションがある。美術品などの出品のため商品写真を掲載するのに、著作権者の許諾がいるというのだ。現に2007年、差し押さえた美術品を国税庁が公売にかけた際、ネットに商品画像を掲載したところ「著作権法違反の疑いがある」と文化庁に指摘された。

ネット検索もオークションも、現行法での「違法」行為をしなければ成り立たない。違法とすべき理由もなく「違法」なままなのはおかしい、と著作権法の改正案がこの3月10日に国会へ提出され、現在審議されている。前置きが長くなったが、この改正案の中身を見ていこう。

法案によって何が変わるのか。まずは前述の、ネット検索サーバの運用と、オークションでの商品写真掲載が「適法化」される。その他にも適法化の項目が用意されており――障害者福祉で録音図書や字幕入り映像ソフトが利用できる対象者を知的障害者などにも拡大する。国立国会図書館では資料保存のため、納本された資料をすぐにデジタル化できようになる。コンピュータネットワークの通信過程で生じる「キャッシュ」や、サーバの障害・機器故障に備えるデータのバックアップも、著作権の侵害だとされる心配がなくなる。

今までは権利者の許諾がなければできなかったことが可能になる。それらを見たかぎりでは、好ましい法改正に思える。しかし文部科学省が公表している実際の法案を読んでみると、そう単純な話でもない。

どこに問題があるのか? 例えば先に挙げた項目では、適法化される検索サービスは「政令」で定める基準を満たす者だけだ。もともとこの規定が作られるのは、硬直的な法律と解釈で「違法」と疑われる検索サービスが国内で育たなかった反省からきている。社会での新しい試みの芽を摘んでしまった反省は、「公正ならば著作権の侵害にならない」という抽象的ルール(フェアユース規定)を著作権法に追加し、後は裁判所の個別判断で柔軟に運用する――との方針が内閣府で出されるきっかけにもなった。ところがフェアユース規定を先回りした検索サービス関連の規定が、国会でも裁判所でもなく、政府が一存で決める「政令」に拘束されるおそれが生じてきた。反省が活かされていない。

ネットオークションでの商品画像も、ユーザーが画像を複製したり流用したりするのを抑止する「措置」を取ることとされる。この「措置」の内容も、やはり政令で決めるという。

今回の法案で引かれることになる数々の「違法」のラインは他にもある。たとえばネットで違法に配信されたものを録音・録画すると「違法」になる。私的複製が許される現行法では必ずしも違法と言えなかったが、法案で私的複製から除外すると明記される。違法配信との「事実を知りながら」行った場合だけ違法だが、どういった場合にこう解釈されるのかは明らかでない。しかも海外で適法配信されたものでも、国内で配信した場合を基準に「違法」か判断するという。著作権法は国によって異なるから、保護期間や利用を許す規定の違いでこうした事例は少なからず生じる。違法配信との不確かな情報が流れて、ユーザーのネット利用が萎縮してしまわないか心配だ。

また検索サービス運営者は、違法に配信された著作物がデータベースにあるのを知った時点でそれを検索結果に表示させてはならないという。通信時や受信時のキャッシュでも、違法に配信された著作物は「適法化」の対象とならない。キャッシュの方では、先ほどの私的複製の件との関係で、YouTubeやニコニコ動画に違法アップロードされた映像をユーザーが閲覧した場合、パソコンに残ったキャッシュが「違法」になるのではないかとの懸念が生じる(ただしキャッシュが著作権の及ぶ「複製」と解釈され得るのかは議論の余地がある)。

以上のような、今回の改正は評価できるところもあるものの、「違法」配信へ近づかないよう事業者やユーザーに過度に強いる部分も多い。著作権法が、ユーザーの情報収集をためらわせたり、海外のウェブサイトやウェブサービスの利用を萎縮させることにならないか。インターネット流れる著作物が適法配信かの判断材料は少ない。国内で適法配信マーク「エルマーク」の試みがあるが、それも国内の配信の一部でしかなく、海外の配信には適用されない。過度に適法配信を求めれば“情報鎖国”をするしかなくなる。インターネットに古くさい著作権法を対応させた結果ではあるが、すでに米国ではこの種の著作権法の対応は1998年に終わっている。10年前の米国著作権法にやっと2009年追いついたというのでは、ネットサービスで遅れを取るのも当然だ。今求められているのは、10年前ではなく、10年先を見越した著作権法だ。

悩ましいのは、今回の法案には歓迎すべき内容も確かにあることだ。「適法化」項目自体は関係者の長年の懸案だったものばかり。加えて、裁定制度の改善や、海賊版頒布の申し出(広告)行為の禁止など、比較的支持を得られそうな項目もある。

すぐに可決すべき項目は別の法案にでも切り離し、一方で懸念を解消すべき項目では、法案を修正するなり政府からの言質を取るなりする丁寧な審議ができないものか。そうした願いを抱きながら、国会の動向に注目したい。

(谷分章優/MIAU事務局長、フリーライター)

プロフィール:
MiAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:MiAU

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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